第119話 アーシュラン国の異変
ラスティアを討伐し、時夫達はアーシュランへ帰国する。
「次のアルマからのボーナス何にするかなー?」
温泉でゆっくりして、心身が回復した時夫は杖の上で景色を楽しみながら呟いた。
「私は魔力にしたいわ。せっかく魔法陣を直ぐに生成できる様になったんだもの」
時夫の背中にピッタリとくっ付いたイーナも機嫌が良い。
確かに光魔法のペンはかなり強力だが、何度も使うには余りにも魔力の消費が激しい。
アルマのボーナスで魔力量がメチャクチャ多くなってるはずなのに、残量を気に掛けるなんて事久しぶりだった。
現在の杖での移動は低速で魔力消費を抑えての飛行となっている。
ルミィの金髪の長い髪が風にたなびいて、時夫の頬を撫でてくすぐったい。
手で掬うと指の間を優しく溢れる。
「ん?何ですか?」
ルミィが一瞬だけ振り向いて、また前を向いてしまう。
飛行中のルミィは安全運転を遵守するから、結構静かだ。
「んにゃ。何でも無い」
良い匂いがするし、くすぐったいのも我慢できる。
むしろもっと楽しみたいくらいなので、変に指摘するのはやめておいた。
「時夫くん……なんか変な事考えてない?」
後ろから幼女の指摘を受けた。
この幼女……年の功で鋭すぎる。
「い……いえ、別に。
あ、ルミィ、あとどれくらいで着くんだ?」
そして時夫は誤魔化すのが下手だった。
「もう直ぐです……が、何かおかしいです」
ルミィの声が緊迫していた。
「何だ?敵か?」
時夫も身構える。
ルミィの見ている真正面、王都が見えているが……。
暫くして近づいてきて、時夫の目にも何がおかしいのかがわかる様になってきた。
「火事……?」
煙が上がっている。
それも、一ヶ所二ヶ所では無い。
「一体何が起きているんだ?」
火事なら王都は国王のお膝元である訳だし、直ぐにでも水系の魔法使いが派遣されて火は消し止められるはずだ。
「急ぎます」
ルミィが緑色の大きな魔石を取り出した。
杖は加速し、魔石はあっという間に粉々に砕け散る。
そして、次の魔石を注ぎ込む。
「おい!こっちだ!逃げろ!」
「助けて!」
「捕まえろ!」
王都は変わり果てていた。
店が破壊され、殴り合いの喧嘩もあった。
兵士と警察官達が睨み合っている。
その中に知り合いの刑事を見つけて、時夫は声を掛けに行く。
「モルガー刑事!何があったんですか!?」
時夫を見て、モルガー刑事は少しだけ嬉しそうな顔をした。
「知らないんですか?もしや王都を離れていらっしゃった?
国王が……他の王族も御乱心なんですよ。
獣人や流民を殺せと言い出して、懸賞金をかけ始めたんです。
……警察官の中にも国王側に付く者が多いですが、私の正義は流石にそんな事は許しません!
……怯むな!住民を守れー!」
モルガー刑事が部下達を懸命に鼓舞している。
自身も土魔法で土塊を飛ばして兵士達を牽制しているが、何処まで持つか。
「コニーとフォクシーが危険じゃないか!?
店に行くぞ!」
時夫はルミィとイーナに声を掛けて、先を急ぐ。
店は荒らされていた。
「……………………そんな」
魔法の存在する世界の暴徒だ。
店を荒らした中には冒険者も含まれていたんじゃないだろうか。
時夫は呆然としながら店の中に足を踏み入れる。
蹴倒された椅子。
割れた皿の破片が床に散らばっている。
「――中には誰もいません。逃げたか……」
ルミィが言葉を切る。
逃げられなかった場合……何処かへ連行されるのか。あまり酷い想像はしたくない。
この世界の命の軽さは身に染みている。
その時、息を切らした男が店の入り口付近に姿を現した。
「トキオ!こっちだ!コニーたんもフォクシーたんも無事だ!着いてきてくれ!」
そこにいたのは、なんとターク・ナーデッドだった。
フードを被った小さい子供を抱きかかえている。
他にも幼い子供達をゾロゾロと連れ立っていた。
未成年誘拐…………の文字が頭に浮かんだが、怪盗タコネズミこと、タリサの所で子供達に文字の読み書きを教えるボランティアをしていたので、そこの子供達だろうか。
タークが抱えるフードの子供はどうやら獣人らしかった。
「僕はタリサと一緒になるべく沢山の獣人に声を掛けて回っている。
子供達も親御さんと合流出来たらツテを使って周辺の都市に避難させるつもりだけどさ……一旦薬屋の地下に待っ貰っているんだ。
コニーたん達もそこにいる。
しかし、困ったよ。暴動も昨日まではまだ全然小規模だったのに……」
盗撮犯で他にも多数の罪状がありそうなタークは、どうやら非常時にはちゃんと動けるようだ。
「わかった。とにかく薬屋に行こう」
薬屋の地下とか初めて聞いたが、まあ、あの人はどんな秘密を持っていても驚かない。
ターク達と行動を共にすると、すぐに声が掛かった。
「おい!その子供のフードを取れ!」
人相の悪そうな男がタークの抱える子供を指差した。
「……逃げるか?」
時夫はボソッと呟いた。
タークはそんなに早く走れなさそうだから、時夫が子供を連れて行っても良いが……。
しかし、タークは一歩進み出ると、短めのシンプルな杖をサッと相手の顔に突きつけた。
「『エレクトリック・ショック』」
――バチンッ!
弾けるような音がして、男は身体を痙攣させて地面に伏した。
手足をピクピクさせている。
「な……なん………………?」
喋ることも覚束ない様子だ。
「雷魔法とは……しかも攻撃魔法!?」
ルミィが驚いている。
攻撃魔法は、一般人はあまり使わない。
それなりに習わないと使えるようにならないし、使える人はそれを活かした職種に付いていることが多い。
雷魔法は珍しかったはずだ。
この国のアホ王子も使うが、他はあまり見た事がない。
「雷魔法の適性持ちはかなりの高位貴族ばかりなのですが……」
ルミィの目は胡乱げにタークを見ている。
タークは全く貴族っぽくないしなぁ。
「ふ……バレてしまっては仕方がない。
実は僕はマルズの国王の庶子………………」
「んー……なんか話が長くなりそうだから、その話はすごく暇で暇で仕方が無くなったらにしよう!そうしよう!
早く薬屋に行こうぜ!」
タークの出生の秘密とか誰得過ぎるのでパスした。
先を急ごう。
なかなか更新しなくて申し訳なかったです。
最終章なので、あと少しお付き合いください。




