第131話 異世界との思い出
ルミィは中々戻って来なかった。
これまでも何日か神殿を空けることはあったが、時夫はソワソワと落ち着かない。
イーナはこれまでと同じ様に過ごしている。
イーナは日本に帰らないんだもんなぁ……。
いつまで……この世界にいても良いんだろうか。
ルミィが帰ってきたら直ぐに日本に行くことになったりはしないんだよな?
流石に毎日メソメソ泣いて過ごしたりはしない。
日中街に出掛けて、暴動の後始末を手伝ったりもする。
魔道具屋のウィル一家が、中心となって暴動で壊れた物を安く直したりするのを、時夫も手伝いに行く。
「有難いけど故郷に帰る準備は良いのかい?」
ウィルが時夫を労いつつも心配してくれる。
「別に大した荷物も無いから。
……あっち戻ったら新しく仕事探さなくっちゃなぁ」
流石にクビになっているだろう。
両親や祖母にも直ぐに連絡を入れなくては。
心配しているだろうな。
……こうして、こちらの世界でグダグダ過ごしている事にも少しは罪悪感がある。
「でも、『接着』や『剥離』が使えるんだし、結構器用なんだから困ったら大工としてやっていけるよ。
向こうでも仕事を選り好みしなければ生きていけるさ」
「ハハハ…………」
説明が面倒くさいので、時夫は適当に笑って誤魔化す。
あちらではそもそも魔法が無い……と言うのを説明しても中々理解はして貰えないし、それを理解した上でも、それなら珍しい存在として更に注目されて活躍できるじゃ無いかと言う人もいる。
日本で魔法を使う奴なんていたら、どっかの研究機関の実験台にでもされるんじゃ無いかな?
……SFな小説の読み過ぎか?
でも、きっと碌なことにはならないだろう。
そもそも日本で魔法は使えない可能性の方が高い。
使えたとしても魔力の回復が出来ないと思われる。
「それでルミィさんは連れて行くのかい?」
「いやいやいや……無理だよ。連れて行けない」
ルミィがお姫様だと知らないウィルは、中々突っ込んだ質問をしてくる。
今やルミィは時期女王確定と噂されている。
そもそも連れて行けるかどうか分からない。
「そっかぁ……。なんか寂しくなるなぁ。
またこっち来てくれよ」
「俺も寂しいですよ。来れたら来ますから」
「絶対です!絶対に戻ってきてください!」
近くで聞いていたらしいミーシャが勢いよく言ってきた。
「お……おう」
その勢いに押されて、時夫は出来もしない返事をしてしまう。
そもそもこっちに来たのも時夫の意思では無いので、そんなこと言われてもどうしようも無いのだが。
「帰ってくる頃には俺の方がずっと身長高くなってそうだよなー」
早くも時夫とほぼ変わらない身長のテオールがニヤニヤと声を掛けてくる。
クソッ!近くに寄るでない。
「ちゃんとお家にもどってくるんだよ」「やくそくね」
双子のカイとルルーも帰還を望んでくれる。
そんな年寄りでもないし、バトリーザ戦で金粉浴びた影響で少し肉体は若返ってる筈なのに涙腺が最近すぐに緩みそうになる。
「でも……いや、俺もまたお前達と会いたいよ」
「やったー」「きゃー」
双子ははしゃぎながら時夫に抱き付く。
時夫も抱き上げつつクルクル回ってやる。
時夫はきっとこの家族を忘れない。
次にギルドの方に寄った。
「あ、トキオさん!」
「お、トキオじゃないか。
いつ帰るんだ?急ぐ事は無いんだ。もう少し居られるだろ?」
コニーとギルド長が笑顔で出迎えてくれた。
「俺の一存じゃ滞在期間は決められないからなぁ」
時夫と伊織を日本に送り出すのも結構大変らしい。
送り出すなら同時になるので、時夫のワガママで伊織までこの世界に留めておく事は出来ない。
伊織はもしかしたら高校を一年留年する事になるかも知れないが、それはもう覚悟出来ているそうだ。
モヒカン系冒険者達を見る事も、もう無くなるかも知れないと思うと少し寂しい……かな?
