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過去に戻れる自販機

作者: 二藍

人生の選択に後悔したことはありますか?

[この人生に悔いはない]


たったの一番高い値段のコイン一枚で、昔に戻れる自販機があったら貴方は使いますか?



「ねェ、お兄さん。過去に戻りたくない?」


会社員何年目がわからない帰り道。

三日月が綺麗な日。

いきなり小さい子供に声をかけられた。

咄嗟に見た銀の腕時計の針は八時を指している。

この時間に知らない男に声をかけてくる少女。そんな少女に“ほら、早く”と急がせる。

疲れきって回らない頭で着いて行ってしまった先には、昔ながらの動くおでんに赤い自販機が一台。

街灯がない道にあるのか、自販機の周りがより明るく見える。


「お兄さんは後の時代に戻りたい?

幼稚園なら缶ジュース。小学校ならジュース。

中学校なら炭酸ジュース。高校生ならお茶を。

大学生ならお酒。それ以外なら水。」

「は?」

少女とは思えないほど妖艶に笑う。灰色のボブの髪がキラリと光った。


目の前に出された自販機は暗い道の中、眩しいほど輝いている。

照明の中にある無数の飲み物。

怖いほど魅力的な自販機。

吸い付けられるかのように、無意識に伸ばしかけた手を途中で下ろす。


光に当たっていた手が途中で暗闇に戻って行った。

「どうしたの?お兄さん。過去に行けるんだよ?」

「過去には、戻りたくないな…」

「は?」

「理由を聞いても?ついでにここに座ってよ。」

指を指された先はおでん屋の古びた焦茶色の椅子。風格の出ている椅子。

その椅子に座りゆっくりと話し出した。


「過去に戻ったら最初はきっと楽しいと思う。でも、だけど、後悔もすると思うんだ。

人生は一度しかないから、全力で走っていると思う。

“もう一度人生が送れる”って素晴らしい事だと思うよ。だけど、人生一度しかないから楽しいんだ。一回過去に戻ってしまうと、それが癖になりそうで……。」


「なるほどね」


「あの時ああしていれば、と後悔が沢山ある。でも、それを直してもつまらない人生になると思う。

完璧な人生なんて、きっとつまらない。困難が人生という物語の醍醐味だと思うんだ。


だから、ここでの選択も悔やむことはあると思う。だけど人生の選択はゲームと違って変えられない。胸を張って生きていくしかないんだ。

たとえ間違っていても、それが自分の人生だと、最高の決断だと思っているよ。」


「なるほど、君みたいな考え方もあるのか……。」

「うん」

優しく微笑んだ少女。

「なら、おでんだけでも食べてく?」

「いいや、遠慮しとくよ」

「わかったよ。」


「貴方の人生に後悔があらん事を。」

「あぁ、ありがとう。」


「最後に聞いていい?」

「うん」

「この人生に悔いはあったかい?」

「いいや、この人生に悔いはない」

「ふふっ、そうかい。」



彼は暗闇の中、姿を消した。

一度もこちらを振り向かずに。


「暗闇の中進んでいくその度胸は

        君を幸せに導くだろう。」

読んで頂きありがとうございます。

反応して頂けると活動の励みになるので気軽にしていってください。

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