第1話 入学式
〜今思えば必然だった。あれほどの才能を放って置く理由など何処にもなかったのだ。魔神、女神、国、民、一番実力が分かっていたであろう本人達さえも〜
私達は帝都の真ん中にある噴水広場から少し離れた、人の目に留まりにくい路地を歩いていた。
「この噴水を見ていると、帝都来たんだ〜って感じするよね」
「いつだったか、前に来たことがあったよな。帝国の建国150周年記念の噴水だって祖父様と祖母様が言ってたぜ」
「昔ながらのレンガの上に苔とか蔓とか生えてるけど、それは歴史あるものの証として残しておこう、みたいな感性があるとも言ってたな」
「前に来たのは五年前で、城前広場の道の整備の影響で町並みは変わったのに相変わらず人が多いのは変わらないわね」
いつも帝都は人が多いが、今日はいつもよりも格段に多い。なぜなら今日はルファリア帝国の剣魔第一学園の入学式で、今は集合時間の二時間前。一般生徒はまだ学園の敷地内に入ることができない為、観光をする新入生で溢れているのだ。
◇
雑談を交え周りの目を縫うように歩いていくと、こちらもレンガ造の校門に行き着く。
「…馬鹿でっか」
高さが5mに届くかも分からないほどの大きさなのに謎の威圧感がある校門の奥には貴族の屋敷にありそうな庭園とテラスまである。私達以外に唯一敷地内にいた二人の新入生は男女それぞれの首席だ。
「よぉ、五年ぶりだなぁ。それにしてもルファリア帝国の第二皇子 レノア・ルファリア様が護衛もつけず歩いて大丈夫なのかよ。今や宮殿の人間も無条件では信用できないんだろ?刺客がどこに潜んでいるかもわからないのに」
「久しぶり、シェリム。護衛なら十分なくらいに強い、元帝国防衛局 の2トップが学園長と副学園長としているじゃないか。整備だってしっかりしているから無関係の人間だったら、たとえ宮殿の者でも入れないしね」
「それにもし此処で暗殺なんて目論んで、それが公になったときには一族の終わりよ。仮にも貴族がそんなことを仕出かすとは思えないわ」
「ノティスト公爵家継承順位1位のルテア・ノティストが言うならそうなのかもね。周りに気づかれず、手も汚さずに邪魔者を排除する方法も知っていたりするのかしら」
「アンリも馬鹿言わないで。うちは武闘派よ?大義名分を無理矢理にでもつけて公の場で処分するのよ。それが無理なときは分家か執事とかのある程度の頭脳派に任せるの」
軽口を叩きながら会場である講堂に向かった。
「じゃあ、僕らはそろそろ行くよ」
「新入生代表か。頑張ってね」
◇
第二王子と話していた赤髪の男と、ルテアと話していた緑髪の女。そして黒髪の男と私、リシェリア・サファイアの4人はSクラスで講堂の入学式には出ないので待ち合わせ場所である副学園長の執務室に行くと無精髭を生やした40代の男性教諭が待っていた。彼が先程の話に出た防局の元副局長の現副学園長だ。すぐに通された部屋は執務室の隣で、これから使う教室だと説明された。
「久しいなぁ。これから6年間Sクラスの担任をする副学園長のノルド・リデウドだ。エレネは元気か?」
「うん、多分 学生時代よりも動き回ってる」
ノルドやリオムが話している「エレネ」とは訳アリで私達の保護者のような事をしてくれているエレネ・アルフィリナの事だ。学園長、副学園長、エレネの3人は学生時代、Sクラスで同級生だったらしい。
「困ったら俺や学園長のルノアス・リュアティに言え。
それと、Sクラスってだけで突っかかってくる上級生がいるかもしれんので、目立たんようにな」
「自慢じゃないけど、Sクラスは去年あった幼少期実力審査制度で主催側の帝国防衛局の勧誘に応じた人しか入れないからね。それも勧誘される人が帝国内で10人もいたら超適材揃いってくらいなのに、入学試験で500点満点中490点以上取らなきゃいけない」
要するに不正解が10点以内じゃないといけない。
「だから常にこのクラスがあるわけじゃないし、前Sクラスは約30年前の現学園長達の世代で綺麗に被っているから、あたし達は目を掛けられていると思っているわけね。で、腹いせに私らに当たると。幼稚で恥ずかしいことするのね」
まあ、負けるわけ無いけど、とアンリが付け足す。ふとノルドが腕時計を見て言った。敷地内に入って、かれこれ1時間経っているので、集合時間まで残り1時間。現場の指揮をするのは副学院長なので忙しくなるはずだ。
「やべっ、そろそろ入学式が始まるから行くが、精々大人しくしていろよ」
―――あ?サボりか?遅れんなよ。
「さぼり?不良だねぇ」
「入学式はどうしたんだよ?ルテア…と生徒会長」
「はじめまして、生徒会長のファルト・ルティデアだよ。君達の事はルテアやレノア殿下から聞いてる」
「サボりサボりって言ってるあんた達のほうが余っ程サボりだと思うわよ」
「そらそうか。元々俺ら入学式に参加する予定さえないしな」
ルテアとレノアが一緒にいないのは新鮮だなぁ、と思いながら見ていたら察したようにルテアが言った。
「レノアはちゃんと仕事をしているわよ。私はファルトの案内みたいなもの」
じゃあ、お先に、と言ってルテアは去っていった。
「僕の役割は入学式の最後のほうだからぜんぜん大丈夫なんだよね!」
このサボり魔がよく生徒会長という役職につけているな、と思うが成績は実技と座学ともに優秀で、やることはしっかりやるし必要があれば周りの手伝いもする上、人望も厚く人脈も広く、人を動かすことに長けている。サボりに見えるがちゃんと仕事はやっているのだ。
「同じ帝国二大公爵家とはいえ、武闘派のノティスト公爵家に対して頭脳派のルティ
ディア公爵家だから行動の仕方がぜんっぜん違うのね」
「バリバリの武闘派である英雄家の君たちに良いことを教えてあげよう!さっき頭脳派のルティディア公爵家と言っていたね?確かに我が家は頭脳派ではあるが、あくまで比較的、必要があれば力で潰すことだって少なくないのだよ」
「まあ、役割が最後だとはいえ、新入生もいるからね。今日はもう行くからまた今度。いい試合を期待しているよ」
「試合?何のことだ?」
そうシェリムが聞いたときには、もうファルトは教室にいなかった。
◇
「今度の新入生は期待できそうか?」
廊下で控えていた副会長が聞いた。
「想像以上の豊作だったかな」
そしてファルトは、僕をがっかりさせないでね、とうっすら笑いながら教室を後にした。
初めてで言葉使いが拙いところがあると思いますが、これからどうぞよろしくお願いいたします。