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第10話 スリ捕獲

 人混みの中で、逃げる子供を見失わずに追い続けるのは難しい。

 ……普通ならば。


「『探索』!」


 これは日常生活の中で自分の持ち物が失くなった際に、何となく大体の場所が分かる能力だ。

 それなりの魔力を注ぎ続ける事で、財布の方向が探知できる。

 しかし、それだけでは中々距離が縮まらない。


「『ウサギの足』『滑り止め』『クッション』『ウサギの足』『クッション』『ウサギの足』『クッション』……」


 『ウサギ足』は足の筋力を一瞬だけ上げる、日常動作を補助する魔法、

『滑り止め』はツルツル滑りやすいところを転ばずに歩くための雪国の人がよく使う魔法、

 そして、『クッション』は高いところから飛び降りる時に使うと空気の塊が擬似的なクッションとなり身体を一回だけ受け止めてくれる魔法。


『ウサギの足』で脚力を一瞬上げて人と人の間を縫うように走るが、スピードが出ると方向転換が難しくなるので、滑り止めで地面と靴底の摩擦を強めて、強化された脚力が地面に上手く伝わるようにした。

 そして、『クッション』で自分の体と通りすがる人の間に空気の緩衝空間を作って、間違ってぶつかり怪我をさせるのを防ぐとともに、自分の体を前に弾いて更なる速度を得る。


 よほどの魔法の使い手でも無い限り、二つ以上同時の魔法使用は出来ない上に、短期間に魔法をこうも何度も連続して使うことは、神様からのチート無しにはとても無理である。

 だからルミィはあっという間に置いてきぼりになっている。


「うわーん!トキオ!待ってくださいよー!」


 そんなルミィの声も背後に置き去りにする。


 そして、


「捕まえたぞ!クソガキが!!俺の全財産返して貰うぞ!!」


『剛腕』

 腕の筋力を短時間アップさせる魔法だ。


 クソガキの首根っこを捕まえてぶら下げる。


「うわ!くそ!離せ!離せよ!!」


 クソガキが足をジタバタと動かす。

 くそ!筋力は上げてるけど、身長は元のままだから実はぶら下げ続けるの厳しい。

 クソガキ持ち上げ続けるのは高身長の特権だったのか。人生でクソガキ持ち上げるのは初めてだから知らなんだ。

 しかし、言われるままに下ろすのも何だしどうしよコレ。

 放り投げるとかは流石になぁ。


 困っているうちにルミィが追いついてくれた。

 

「もう!凄い足速いんですね!凄いですけど!もう!」


 ルミィは文句言いつつも褒めてくれるので良いやつだ。



「離せ!離せ!」


 クソガキが蹴ってきてウザイ。

 しかし汗かいた。魔法使ってても疲れるもんは疲れるんだな。

 額の汗を拭う。暑いので短時間なら平気だろうとフードを脱いで風を感じる。

 ふぅ……涼しい。


「離せ!はな……お、お父さん!?」


 クソガキが突然変なこと言い出した。

 クソガキを観察する。

 薄茶の髪と瞳で生意気そうな顔をしている。

 ……なんか変装後の今の俺とちょっと似てるな。


「ト、トキオ……そんなに大きい子供がいたんですか!?」


 ルミィが驚き戦慄きながら後ずさる。


 クソガキを下ろして。素早くルミィと距離を詰めて一撃を喰らわせる。


 ばちーん!


「いたあ!!」


 決まった!過去一のデコピンだ。

 ルミィが片膝をつき額を抑える。


「お、お父さん……?」


 突然の凶行にクソガキが怯えた顔をしている。ジリジリ後ずさっている。

 怖がることはないのに。これはルミィと俺の日常なのに。


「一先ず、財布を返してもらおうか」


 クソガキに手を差し出すと、クソガキはガクガクと首を縦に振りながら財布を返してくれた。

 何だ、素直な良い子じゃないか。


「俺はお前の父親ではない。……少年、名前は何だ?」


 大人の余裕を見せながらニッコリ笑ってやる。

 少年はオドオドしつつも、答えた。


「テオール……です」


 ぐぅ〜


 間抜けな音が響いた。


「ルミィ……そんなに腹減ってるのか?」


「私じゃ無いです!」


 ルミィは素晴らしい回復力でデコピンのダメージはもう無くなっている模様。

 ルミィじゃないと言う事は……。


 ぐぅ〜〜


 今度は聞き間違える事がないようにか、先ほどよりも大きく長く鳴った。


「えーっと……少年、テオールだったか。テオールは串焼き肉好きか?」


 テオールは時夫の質問にキョトンとしたが、オズオズと頷いた。

 よし、何はともあれ飯を食おう。

 

 


 

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