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閑話2 人の言葉を操る魔獣

「人の言葉を操る魔獣がいる!?」


 ルミィが何気なく話した内容に時夫は反応する。


「そうなんです!それを見世物にしているみたいなんです。

 本当でしょうか?」


 ああ……青春の日に読んだ漫画にそういうのあったなぁ。トラウマになりそうな奴。


「それってどんな姿なんだろ。

 見世物にしてるって、逃げ出したらヤバくないか?

 それとも言葉がわかるだけじゃ無くて、頭も良くて話せば分かる感じなのかな?」


「今話題になってるサーカスの巡業で見れるようなんですよね。

 見に行きますか?」


 どうしよう……。

 サーカスとかムチでバチーン!ってしてるイメージがある。

 動物でも可哀想になるのに喋れるとかだと余計に可哀想に……いや、でも邪教徒とか喋れるけど普通に殺してるから似たようなもんか?

 だけど、邪教徒は悪い事してるから殺せても、脅されて檻に入れられてる姿とか見ちゃったら可哀想になっちゃうかも?


「いや……やめておこうかな」


 可哀想に思っても相手は魔獣。

 人間に襲いかかってくるなら排除しなくてはいけない。

 人権すら概念を理解させるのが難しいこの異世界で、動物愛護を訴えるのは不可能だ。

 可哀想に思ったところで買い取って世話をするのも無理だ。

 どれだけ凶暴かも分からないし、何年生きるのかもわからない。

 残念ながら時夫の手には余るだろう。

 時夫だってこの世界に何年もいたりはしないだろうし。


「気晴らしにトッキーのお饅頭ファクトリーにでも行くか」


「やっぱりお饅頭はアイスと比べると人気無いです。

 もっと他の食べ物に挑戦しませんか?」


「そうだなぁ。タピオカとかこっちの世界でも再現できたら良いだろうけど……。

 キャッサバ?とか存在するのか?」


「キャ?よくわかりませんね」


 時夫とルミィは二人で出かける。

 

 イーナは最近趣味で洋裁を始めていて、今は材料の買い出しにいってる。

 元々得意だった事もありガンガン色々な物を作り上げている。

 ルミィやフォクシーに小物を作ったりして女性達に人気がある。

 時夫の店に並べて売っても良いかも知れない。


 時夫達は街中をぶらぶら歩きながら店を目指す。


 その時、


「おい!そいつを捕まえてくれ!」


 男の叫ぶ声が聞こえた。

 そちらを振り向くと、毛むくじゃらの生き物がこちらに駆けてきていた。

 後ろから追いかけてきている男はムチを持っている。

 その後ろからさらに続くピエロが見えた。


「まさか……サーカスの?」


 毛むくじゃらは近づいてくる。


「私に任せてください!」


 ルミィが前に踊り出る。


「『エアーバイン……」


「た……たすけて!お願い!」


 毛むくじゃらから鈴を転がすような可愛く幼い少女の声がした。

 強めの秋風が吹き付ける。


 ブワっと毛むくじゃらの長いボサボサの灰色の髪が巻き上げられる。

 その下には10歳くらいの女の子の顔。


「………………魔獣じゃ無いですね」


 ルミィが女の子を拘束するのをやめて、風で土埃を巻きあげる。


「うわ!なんだ……目が!」


 サーカスの一味は目元を抑えて立ち止まる。


「逃げますよ」


 イーナ女の子に声を掛けて走り出す。


「優しいな!」


 ルミィと一緒に時夫も走り出す。


「『クリーンアップ』!」


 ついでに薄汚れた少女を綺麗にしておく。


「お!ここら辺なら……こっちに逃げよう!」


 時夫が誘導する。

 その先には……とんがり帽子の魔女の薬屋があった。


「匿ってくれー!」


「おや、お客さんはいつも元気がイイねぇ」


 黒いとんがり帽子。クリクリカールのオレンジ髪にエメラルドの猫目。

 魔女っぽい魔女、薬屋の店主がニヤリと笑いながら出迎えてくれた。


「で、そちらのお嬢ちゃんは見ない顔だね……獣人か」


 灰色のボサボサ髪の女の子だ。


「ん?獣人なのか?」


 時夫がしゃがみ込んで聞いてみる。

 ボロの半袖半ズボンを着ているが、そこから出ている手足はフサフサの灰色の毛で覆われている。

 顔は人間のようで、黒い丸い目を落ち着かな気に伏せている。


「ほれ、これタレ耳のウサギだろ」


 店主が持ち上げる。

 確かに垂れ耳のウサギっぽい。


「でも全身毛むくじゃらだし、サーカスで魔獣だって見世物になってたみたいなんだ」


 サーカス……の言葉にウサギ獣人の子供がビクッと体を震わせた。


「んー……たぶん、先祖返りみたいな形で毛が他の獣人より沢山生える体質だったんだろうね。

 それで、売られたか攫われたか……」


 とんがり魔女が興味深そうにウサギの子の髪をかきあげて顔を覗き込みながら考察を口にする。


「でも、連れてきてどうするつもりなんだい?