まあ、日本に戻ったらあれくらいハッチャケてる奴らはそうそう居ないから今のうちだな。
「ん?何をしてるんだ?それは何だ?」
「ああ、携帯電話って奴……えーっと、これを使って写真の情報を中に溜めておけるんだよ」
殆どの時間を収納に入れてなるべくバッテリーを温存していたが、今はこの世界の写真を撮りまくっている。
「ふーん……何撮ったか見せてくれ」
「あ、私も見たいです!」
ギルド長とコニーに写真のデータを見せる。
「へー……もっとよく見せてくれ。
指で擦ると色々見えるんだな」
「あ、ちょっと待って……!」
時夫が止めるのも聞かずに、ギルド長は手元に取り上げて写真をコニーと一緒に眺めて……携帯電話を返して来た。
「ふーん……本当にお前向こうに帰るのか?一人で?連れて行かないのか?」
「…………まあ、そうです」
コソコソ撮っていた写真を……あと動画も少々あったのも見られた。
「きっと……また帰って来てくれますよね?」
「あー……出来たら」
どうやって時夫がこっちに来たか知らないから皆簡単に言ってくれる。
時夫の力ではこちらに来る事なんて出来ないのに。
でも、優しさから言ってくれている言葉を否定したりしない。
嘘は出来るだけ吐きたくないから、曖昧な返答になるけど。
「俺……店の方見てくるから!」
時夫は恥ずかしくなって、そそくさとギルドを出る。
……前に、コニーとギルド長に声を掛ける。
「写真撮るから笑って!」
二人は歯を見せていつも通りの笑顔を見せてくれた。
背後でモヒカン達もポーズを取っているのはご愛嬌。
店の方に顔を出すと、フォクシーが声を掛けてくれた。
「あ、オーナー!」
店にはモーガン刑事と部下の警察官、そして何故かタークと怪盗タコネズミこと、タリサがいた。
すっかり常連になっている。
「タークさんは今日は大人しいですよ!」
フォクシーが笑顔で報告する。
「な……!?な、な、な、何を言っているんだ!
大人しいって!?僕は常に紳士的だ!」
タークはオロオロとタリサとモーガン刑事を見ている。
特にタリサの方を見る回数が多い事から、タークが最近悪さをしなくなった理由を察する。
「はいはい。店は順調みたいだな」
「はい!アルバイトの子達も頑張ってますよ」
「……店はフォクシーに任せるよ。権利も全てやるから、頑張って守っていて欲しい」
「…………わかりました。大事にお預かりします」
フォクシーはニコリと笑った。
白いフサフサ尻尾が優しく左右に揺れる。
「…………頼んだぞ」
みんなに気を遣われちゃってるな。
「よし!写真撮るから、皆笑顔で!」
「何だそれ?新しい魔道具か?」
「そんな感じ!じゃあ行くぞ!さん!に!いち!」
フォクシーと店員達はとびきりの笑顔で、タリサは照れたように笑い、タークはカッコ付けか臍曲りか斜めを向いて、モーガン刑事達は敬礼をしてくれた。
そして、串焼き肉を食べつつ神殿に帰ると、ルミィが帰って来ていた。
「よお……おかえり」
「はい、ただいま、トキオ」
ルミィが時夫を見て嬉しそうに笑う。
来ているのはいつもの神官の服ではなく、見るからに生地の良いドレスで、ルミィが王女様なのがようやく実感できた。
「動き辛いので着替えて来ます」
「一人で平気か?」
「……時夫が脱がせてくれるんですか?」
「い、いや、その………………」
「期待してないですよーだ!一人で大丈夫です!」
ルミィの後ろ姿を見送る。
参ったなぁ……。
きっと日本に帰って何年経ったところで、あんなに可愛い女には出会えない。
そして、ルミィに日本への帰還の予定を告げられた。
2日後。
それで時夫はこの世界を後にする。
ルミィを置いて。
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