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第117話 偽物

 時夫は……いや、違った。

 時夫ラスティアver.はラスティアから奪った法衣を羽織った。


「ユ……スティア?」


 ラスティアが目を見開いて呆然と呟いた。

 時夫はそれを無視して名乗りをあげる。


「私が本物のラスティアだ!」


 時夫叫んだ。ふっ……決まった!


「ラスティア……?」


 周囲に集まってきた兵士達が不思議そうに時夫の叫んだ名前を復唱した。

 あ、そっか普段はこいつユスティアって名乗ってるんだっけ。

 なんと紛らわしい!


「訂正!私が本物のユスティアだ!」


 ふぅ……危ないところだった。

 セーフセーフ。


 ラスティアの顔が怒りに染まる。


「ふざけた真似を!」


 この場で見た目ではラスティアと時夫を区別を付けられる人はそうそういない筈だ。

 民衆も含めて、突然増えたマルズ国の聖女にどう考えたら良いのか分からずに静かな混乱が広がりつつある。


「あいつは偽物だ!捕まえろ!」


 ラスティアが時夫を指差して叫ぶが、周りは動けない。

 どちらが本物か分からないまま命令には従えないのだ。


「違いまーす。あっちが偽物でーす!」


 時夫も真似してラスティアの顔に指を突きつける。


「この!殺してやる!」


 ラスティアが叫び、時夫に向かって細身の剣を抜いて走り寄る。


「『空間収納』」


 時夫が互いの間に取り出したのは大きめの服を溶かすスライム。

 ラスティアが苛立ちながらスライムを切り付けると、その一部が周囲に飛び散った。


「うわ!溶けるぞ!」

「なんだ!?酸か?」

「いや、服だけ溶ける奴だ!」


 周りの観衆達が逃げ惑う。

 戦いやすくなりそうだ。


 兵士がジリジリと、ルミィ時夫ver.に近づく。

 とりあえず敵だとわかっている方を捕えようと考えたようだ。


 しかし、近づく兵士の足元を眩い光線が焦がした。

 逃げる民衆の流れに逆らって、亜麻色の髪の幼い勇者はその姿を現した。

 白いマントがたなびき、身の丈ほどの宝剣が光を放つ。


「兵士たちは任せて。殺さないよう気をつけるわ」


 勇者イーナの何十という光線は兵士たちを完全に牽制し、制圧していた。

 蛮勇を振るった兵士が距離を無理に詰めようとすると、容赦無くその指やつま先を光が通過して指を焼き切った。


「こうなったらトキタトキオだけでも!!」


 ルミィ時夫ver.にラスティアが襲い掛かる。

 剣をルミィに突き刺そうとしたところで、ルミィが杖で剣を弾く。

 

「『空間収納』」


 時夫はタライをラスティアの頭上に出したが、それは殴って弾かれた。

 ついでに出しっぱなしで時夫を狙っていたスライムは一旦しまう。


 ラスティア身体能力が高いためか、タライ攻撃は当たらない。

 一旦距離を取ろうとするのを時夫は追いかける。

 ラスティアは市街地に入って行った。



 ♢♢♢♢♢



 ラスティアは走りながら考えていた。

 先ほどは自分と同じ顔を見て、怒りで頭は真っ白になりそうだったが今は少し落ち着いてきた。


 裏切り者のカズオが変身していた様に、向こうは何か変身するための魔道具を持っている様だ。

 そんなものはほぼ伝説上の代物だが、実際にやっているのだから持っているのは確実だ。


 今回の戦い……つまりはトキタトキオを捕えるのが目的だ。

 最悪殺したい。

 伊織という女が思いの外肝が据わって戦いに加わってくるが、まだ攻撃魔法を封じる首輪は付けられたままだ。


 どうやら伊織は『空間収納』の中の物を落とす事で攻撃に転じている様だ。

 何故スライムを入れていたのかは分からないが、攻撃魔法自体が使えないのなら負けはしない筈だ。

 

 ラスティアは考える。


 やはりトキタトキオを殺そう。

 馬鹿にされたままではいられない。

 神もきっとラスティアをお許しになるはず。

 

 自分と同じ見た目の女が追いかけてくるのを確認する。

 本当にユスティアが生きていたのかと疑っちゃった。

 気色悪い。

 アイツも殺す。

 でも、その前にまずはトキタトキオの死体を見せつけてやる。


 ラスティアは地の利を生かして、細い路地を選んで自分の偽物をまいた。

 そして、先ほどの広場に設置された処刑場のところに戻る。


 そこで、ラスティアが目にしたのは……。

 またしても自分の姿だった。

 トキタトキオの姿は見えない。


 小さな出来損ないの勇者は兵士たちで手一杯だ。

 仕方がない。

 自分に化けた不愉快な伊織を先に殺す。


 ラスティアは優れた筋力のままに、自分の偽物に剣を構えて襲い掛かった。

 瞬間、目の前の偽物が囁いた。


「『エアーエッジ』」


 何十という空気の刃がラスティアに襲いかかった。

 

 

 


 

 


 

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