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第112話 ルミィの望み

 瓦礫の山を越えて薄暗く広い部屋の中を時夫達三人は歩いていく。


 何があるか分からないから、杖と剣は手に持ったまま。

 ルミィが魔法の光を浮かせて周囲を照らす。


 石造りの床の上、コツコツと三人の足音が反響する。

 進んだ先には大きな両開きの黒い扉。

 金色の細かい装飾が施された鍵穴がある。


「鍵……何処なんだろう?」


 周囲を探す。

 扉の横には何かの台座があるが、特に何も置いていない。蹴っても何も起きない。

 そして、鍵も普通に見当たらない。

 ルミィとイーナが扉や鍵穴を攻撃したが、古代魔法はどれほど強力なのか、傷一つ付かない。


「困りましたね……」


 ルミィがむむーっと唇を尖らせた。


 その時、


 ――ドスン!


 地面が僅かに揺れるような重い音がした。

 そちらを見ると、見覚えのある生き物??がいた。


「あ!あれはスフィ……じゃなくて人面大猫!」


 そう、クイズ大好き人面大猫だ。

 一応警戒する三人をよそに扉横の台座に座り、いつぞやの質問をイケボでする。


 ――朝は四本足、昼は二本足、夕は三本足。この生き物は何か?


「――!!答えは南方手足もげもげタコネズミ!」


 時夫は得意げに答えた。


 ――いや、別の答えで頼む。


 頼まれた。


「そんな……南方手足もげもげタコネズミ以外に答えなんて…………」


 時夫は絶望した。頭を掻きむしる。


「……答えは人間?」


 イーナが小首を傾げて可愛く答えた。


 ――正解


 人面大猫はペッ!!っと口から金色の大きな鍵を吐き出した。

 そして丸まって寝る体制になった。


「え!?人間!?なんで……!?」


 ルミィが答えに驚愕している。

 時夫はふんぞり返って解説する。


「ほら、人間は赤ん坊はハイハイするし、大人は二本足で歩くし、老人は杖をつくだろう?」


「え?それは人に寄るんじゃ無いですか?」


「……確かに」


 時夫は撃沈した。タコネズミは個体によらず足の本数変わるのかなぁ?

 上手く説明できる気がしなくて時夫は唸る。


「クスクス……確かにルミィちゃんの言う通りね。

 でも、クイズなんてそんなものじゃ無い?」


 イーナが時夫の様子を見て笑っている。


「そうですね!」


 ルミィが納得したのでもう良いや。

 鍵を拾って次が本当の最奥だろうな……と祈りながら扉を開けた。

 


 そこは、宝物庫であり図書館であった。

 


「――っ!!なあ!お宝じゃ無いか!?」


 時夫は壁に掛けられている、宝石が散りばめられた短剣に手を伸ばす。


「勝手に触らないでください!変な魔法が発動したらどうするんですか!」


 ルミィに叱られた。

 シュンとなりつつ手を下げる。


 そこは宝剣や、杖、槍、盾、王冠、ネックレス、様々な冒険者が夢見る宝が飾られていた。

 そして、分厚い豪奢な装丁の本が所狭しと置かれている。


「これって俺たちのにはならないの?」


 第一発見者だ。

 是非とも権利を主張しておきたい。


「いえ、ここの国の所有になると思いますよ」

 

 ルミィが慎重に本を観察して、手に取りながら答えた。

 ちぇっ!俺が大人しい日本人で良かったな!

 ルミィが追い返した冒険者達なら我先にと持ち去っていたに違いない。


「本は大丈夫そうか?」


「はい。特に変な魔法は掛かってないようです」


 ルミィはペラペラと何冊かページを捲る。


「どうやら年代はバラバラなようです」


 ルミィが本を手に取っては、中を確認していく。


「どんな情報を探しているんだ?」


「……召喚です」


 ルミィが唯一使える古代魔法だ。

 むしろ他のは知っても使えないから意味ないのか。

 何か他の世界からお取り寄せしたいものがあるのかな?


 熱心に調べ物をするルミィの邪魔をしない様に、時夫はお宝の観察をする。


「これ魔石かなぁ?」


「昔は魔石は存在しなかったとレグラが言ってたから、本物の宝石じゃないかしら?」


「なるほど……ルビーとかかな?この世界にも存在するのか……いや、これがルビーかは分からないけど」


 時夫の知ってる赤い石がルビーなだけだ。

 見ても分からない。無色透明なのはダイヤモンドかな?くらいの知識レベルだ。

 

 しばらくすると、ルミィがこちらに来た。

 手には一冊の本。


「それがお目当ての知識の本か?」


「はい……でも、他にもありそうです。

 他の冒険者が入って来れないようにしておいて、後で閲覧させて貰えるように頼んでみますね」


 紆余曲折があったが、どうやら今回の目的は果たせた様だ。



 後日、あのお宝と本やら歴史的な資料は全てノマ連邦の方で管理することになった。

 当たり前かもしれないが、少しガッカリしたり?


 ケイティたち姉弟の死体はこっそり埋葬した。

 ルミィが掛け合ってくれたのだ。

 ルミィはやはり苛烈で冷酷で、だけども優しい。


 密やかな三人きりの葬儀。

 花を手向けて、それで終わりだ。

 長く感傷に浸る程の時間を過ごしていない。

 ……でも、もう少しだけ一緒に冒険をしたかったかな。


 大迷宮は瘴気も消え去り、一般開放されている。

 お土産に大迷宮饅頭と大迷宮タペストリーも買った。


「古代魔法の……召喚に関するを何冊か借りられました。

 これで研究が進められます」


 帰りの馬車の中でルミィが本を何冊か見せてくれた。

 しかし、古代語は一応自動翻訳されているが、古文の様に翻訳されてしまっている。

 ……いや、そこは現代文に普通に翻訳してほしかった。

 ありけり……だとか異世界で見ることになるとは思わなかったよ。古文の成績はそんなに良くなかったから勘弁して欲しい。

 時夫は軽く見てから直ぐにルミィに返した。

 

 ダメだ……勉強すると眠くなる。

 時夫は馬車の揺れもあって眠ってしまった。

 


 ♢♢♢♢♢



「それでルミィちゃん、あなたの望む魔法は得られそうなの?」


 ルミィがすっかり寝入って変な体勢に首が曲がっている時夫を見ていると、イーナがそう声をかけてきた。


「……そう願います」


 どうやらイーナには、ルミィが何をしたいのかお見通しな様だ。


「でもね、ルミィちゃん。

 私はあなたがそんなに苦労しなくても……時夫くんが私達の事まで背負ったりしなくても良いと思ってるの。

 ……もちろん残された家族は大変だと思うわ。

 だけど、若い人達の人生を私達年寄りは邪魔したくなんて無いのよ。

 きっとご家族もそうだわ。

 山元さんも、平さんももう死んでいる。

 生きているあなた達は、あなた達の幸せだけを考えたって良いのよ」


 幼い姿の年長者の言葉を有り難く聞き、その上でルミィは返答する。


「でも、私はトキオの全ての願いを叶えてあげたいんです。

 悲しみや後悔をなるべく取り除いてあげたいんです。

 そのための苦労なら……楽しいですよ」


 ルミィの微笑みを見て、イーナも微笑んだ。


「そう……なら私にも手伝わせてね」


 イーナも疲れていた様で少ししたら眠ってしまった。

 ルミィは変な姿勢の時夫をたまに見ながら、手元の本に目を通す。

 この中にルミィの望む未来をもたらす奇跡がある事を願いながら。


 

 

 

 

次の話は1話完結を考えてます!

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