107話 一気に行くぜ!
狭い通路。
迫り来る敵。
またと無いだろう非常に好都合なシチュエーションだ。
『空間収納』から飛び出したのは、各種装備。
ハーブ付きマントを羽織り、念のためにフルフェイスのヘルメットを被る。
そして、ハーブから抽出されたエキス入れた霧吹き。
通路いっぱいにみっちり天井まで殆ど隙間なく埋め尽くされた超超超巨大ノーマルスライム!
大量のスライムを一箇所に出すと、纏まって一つの巨体になってしまうのだ!
目の前のスライムの大きさはドラゴンゾンビよりもさらに大きい!
世界最大級なのは間違いない!
シュシュシュシュシュシュ!!!
時夫が霧吹きでスライム避けハーブエキスを噴霧するたびに、互いに溶け合い一体化したスライムが、通路の向こう側に移動する。
シュシュシュシュシュシュ!!!
ハーブの薬っぽい様な、スパイシーな様な独特の香りが辺りに漂う。
スライム達は何が嫌なのか、速度を上げながら前進し続ける。
時夫達はそれをのんびりと追いかける。
「こんな巨大なスライム初めて見ます。
基本室内で見る事も無いですけど、圧迫感が凄くて落ち着かないですね……」
ルミィが逃げていくスライムを見ながら不気味そうに呟く。
「確かにこれならどんな敵もスライムが邪魔でコッチにはこれにゃい……けど、なんか思ってた探索と違うにゃ……」
ケイティも納得いかなさそうな顔をしているが、時夫が考えた中で一番確実に安全を確保できる方法なのでご容赦願いたい。
それに、スライムは這った後の床を綺麗にするし、瘴気もプルプルの体内に取り込むっぽいので、空気の浄化能力もある。
ケイティの身体に対する負荷も軽くなってる筈だ。……本人は気付いて無さそうだけど。
こんなに便利なスライムなのに、残念な程に研究が進んでいない。
おそらく時夫が初めての本格的スライム研究者だ。
普通の人だと、そもそも収納が無いか、有っても小さくてスライム入れておけない。
それにハーブ無しではスライムを閉じ込めておくのが大変なので有用性に気が付けないのだ。
時夫が薬屋のとんがり帽子の魔女と開発したハーブエッセンスも揮発して効果はガンガン失われる。
スライムとの共生は本当に大変なのだ。
時夫は植物を好きに成長させられるので、ハーブは育てたい放題だし、必要ない時は収納にしまっておけるからこそ、こうして役立てまくる日が来たのだ。
そして、巨大スライムはこの大迷宮で思いがけない利点も見せた。
ここは、大迷宮の名の通りにあちこち分かれ道があったりする。
スライムは三方向の分かれ道があると、三方向に一旦身体を伸ばす。
そして、行き止まりに到達すると、そちらの部位は引っ込めて正しいルートの方に進み、何とか巨体の全てをハーブエキスから守ろうとする性質がある様だ。
つまり、のんびり待っててやれば、必ず辺りルートの方にその巨体を進めるのだ。
ここに来て急速にスライム研究が進んで、時夫はホクホクだ。
水分が抜けるとスライムは縮むので、定期的に『散水』で水分補給をしてやり、たまに追加でノーマルスライムを継ぎ足す。
透明なスライムの奥で何か取り込まれたモノが見えるが、プルプルボディの複雑な光の屈折で何が囚われているのかは謎だ。
こちらに来ようと足掻いても、スライムは反対方向に移動し続けてるので無駄だ。
暫く待つと諦めたのか、絶命したのかで動かなくなる。
魔物だかなんだかは、窒息したのか遺骸がスライムに溶けていったりしているが、スライムは今の所はその影響は受けていない様だ。
これ程の巨体なら、ちょっとやそっとの餌を一回与えたきりでは問題ないな。
時夫はマッドなサイエンティスト的な冷徹な瞳で、スライムと死んでいく敵を観察する。
下のフロアへ行く場所も、他のところと違って僅かな隙間があるのか、スライムが身体を捩じ込んで隠していた装置がズレて場所が露わになる。
「これ、狡くにゃい?こういうのって迷ったり、戦ったり、謎を解いたりしながら進むんじゃ無いの?」
「考えちゃダメよ。この世界で生きていくのに重要なのは諦めよ」
イーナがケイティに言い聞かせている。
「全くその通りだ。
この世界の奴らは神からして責任感も無いし、後先考えて無いんだから、考えるのは無駄なんだ。
何故ネイティブこっちの世界住民なのにそれが分からないんだ?」
時夫もここぞとばかりにケイティに言ってやる。
「私はちゃんと考えてます!」
ルミィはちゃんと考えてるらしい。
「よしよし、ルミィは偉いぞー」
「そうです!偉いんです!」
ルミィがふんぞり返る。その頭をポンポンしておく。
ルミィは本当に偉ぶるのが得意だなぁ。
その後はそんな調子でガンガンに迷宮を踏破して行った。
やはり備え有れば憂いなし!
広い空間だとそんなに強く無いスライムだが、狭い場所だと圧倒的な戦力だ。
そして、ついに開けた空間に出てきた。
壁の灯りも他よりも明るめだ。
スライムを見てみると、内部に人っぽいものと、三メートルくらい有りそうな人間っぽさも残る触手だらけのデカめの生き物をいつの間にか取り込んでいた。
他にも細々とした虫も入ってるな。
「スライムにゴミ以外もなんか入ってる。
あ、あのデカい生き物、猫耳みたいなの生えてないか?
ほら、あれってケイティの猫耳と色味とか形がちょっと似てるような……」
時夫はスライムの中でグッタリ動かない三メートル触手猫耳生命体を指差しながら、ケイティを振り向いた。
「マ…………」
ケイティが信じられない物を見た様に、アーモンドアイを限界まで見開いて三メートル猫耳触手を見つめる。
「マ?」
何だろう?猫耳仲間が珍しいのだろうか?
「マイロー!!」
ケイティが絶叫しながらスライムに突入して行った。
感動の姉弟の再会
スライムは広いところだと拡散してしまうので、狭いところしか使えないチートアイテムです




