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第91話 秘密を知った者

「では、ちょっと夜風に当たりましょうか。

 ここの支払いはお任せください。……レティシャ」


「……はい」


 ルミィが微笑みを浮かべてレティシャに命じる。

 レティシャも控えめな笑みを浮かべ、恭しく使用人としての礼をとる。

 

「え、ホント?奢って貰えて嬉しいにゃ〜」


 優美な足取りで先導するルミィ。

 ゆったりとした動きだが、一才の隙がない。

 ケイティは跳ねる様に楽しげに着いて行く。


 レティシャが戻ってきて、最後尾で時夫……では無くケイティを見張る。

 えーっと……先ほど以上に不穏な空気を感じる。


 外に出ると、ルミィはいつの間にか杖を握っていた。

 そのまま、街外れまで歩いて行く。

 誰も何も話さない。

 ケイティのその饒舌さもなりを潜めている。


 月明かりだけが周囲を照らす。月は二つともとっくに昇っていた。

 涼しい夜風が月光を受け止めて輝くルミィの金色の髪を靡かせる。

 ルミィが足を止めた。

 ケイティの手から、長い爪が伸びていることに時夫は今気が付いた。


「それで……」


 ケイティが口を開いた瞬間には、魔法の追い風に乗ったルミィが、ケイティの胸に手を伸ばしている。


「ちっ……!」


 だが、相手は獣人だ。

 それも特に瞬発力に優れた猫獣人。

 いかにルミィが人族の中で近接戦闘に長けていたとしても、生まれ持った資質が違う。

 

「……ふっ!」


 バックステップでルミィから逃れたケイティだったが、その先には殺意に満ちたメイドが待ち構えている。


 いつの間にか両手に黒いタガーナイフを構えていたレティシャは、信じられない程に低い体勢からケイティに迫る。


「うにゃは!人族の攻撃なんて!ってうわ!」


「『ウォーターカッター』」


 レティシャがタガーでケイティの首筋に近づけ囁くように呟いた。

 タガーから瞬間的に伸びた水の刃に切られ、ケイティの髪が数本風に舞う。

 タガーには良く見ると青い魔石が嵌っていた。水色の髪と瞳が表す様に、レティシャは水の魔法を得意とするらしい。

 そして、ルミィの配下だけあって接近戦の使い手だ。


 ケイティはしなやかな体で飛び跳ね、四つ足で着地し、全身のバネを使って……時夫に迫ってきた。


「トキオ!」


 ルミィが叫ぶ。


「『ウサギの足』『滑り止め』!!!」


 ビョン!と跳ぶ!


「『ウサギの足』『滑り止め』!!!」

「『ウサギの足』『滑り止め』!!!」

「『ウサギの足』『滑り止め』!!!」


 ビョンビョンビョン!!!


「え!?」

「トキオ!?」


「なんか面倒くさそうだから!皆んなで話し合うと良いと思うよ!!」


 それだけ言って、ひたすら大量の魔力にモノを言わせて高速で移動する。


 時夫はまさに脱兎の如くであった。

 なんか多分秘密を知ってしまったケイティはルミィに暗殺コロコロ殺されるって感じになるんだろうけど、時夫には関係ないかなって思うし、ルミィの後ろ暗そうな感じのところは見ないでおいた方が良さげな雰囲気なのでサヨナラする。


 ルミィは強いし、二人がかりなら負ける事は無い。

 きっと二人でボコボコにして、尋問拷問して情報全部吐き出させてから魔物の餌にするんだろうなぁ。


 ケイティは確かに可愛いしおっぱい大きいけど、ルミィの方が美人だし、時夫に色仕掛けは通じないのだ!

 だいたい成人済みかどうか怪しいしな!!君子危うきに近寄らず!


「ちょっと待ってー!あの二人やばいって!見捨てないでよ!!」


 ケイティの声が後ろから聞こえる。

 チィッ!!猫獣人足が速いな!?

 負けるかよ!!


「うおー!!!『ウサギの足』!!!!」


 時夫は偶に負けず嫌いになる。

 こうなった時夫には大人としての分別も、世間体も関係ない。


「負けるかー!!」


「トキオー!その人捕まえてください!」


 ルミィの声も聞こえる。

 多分レティシャは置いて飛んできたんだな。

 だが、


「知るかー!!俺は!!誰にも!!負けない!!」


「ちょっと!後ろのお姉さん怖いよ!助けてよ!」

 

 何故だかケイティは時夫を追いかけて来る。

 そして、時夫達はついに宿の近くまで来てしまった。


 宿の前に小さな人影。

 ボブカットの愛らしい少女が、身の丈を越える宝剣を高く掲げた。


「『光の檻』」


「うわ!」「きゃ!」「ほえ?」


 突然宙に光の剣が時夫の周りに何本も現れ、先に進めなくなった。

 後ろを見ると、ケイティとルミィも同様のようだ。


「遅いから心配してたのに……いったい何事かしら?」


 誰よりも大人な幼女の有無を言わさぬ笑顔に、時夫は肩をすくめる。

 レティシャも追いついた。


「あのー。冷静にお話し合いがしたいにゃーなんて、にゃ?」


 爪をしまってホールドアップしたケイティが愛想笑いを浮かべた。

 


 

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