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第34話 今後の予定

 伊織はそのまましばらく泣き続けた。


 時夫は罪悪感で胸がチクチクと痛んだ。

 時夫のせいじゃ無いとはいえ、伊織にちゃんと聖女の力が宿っていれば、伊織の地位は盤石だった。

 もし少し、家族と引き離され、日本の常識の通じないところでも上手く生きていけたはずだ。

 必要な力を持たず、知識も得られない伊織は、明るく振る舞って周囲に媚を売り続けるしか生きる方法を見つけられなかったのだ。

 そして、カズオに日本に帰れる可能性を示され、時夫がそうとは言わずとも同郷の感性を見せた事で、伊織の感情が決壊した。


 気ままな一人暮らしで、仕事とアパートの往復をしていた時夫と違って、伊織は両親や友人達からいきなり引き離されて来たのだ。

 時夫はそれなりに気ままな新たな生活に満足しているが、碌な娯楽も無い生活は若い女の子にはどれ程辛いだろうか。

 そして、その気ままな時夫の生活は、伊織が時夫の影武者として聖女として活動してくれてる犠牲の上にあったのだ。

 伊織は笑顔の陰で苦悩し続けていた。

 その悩みは伊織にとっては文字どおりの命取りになりかねない。

 周囲に悟られ聖女の座を他に奪われれば、この国はすぐ様伊織を魔物が彷徨く森や平野に放逐しかねない。

 命綱の王子も、どうにも女好きな様子で頼りない。……時夫の女バージョンに妙に興味を持っていたし。

 

 それにしても損切り早すぎだろ……。

 伊織が思ったより使えないからと、もう次の聖女召喚を考えてるなんて。

 王子はそれを知っているのだろうか。

 それとも伊織にはっぱをかける為にそう聞かせたのだろうか。


 伊織自身にも手伝ってもらおう。

 この学園には、そもそも協力者を求めてやって来たのだ。

 伊織の啜り泣く声が少し落ち着いて来た頃、時夫はハンカチを渡してから切り出した。


「なあ、君の周りの人の中で、今の君の状況を何とかしようとしてくれてる人いる?

 君の話をちゃんと聞いてくれそうな可能性のある人は」


 伊織はハンカチに顔を埋めたまま答えた。


「リック……アレクの乳母子の……あと、パトリーシャは……良い人だと思う」


「そっか……ありがとう。

 俺も……学園がこのままじゃ働きにくいし、次の仕事の為にも君の状況が良くなるように働きかけてみるよ。

 きっと上手くいく。でも、少しだけ時間をくれ。必ずどうにかする」


 何をどうするか、本当に何か出来るのか、なんて今は何も思いついていない。でも、時夫は必ず何とかしてやるつもりだ。

 時夫は伊織を立派な聖女にして……そして、カズオを止めるついでに日本に帰る方法とやらを聞いてやる。


「どうして……トッキーさんは、私のためにそこまでしてくれるんですか?」


 ハンカチから涙で潤んだ目元だけ出して、しゃっくりあげながら伊織が聞く。

 罪悪感とこの世界と王族への怒りからかな……とは言えない。


「俺が正義の冒険者だからだよ。……誰もそんな風に言ってはくれないけど、正義のヒーローなんだ。

 聖女様だけでも応援してくれたら多分すぐにでもなれるかな。

 まだようやくクラス3になった所だけどね」


 時夫がおどけて言うと、ようやく伊織の表情がやわらぎ、クスリと笑った。

 良かった。女の子の扱いはわからないけど、滑って白けなくて良かった。


「じゃあ……応援してるので、早く正義のヒーローとして有名人になってくださいね」


「応援ありがとう!」


 伊織の声援に応え、サムズアップしながらニヤリと笑った。ニヒルに笑ったつもりだけど、鏡がないからカッコよかったかどうかは謎だ。

 

 ♢♢♢♢♢


「……と、言うわけで齋藤さんの推薦もあり、俺たちが狙うのはリックって奴とパトリーシャ嬢だ」


「なるほどですね!……私からも報告があります!」


 時夫はルミィに調査結果を報告した。そしてルミィからも報告があるらしい。


「なんか明日パトリーシャさんが断罪されるそうです!」


「ふーん。なるほど、断罪……断罪!?ええーーーーー!?」


 ルミィの元気いっぱいの報告は、謎イベント発生のお知らせだった。

 

 


 

パトリーシャ嬢が断罪される理由は、パトリーシャ嬢が公爵令嬢だからです。公爵令嬢はとりあえず断罪される存在だと言う認識です。

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