第123話 リックの語るアレックス
「伊織ちゃんはいないのか?どうしてリックが?」
リックに詰め寄ろうとする時夫をルミィが片手で制す。
ルミィは厳しい目で杖をリックに向けていた。
「バッジを奪ったんですか?」
「まあ……そんな感じです」
ルミィの詰問するような声に、リックは力無く答えた。
ルミィの目付きが悪くなったので、リックは慌てて言い直した。
「いや、偶に手に持っていて不審だったので、他の見張りに奪われるよりも良いだろうと思って、私が持っておく事にしたんです!」
ルミィの目付きは変わらない。
「困ったなぁ……」
リックは本当に困っていそうに、癖のある紺色の髪を弄った。
「第一王子の側近中の側近なら色々知っているのではない?
前に買った自白薬も何本か残ってるのよね?拷問探偵さん?」
イーナがルミィをけしかけようとする。
イーナはイーナで見た目に似合わず怖いんだよなぁ。
ここは時夫が間に入らなければ、リックは廃人にされてしまう。
女性人は殺気を隠す気すらない。
「あー……無駄な抵抗は止め、投降するように……」
時夫はなるべく真面目な顔で呼びかける。
田舎のお母さんが泣いてるぞーとか言った方が良いもん?
「はい……投降します。
………………何もかもお話ししますから、命だけは助けて貰えませんか?」
「投稿するって!よし!早く話せ!ルミィ達の気が変わらない間にな!」
投降の言葉を引き出せたので、時夫は急いでリックに吐かせようと頑張る。
流石に喋った後には殺したりしないよな……?
「『エアーバインド』」
リックは拘束された。
時夫は安堵の息を吐いた。
ルミィ達の殺気が軽減している。
何故、時夫は異世界で美女と美少女の殺気の管理をしているのだろう。
時夫は手早くリックを風の拘束の上から更に拘束具で動けなくする。
お隣の国で貰えた攻撃魔法が使えなくなる首輪も付けて、地面に座らせる。
よしッ!
…………なんだか犯罪臭い手際が上手くなっちまった。
日本に帰れたとして真っ当に生きていけるだろうか。
リックが危険物を所持していないか、ルミィとイーナの指示で確認して、ようやくリックは口を開く事を許された。
コレじゃどっちが悪者かわからんね。
もちろん、ルミィとイーナは杖も剣も下ろしていないし。
「国王の乱心は……アレックスのせいです。
アイツはハーシュレイの手下に、邪教徒になりました」
リックはその経緯を話した。
アレックスは次の国王になる事を望んでいた……と言うよりも、そうなる事を当然と考えて生きて来たらしい。
アレックスは姉であるエルミナの存在を知るまでは、自分を国王の第一子だと思っていたし、存在を知った後も王妃の子供であるアレックスと、外国出身の伯爵夫人から生まれたエルミナとの間には覆すのが難しい立場の違いがあった。
王妃も周囲もそのように王子を育てた。
エルミナは冷遇されていた。
王族とは中々認められなかった。
アレックスは自分が上と思えばこそ、そんなエルミナを姉と認める事も出来ていたのだ。
しかし、エルミナは優秀だった。
アレックスと比べて……では無い。
アレックスは傲慢だが、ああ見えて学業成績は良いし、魔力もかなりある。
ただ……エルミナが歴代の王族の中で飛び抜けていたのだ。
戦争で獅子奮迅の活躍したエルミナを国民は讃え、その人気を利用できると考えた国王は、突然にエルミナを自分の娘と……王位継承権の持ち主と認めた。
アレックスの地位は突然揺らぐ事となった。
しかし、国王にとって誤算だったのは、エルミナが自ら神殿に入って、偽名で暮らす事を選んだ事だ。
「弟達と争ってまで女王にはなりたく無かっただけですよ。
ただ……王族と認められる事が目的でした。
伯爵家でも、伯爵とは血の繋がりがない事で浮いてましたから」
ルミィは補足するように言った。
ルミィの母親はとっくに国に帰ってしまっているらしい。
だから、伯爵家ではルミィと血の繋がりのある人は誰もいなかった。
王女では無い国王の娘を伯爵家は扱いに困り、持て余していたのだという。
……だから、ダメな弟のアレックスの為に若くして自ら隠居したのだろう。
そんなアレックスにとって、エルミナが自分の下で聖女召喚に携わったのは喜ばしい事だった。
アレックスは聖女召喚の中心人物として歴史的な偉業を成し遂げ、順風満帆なはずだった。
しかし、カズオがパレードに水を差してから、国民の人気は急落した。
聖女であるはずの伊織も力を中々発揮しない。
それだけじゃ無く、気が付けば王子と距離を取るようになってしまった。
そして、友人だったフィリー・ゴールダマインが邪教徒になった事で、段々とおかしくなってしまい、ついに自ら邪教徒になったそうだ。
「気を付けて下さい。アイツの能力は血の繋がりのある者を操る事です。
だからエルミナ様はアイツと会わないようにした方がいいと思います。
出来るだけ距離を取らないと……。
そして、王族だけじゃ無い……。特に高位貴族は多かれ少なかれ王族と血の繋がりがありますから、血が近い程に強く影響を受けるようなんです」
「リックは平気なの?」
「私は常日頃からアレックスに絶対服従してますから。
能力を使う必要性を感じなかったみたいですね」
リックはハハ……と皮肉げに笑った。
「だから……ジェレミーもパトリーシャも、パトリーシャの両親達までもが抵抗無く殺されたんですね。
非常に強力な能力です。
………………あなたが本当に能力の影響下に無いか試す方法があれば良いのですが」
ルミィがリックをジーッと見定めようとする様に目を細めて見つめる。
リックは居心地悪そうだ。
「方法かぁ……方法は分からないけど、分からない事があった時に便利な奴なら知ってるよ」
「今から聞きに行くの?」
イーナが小首を傾げる。
可愛い。
「いや、今すぐ来てもらうのさ。ルミィ、祈ってくれ」
「成る程ですね」
ルミィが跪いた。
最終章なので言い忘れが無い様に偶に説明がくどくなりそうですが、ご容赦ください(>人<;)