 サーカスの奴らをボコボコにするかい?」


「うーん……何らかの罪に問えないかな?ルミィは何か知らないか?」


 時夫は法律とか全く知らないので、ルミィに全て任せる。


「そうですねぇ……今のところ思いつかないですけど、サーカスの人達は多分平民ですからねぇ。

 何とでもなりますねぇ」


 出た!貴族の特権!

 イチャモンを付けるだけで勝てる奴!


「よし!何とでもしてくれ!行くぞ!

 あ、女の子ちょっと預かっといてくれ!」


 店主に女の子は任せる。


「お安いごようだよ。さあ、お嬢ちゃんはこっちにおいで」


「………………」


 時夫とルミィはサーカスの一味を探しに行った。

 目立つ奴らなのですぐに見つかる。

 

「おい!お前ら!えーっと……控えおろう!こちらをどなたと心得る!

 えーっとえーっと……エルミナ様だ!貴族なんだぞ!控えろ!」


 時夫は喧嘩を売ってみた。

 しかし、慣れてないのでグダグダだ。


「うーん……トキオは格好がつきませんね」


 ルミィが呆れ顔になってる。

 そらならルミィに手本見せて欲しいよ。


「あ!お前達!さっきラビンを攫った奴らか!

 ……貴族だと?そういえば俺たちが諦めるとでも思ったか!

 どうせ嘘に決まってる!

 アイツを使って俺たちの真似をして商売するつもりだな!?

 俺はランバート伯爵と懇意にしてもらってるんだ!おい!お前ら!アイツらを痛めつけろ!」


 ……3分後。


 ルミィの風の魔法で一網打尽だった。

 時夫も跳んだり殴ったりちょっと頑張った。


「おお!ルミィ様達ではありませんか!どうしましたかな?」


 王都警察署のモルガー刑事だ。

 なんと二つもトッキー饅頭を手に抱えている。


「喧嘩の通報があって駆けつけてみたのですが……」


「こいつらが私を不愉快にしました」


 ルミィが地面に伸びてるサーカス一行を指差す。


「なんと!拷問探偵に楯突くとは命知らずも良いところだ!

 よし!全員逮捕だ!」


 何の罪かは分からないが全員逮捕された。

 法治国家とは一味も二味も違うなぁ。

  

「よし、これにて一件落着だな。

 ……ウサギ獣人どうするかなぁ」


 とりあえず責任とって引き取りに行く。

 

「お、お帰り」


 店には灰色髪の垂れ耳ウサギ獣人の男の子がいた。


「男だったのか!」


「そうそう。顔が女の子みたいに可愛いけど」


 そしてよく見ると手足の毛が無くなって普通の獣人のようになっている。


「余分なところの毛は脱毛剤で除去したよ。あと、髪型も整えてやったら見ての通りさ。

 やっぱり先祖帰りで仲間達と暮らしていた時も除け者にされて辛い思いをしていたらしいね。

 それで何だけど、ちょうど助手が欲しいと思っていたんだ。

 私がこの子を引き取っても良いかい?」


 ウサギ獣人はすっかりとんがり帽子の魔女に懐いたらしく、そそ〜っと時夫から距離をとって店主の後ろに隠れる。


 時夫は内心ホッとした。

 このとんがり魔女は怪しい割には善人だ。


「なら任せたよ」


「服もこんなボロじゃ可哀想だし、今日は店を閉めて服でも買いに行くかねぇ。ほら、着いといでラビン。

 じゃあねお客さん。またのお越しを」


 店主とラビンは手を繋いで去っていった。


「俺たちも帰るかぁ」


 神殿女子区画にはイーナも既に帰ってきていた。

 ウサギ獣人のラビンの話をすると、興味を持って自分も会いに行きたいと言っていた。


 そして、数日後。


「出来たわ!これ可愛いでしょう?」


 イーナがジャジャーンと見せてきたのは男の子用の子供服。

 ラビンにプレゼントするらしい。

 ちょっとメルヘンな趣向だが似合いそうだ。


「ふふふ……また作らせて欲しいってお願いしてきたの。腕がなるわねぇ」


 イーナが嬉しそうで良かった。

 ルミィもたまに少女趣味な服を着せられてるし、充実しているようで何よりだ。


「あ、そうそう。時夫くんにも作ったのよ」


 そこにはチェック柄のベストが!

 なんか可愛い系。


「いや、俺もう30歳……」


「あら、でもバトリーザの鱗粉少し浴びてたじゃ無い。多分何歳かは若返ってるから平気よ」


 イーナがベストをもってズイズイと近づいてくる。


「あ、俺スライム集めに行かないと!それじゃあ!」


 時夫は逃げ出した。

 もちろん帰ってきたら無理やり着させられた。

 仕方ない。お婆ちゃん孝行だ。今回だけ諦めよう。祖父譲りの諦めの良さが時夫にはある。


「あら、似合うわねぇ。また作ってあげるわ」


「いや……遠慮しておきます」


 しかし、イーナは色々な生地を見ながら次の構想を練っているようだ。

 諦めるしか無いようだった。

 ルミィも楽しそうに見てるしな。


 

 

 

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