第93話 馬車の中
そして、準備をしっかり整えて大迷宮へと向かう。
レティシャはお留守番だ。
「お嬢様に傷一つ付けないようにお願いしますよ……」
この様に目付きの鋭いメイドさんがいても良いのでしょうか。
お願いという言葉とはマッチしない圧力で圧死させられそうな眼をしている。
「はい……ちゃんとがんばります」
時夫は気をつけの姿勢でちゃんとお答えした。
「意味わかってます?
私は邪教徒以上に貴方の方が危険だと……」
ゴゴゴゴゴ……………………
凄みのある笑顔だなぁ。
時夫は冷や汗が止まらない。
「トキオ、どうしました?早く行きますよ!」
「お嬢様!お気をつけて!」
レティシャが超絶可愛い笑顔でルミィをお見送りする。
落差が怖い。二重人格か?
馬車に乗り込む。今回も御者はジェイクにお任せする。
レティシャがいないから、ルミィと同じ馬車に乗る。
「ほら、イーナ乗れるか?手を貸すぞ」
「あら、時夫くん紳士ね」
イーナの次は、ルミィに手を貸す。
ひんやりした手をしっかり握る。
「……レティシャと随分と仲が良いみたいですね」
ルミィが何か別の世界線の話をしている。
こいつの目は節穴か?
「全然仲良く無いよ。むしろ嫌われてるかも」
「……レティシャは男の人が嫌いなんです。
なのに笑顔で話しかけてて……。
…………レティシャみたいな女の子をトキオはどう思ってるんですか」
笑顔といっても威圧する為の笑顔なんだけどなぁ。
ただ、時夫に見せている一面を主人であるルミィには見せたく無さそうな気はする。
ルミィは時夫の隣に座る。
「俺はもっと……なんか……一緒に冗談とか言い合えて、信頼して命任せられる感じの女の子が良いよ……」
恥ずかしくなって時夫の声が段々と小さくなる。
くそっ!告白してる様なもんじゃないか?
イーナが口元を手で押さえて時夫を見て楽しんでる。
顔が熱い。耳まであったかくなってきた。
時夫の乙女心は爆発寸前!
時夫の恋愛に関わる情報は子供の頃たまに見てた少女向けアニメがメインであり、恋愛ドラマや映画、本は見てこなかった。
そこらの女子高生より擦れてなくてピュアなのだ。
時夫は気持ち悪く頬を赤らめモジモジしていたが、ルミィはしっかり目に鈍感なので、時夫の気持ちは伝わらなかった。
「うーん……具体性に欠けていて、ふんわりしたイメージしか無いんですね」
「いや、この上なくしっかりイメージは……」
「にゃにゃ!?トキオ顔が赤いにゃ!風邪引いたかにゃん?そんなんで大迷宮攻略出来るのかにゃん?」
にゃんにゃん星人が現れた。
元気よく馬車に乗り込んできてトキオのオデコに手を当ててくる。
「ふむふむ。熱は無いようですにゃ。
あ、ルミィにゃん!席変わって!あたしトキオの隣が良い!」
「いや!座る位置決まってるから!法律で!」
時夫はケイティを押しやる。
スキンシップ過多の人はあっちに行け!
「そんな法律ある訳無いにゃ!ルミィにゃんは変わってくれるよね?」
「ダメです!法律でダメです!というか、ルミィにゃんって何ですか!」
「あたしは脱法猫ですにゃん!トキオもあたしが隣が良いよね?」
「ルミィが良い」
「にゃにー!?おっぱいはあたしが勝ってるのに!?」
「ルミィのおっぱいが良い」
「ちょっ!?トキオ!?」
しまった!本音が!
「いや、何というか……何と言いましょうか……」
……ダメだ。何て言えば良いんだ!?
「見ないでください!」
ルミィが胸元を隠す。顔が真っ赤だ。
微妙に時夫から距離を取ろうとする。
言い訳が思いつかない上に、つい話題に上ってるので視線がルミィの胸元を向いてしまおうとする。
レティシャがいなくて良かった。殺されてるところだ。
「時夫くん、女の子にそういう事言っちゃダメよ。
嫌われちゃうわよ」
「……はい。すみませんでした」
イーナが嗜めてくれて助かった。
「別に……嫌ったりはしないですけど、気を付けてください」
ルミィからも許しっぽいお言葉を頂戴した。
「あたしならおっぱいくらい見せてあげるのににゃー?」
「おっぱいなんて興味ない」
素っ気なくそう呟いた後時夫は大迷宮に着くまで空を見て過ごすことにした。
あ、あの雲おっぱいみたいな形してるなぁ。
時夫は雲を眺めながら馬車に揺られ続けた。




