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第116話 待ってたぜ!

 時夫イオリver.は快適に過ごしていた。


 あれが欲しいこれが欲しいと煩いものの、基本は従順な時夫に、見張りの男はもう気を許している様だった。


 トイレも普通に一人でさせて貰える。

 伊織の姿のままはまずい気がするので、用を足す時はこっそり元の姿に戻ってる。


「なあ……お嬢ちゃんは恋人はいるのか?」


 見張りの男性、ローグは親しげに話しかけて来た。


「良いんですか?私と喋っちゃって」


「良いよ。今は聖女様も仕事で忙しい時間だから、

 で、どうなの?好きな男とかいるの?」

 

 ふーん……今は忙しいのか。

 どうしようかなー。


 時夫は今逃げるか、それともこのまま大人しくしておいて油断させてラスティアに攻撃を仕掛けるタイミングを図るか悩む。

 攻撃魔法は塞がれているが、手足の拘束はされていない。


 こいつ暇だからって女子高生と恋バナしたがるのか。

 みんな恋バナ好きだよなー。


「いませんよ。好きな人もいません」


 とりあえずいないって言っておく。

 いないんだよな?聞いたことないし。

 いや、いたとしてもコイツに教える理由は無い。

 それに、いるって見栄張って言っちゃって根掘り葉掘り聞かれても困るもんな。


「俺みたいな男ってどう?」


「ん?どう?……いや別に?」


 会話の雲行きが怪しくなって来たぞ。


「あんたこのまま死ぬんだよな……。死ぬ前に……良い思いをさせてやろう」


 下卑た顔で近づいてくる!

 キモッ!!


「『空間収納』」


 攻撃魔法は封じてるけど、生活魔法は封じられてないんだなぁ。


 ――グワァーーンン

 ――ドシン


 金属のタライが男の頭にぶつかった。

 男が倒れる。

 ……ちょっとデカ過ぎる音が鳴ったけど平気かな?

 男は白目を剥いている。

 変質者め!

 とりあえず数発蹴っておく。


 あと、タライは使えるので回収。

 収納が大きいとそれだけで攻撃に使えるなぁ。

 もっと重いものなら殺傷力アップだな。


 さてと……。

 逃げるしか無いかな?


 時夫がよっこいしょーと立ち上がった、その時。


 ドアが開く。


 むむ!ノックも無しに!?

 時夫がタライを心の中で思い浮かべていると、侵入者の顔がひょこっと見えた。


 ……なんか見覚えしかない。三十年間親の顔より見た顔だ。

 直には見た事は無いんだけどな。


 時夫は訳がわからないが警戒心を強める。

 ……が、そいつほ胸に下がった赤い魔石のネックレスをみて警戒心はポイっと捨てた。


「無事なようですね」


 侵入者はホッとした顔をした。

 へにゃっとした非常にだらし無い顔だ。

 うーん……もうちょい常にキリッとした表情をしてて欲しい。


「待ってたぜ!」


 時夫イオリver.はサムズアップとウインクで出迎えた。



 そして、公開処刑の日を迎えた。


 人々はアーシュランの偽聖女に怒号を浴びせ、石を投げつける。

 時夫は現在イオリver.なのでいつも以上に背が低い。

 後ろ手に縛られて動けなーい。

 今は投げられた石は周囲で時夫を断頭台に引っ立てる男達にぶつかっている状況だったりする。

 伊織ってば背が低いんだもん。仕方ないね。

 へへっ……ザマァ。


 時夫にはまだ攻撃魔法を封じる首輪が付けられているが、時夫の使える攻撃魔法は『ファイアボール』だけなので本当に無意味だ。


 この世界の人たちは生活魔法を軽んじているからなぁ。

 そもそも封じる道具が開発されていないとは嘆かわしい。

 しかし、下手に生活魔法のカリスマとして有名になってなくて良かったか?

