第39話 カズオの探索
ルミィと今後について相談し、王子達とは別行動を取ることにした。
カズオが国境を超えてしまっているのならば、それを追うのはこの国の王子とその部隊では難しいだろう。
討伐部隊もおそらく解散はしないまでも、他国には行けないはずだ。
隣の国の許可無しに武力を携えた集団が行けるとは思えないし、許可が出るとしてもどれくらいの時間が掛かるか分からない。
「問題は、情報が入ってこないってところだよな。
何処へ向かっているのか」
「一応、北東の方角へ向かっているようです。
うちの国内の被害の順番でもそうでした。理由があって移動しているのか、片っ端から人間の住むところを狙っているのか……」
うーん……と時夫もルミィも良い案が思いつかず唸る。
ルミィの謎の人脈も他国まではカバーしてないだろうし。
「『探索』は一応人にも使えるんだよな?」
生き物に使えるのは飼い猫探しで確認済みだ。
「残念ながら人間相手はかなり限定的で、基本的に血縁関係が無いとダメなんです。
ただ、トキオの能力はかなり強いので、もしかしたら凄く遠縁の親戚くらいでも大丈夫かも知れないです。
あるいは一応同郷ですし、広く捉えて近しい集団のメンバーくらいに認定されれば……」
「とにかくやってみてから考えるか」
生活魔法のカリスマとしての実力が試される時か。
頼むぞ神様チート!
時夫は杖を取り出して、全力の魔力を注ぐ。
「『探索』」
いつも通り。いつもと変わらない感覚。
「……どうですか?トキオ」
黙りこくる時夫に、ルミィが控えめに訊ねる。
「ああ、わかったよ。いつもの『探索』と変わりなく、普通にどちらに行けば良いのか分かる。
……あっちだ」
時夫は杖を北東の方角へと向けた。
「流石生活魔法のカリスマ……これ、人探しとか手配書の犯人追うとかで金になりそうだな」
「今は金儲けよりも早く邪教徒を追いますよ。杖で移動します。案内お願いしますね」
ルミィの杖に二人乗りする。
久々の空の旅だ。
前よりもさらに快適になっている。ルミィは魔力が増強しただけでなく、技能もちゃんとレベルアップしているようだ。
国境線付近だけ、警備兵に見つからないように低く飛び、後は大空をひたすらに飛んだ。
「お前以外に空飛んでるやつとかあんまり見ないな」
時夫は正面を見つめるルミィに話しかける。
「結構高等技術なんですよ。風の魔法が使えないといけませんし、魔力もかなり必要なので、多くの風の魔法使いは数十メートルしか飛べません。
それでも、高いところにひとっ飛びできるから有用なんですけどね」
ルミィに偉ぶる様子は無かったが、すでに数キロメートルは二人乗りで飛んでいるのを考えると、もしかするとコイツはとんでもない魔法使いなのかも知れない。
益々なんで神殿で燻ってるのか謎である。
「あ、ちょっと方向修正。あっちの方だ」
時夫はカズオのいる方向を指を刺して、ルミィに軌道修正させる。
『探索』での対象物のある方向が分かる、この感覚をどう表現すべきか。
動物にある帰巣本能とやらは、もしかしたらこんな風なのかもな。
何故だかあそこにいるのだと、見えるわけでも無いのに確信してしまうのだ。
「近いぞ。もうすぐ見えるはずだ」
時夫はルミィに警告する。
そして、街道を走る馬車を発見した。
黒い馬が馬車を引いている。
馬は死に物狂いで走っている。鞭打たれている訳でもないのに、信じられない必死さで恐ろしい速度で進む。
近づいて分かったが、やはり魔獣だ。その馬の顔面は立て髪の毛で覆われ、目などとても見えるとは思えない。立て髪……と言っても良いのか分からない長い毛は体の前半分も覆っていた。
「異形となってますね……魔獣です」
ツノありウサギの様に、戦闘力を高める様な意味のある進化を遂げたよく居るタイプの魔獣と違い、カズオの力で魔獣化した動物達は、体の一部が増殖していたり、異常が発生してる部位が個体によって違うらしい。
「数が多い分、作りが雑になってるんだな」
ネズミなんかはただ尻尾が10本になっていたり、爪が伸びていたりと脅威となる程の変化は無いものが多かったらしい。
しかし、その攻撃を受けると瘴気に体が蝕まれてしまうために、数が揃っていることで非常に厄介なことになっている。
「トキオ、お願いします」
ルミィは二人分の飛翔のために魔力と意識の全てを注いでいる。
最初の攻撃は時夫の役目だ。
ルミィが速度を僅かに上げて馬車に近づく。
「よし!先ずは馬を射よってな」
時夫は空間収納から水の入ったガラス瓶を馬の目の前に出し、
「『乾燥』」
内部の水を一気に気化させた。
パーンッ!!!
気化した水は体積が一気に膨れ上がり、ガラス瓶を破裂させた。
馬が驚き慌てふためき、カズオの制御を離れて暴れ出す。
「『ウィンドスラッシュ』!」
ルミィが時夫を風に乗せて杖から放り出しつつ、馬の首をひと息に跳ね飛ばした。
「弱ったな……どうして俺の居場所が分かった?」
カズオが突然の襲撃にも関わらず落ち着き払って質問をする。
そのすぐ側には三匹の黒い大きな犬。
体に大量の目玉がついたハイセンスな犬たちだ。
「どうも魔法は同郷の俺たちに絆を感じちゃってるらしいぜ?」
そして、時夫は髪と瞳に掛かった魔法を解いた。
黒目黒髪の時夫を見て、カズオは金色の目を細めた。
その瞳に浮かぶのは安堵と喜び。
「ああ…………良かった。良かった。良かった……良かったよ。日本人みてぇな名前だと思ってたんだ。
だけど赤毛だから違うのかと……。
お前が……巻き込まれた日本人だったか。よくぞ無事で……」
カズオは何かに祈る様に手を合わせてながら時夫の無事を喜んだ。
祈る先は神では無いだろう。カズオはとっくに神に見放されている。
「爺さん、俺を探していたろ。何の用だ?」
どうもカズオには敵対心は無いようで調子が狂う。
「お前……時夫と言ったな。時夫、日本に帰りなさい。お前を待つ家族がいるだろう。
俺の邪魔をするな……きっとお前と聖女のお嬢さんは日本に帰してやる」
薄汚い老人の瞳には決意の色があった。
「ご親切にどうも。でも、病気を撒き散らされちゃ困るんだ。
日本に帰る方法を教えてくれつつ、あちこち襲うのをやめて貰うってのは無理かな?」
カズオがゆっくり首を振る。
「俺はもう止まるつもりは無い。俺はこの世界に復讐して死ぬ。
怪我くらいは我慢して貰うぞ」
犬たちがカズオを守るように前に進み出た。
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