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第120話 王の乱心

 薬屋に人目を憚りつつ急いだ。


「待ってたよ」


 時夫達の姿を見て、すぐに近付いて来てそう言うとんがり帽子の魔女の店主も、いつもの様な飄々とした調子ではない。

 真面目な表情に、時夫も更に今の状況が如何に緊迫したものなのか実感が湧いてくる。


 しかし、事態は想定よりも悪かった。


「イオリが攫われた。おそらく王宮にいる」


「何で……!?ここに引きこもっていたんじゃ無いのか!?」


 時夫は店主に詰め寄った。

 とんがり帽子がずり落ちるのを、店主は片手で抑える。


「……すまない。ラビンが外に出ているのを心配して迎えに行くと言って飛び出してしまったんだ」


 ラビンはここで世話をしているウサギ獣人の男の子だ。

 

「……ラビンは?」


「入れ違いに戻って来たよ。探しに出掛けたんだが、兵士達に連れられて行くのが見えた。

 もしかすると、誰かの私物をこっそり持たされていて、『探索』で場所を特定されたのかもしれない。

 フードで顔は隠していたはずなんだ」


 店主は悔しそうだ。

 時夫も唇を噛む。

『探索』にはこれまで何度も助けて貰えたが、別に時夫の固有魔法では無い。


 あまり貴族が好まない生活魔法に属するが、便利さを考えれば使える人間を王宮で囲っているの不自然では無い。


「俺もその可能性を考えるべきだった。

 今となっては、発見場所がここじゃなくて良かったよ。

 避難先は確保できたんだ。

 俺たちは伊織ちゃんを助けに行く。でも、その前に何がこの国であったのか知りたいんだ」


 地下室へ下りる階段からヒョッコリと頭を覗かせているのは獣人の子供達だ。


「そうだね。まあ……座ってよ。そんなに長々とは話さないからさ」


 タークは地下の方に子供達を誘導した。

 時夫達は勧められた椅子に座る。


「国王が突然の御乱心だよ。

 ハーシュレイを唯一神として認めて、その権威の復興の為に注力しながら、不浄な民の国民としての権利を制限するとな」


「その不浄な民っていうのが……」


「前にあったパレードで王都から追い出そうとした人達だよ。

 流民と獣人……とかね。

 ただ……獣人なんてハーシュレイ側と言っても良いのに。何を考えているんだか」


「バカなのはアレックスだけじゃ無かったのか?」


 アレックス第一王子は次の王と目されながら、今は冷飯を食っていた筈だ。

 そして、その落ちた地位をどうにかしようと、伊織の聖女としての立場を固めて娶ろうとしていた。

 ……伊織まで隣国のユスティアのせいで、立場は弱くなっていたが。

  

「第一王子のバカが国王に移ったとしか思えない。

 …………広間は見たか?」


 店主は暗い顔で聞く。


 時夫達は首を振った。


「王族でも……貴族でも構わず処刑している。

 …………王族はそれぞれが強力な魔法の持ち主だけど、無抵抗に死んでいったらしいね」


「……誰です?誰が死んだんですか?」


 ルミィが口を挟んだ。

 落ち着いた口調……の様に思えるが、普段より少し早口だった。


「……ジェレミー第二王子さ。それとその近しい人達だね」


「……確認しに行きます」


 呟き、ルミィが立ち上がった。


「俺も行くよ」


「行きましょう」


 イーナもそれに続いた。


「気をつけて行っておいで」


 店主に後ろ手に手を振って時夫達はフードを目深に被って足早に広場を目指した。



 広場には人が集まっていた。

 先が見通せないので、ルミィはイーナを杖に乗せ、時夫は『ウサギの足』で建物の屋根に飛び乗った。


 人々の罵声や悲鳴の様な声が煩い。

 その人だかりの先、兵士達が集まる人達を押し留める先に、それは風に揺れていた。


 まだ少年と思しき体が、紐に吊るされて揺れていた。

 その隣りの長い栗色の髪の豪奢なドレスの少女が誰か、時夫は思い至った。

 


「ジェレミー……」


 ルミィの小さな声は悲痛に満ちていた。

 ジェレミー王子の隣で婚約者のパトリーシャがゆっくりと揺れている。

 他にも貴族らしい人達の体が、首を括られ、ゆっくりと左右に揺れていた。


「一体……何が起きたんだ?」


 時夫は知り合いの死に悲しみつつも、困惑が勝る。

 僅かな期間でどうしてこんな事が起きたのか。


 それに対して、ルミィはいつも通りの顔で、宣言する。

 表面上は先程見せた悲しみは見えない。

 

「決まっています。新しい邪教徒が現れたんです。

 やる事はいつもと変わりません。

 ………………討伐します」


「ああ……そうだな」


 伊織を助け出す。

 そして邪教徒は殺す。

 


 

 

 


 

 

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