 生活魔法の攻撃転用は執筆した書籍には書かなかったのも良かったかも。

 時夫もそこら辺は慎重なのだ。


 そして、『空間収納』も多くの人は小さめの鞄くらいの収納力しかない上に、手元でしか出し入れ出来ないからそもそも攻撃に使いにくいんだよなぁ。


 これはアルマに集中的に『空間収納』を強化してもらって、自らも心血を注いでいる時夫ならではの攻撃方法とも言える。

 


 時夫はわざとこの場にいる。

 祖父の仇に復讐する為に。じっちゃんの二つ名にかけて!


 ルミィは時夫の隣にいる。

 見張りのあの変態野郎はルミィが何やら何処かに処分した。

 どの様な処分方法かは知らないけど、そこら辺は追求しないのが時夫とルミィである。

 あ、ルミィに小石がヒットした。

 守っていただいてすんませんねぇ。

 

 そして、断頭台にやって来た。

 見晴らしが良いな。


 後ろ手に縛られたままヒロイン様の出現を待つ。


 果たしてその女は現れた。


 ミルクティー色の長い髪が風に靡く。

 白い法衣を纏った愛らしい顔立ちの少女。

 金色の瞳が民衆を見渡す。


 ザンバラに肩口で切られた偽伊織の黒髪が時夫の頬をくすぐる。

 時夫はここに居るのが自分で良かったと思う。

 首を切りやすい様に髪を切ったようだが、本物の伊織にそんなことをしでかしたら、時夫はラスティアの許せないポイントは激増していただろう。


 もちろんラスティアには地獄を見てもらう。

 時夫はタイミングを測る。


 ラスティアはスバラシイ演説をしている。

 大事な大事な聖女サマなのに、こんなにも近くに、表舞台に出ているのは、戦う聖女サマという宣伝をしている為だろう。


 勇ましい姿を見せなくてはいけないのだ。

 偽物のアーシュランのサリトゥに立ち向かう姿を民衆に見せつけている。


 そして、ラスティアは時夫が伊織を助けにくるのを待っている。

 メインターゲットは時夫なのだ。

 ここにいるのに!

 ここにいるよ!


 ラスティアは時夫に近づき、囁く。


「貴女の王子様は貴女を見捨てたようですね。

 仕方ありません。

 王子様には精々貴方の首から上をプレゼントしましょう……喜ぶかしら?

 それとも女の子を助けに来ないような薄情な殿方は下の方が喜ぶかしら」


 時夫は下を向いてボソボソと呟く。


「ん?怖くなっちゃった?なんて言ったの?遺言なら聞くけど?」


 ラスティアはご機嫌なようだ。

 時夫はニッコリ笑って答える。


「『ウサギの足』」


 時夫はラスティアに強烈なタックルをかました。

 時夫とラスティアは壇上でもつれ合う。


 腕の拘束は事前にナイフを収納から取り出して切っておいた。

 ナイフくらいなら時夫じゃなくても持ち運べる人が多いんだから警戒しようぜ!


 そして、転がりながら法衣を剥ぎ取ってやる。


「うわ!風が!」


 強い風が周囲一帯を吹き付ける。

 ビュウビュウと音を立てる暴風は、その場で立っている事も許さず、観客を巻き込んで辺りを混沌とさせた。

 しゃがみ込んで目に砂が入って目をこする。

 スカートを婦人が抑えて身を低くする。


 もちろんこれ程の風を起こせる魔法使いはこの異世界にもそうはいない。


 いつの間にか見張りのおっさんことローグの姿から時夫の姿になったルミィが、揉み合う時夫とラスティアの元へ来た。

 助かる。ラスティア腕力強い。マッスル負けそう。


「な!?トキタトキオ!?」


 ラスティアが今更現れたルミィトキオver.を見て驚いている。


「では、登録します」


 ルミィが二つのネックレスを掴んだ。


 ふふふ……この時を待っていた!

 時夫は叫んだ。


「『フォームチェンジ』!」

 


 


 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 


 

 

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