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第104話 レグラの話

 ――聞こえるかしら?なんだかそこは、そちらの声が聞こえやすいわ。

 レグラの作った魔法増幅の力のある施設内だからかしらね。

 


 アルマの声がいつもよりハッキリと時夫の脳内に響く。

 スペシャルゲストなアルマも、他の神出現に黙ってられない様だ。

 しかし、ルミィの体はまさに他の神が使用中の為に時夫を介しての不便な情報伝達になっている。


 時夫は椅子やクッションを収納から出している。

 それだけじゃなく、飲み物も、アイスクリームも取り出した。

 もちろん小さなテーブルもある。

 時夫の『空間収納』は世界一だ。

 それを見て、レグラが感心した様に青い目を見開く。


「流石ね。あなたはアルマの力を分け与えられた天使なのね。

 アルマは自らの力がよく馴染む異世界人を使う事で、少数精鋭の手駒を手に入れる戦略ってこと?」


「俺は天使じゃ無いよ。聖女だよ。

 アルマの戦略は……どうなんだ?」


 ――そうよ。ずっと寝てた割には頭は冴えてるのね。ハーシュレイは手当たり次第に改造するのが趣味の頭がおかしい女だけど、私は違うの。


 アルマは当てこすっている。どうやらハーシュレイだけじゃなく、レグラとも仲は良くなさそうだ。

 ハーシュレイの頭がおかしいのは同意だけど、アルマもポンコツだし、反省して欲しい。


 ――私はポンコツではないわよ?


 ポンコツの自覚が無い女神の不思議そうな声が脳内に響いて落ち着かない。

 ボリューム下げらんないかな?

 

「にゃ!?聖女!?時夫って男じゃなかったのにゃ!?」


 何が何だか分かってなさそうな顔で、流れについて来れてないケイティも、そこら辺は気になった様で反応した。

 混乱しすぎて、時夫の性別にまで謎の疑惑を発生させている。

 異世界から来た事は知っていても、聖女なのは黙っていたからなぁ。


「いや、男なのに間違って聖女の能力だけ植え付けられたんだよ」


 時夫も呆れながら訂正を入れてやる。

 

「一度に大量の瘴気を浄化する能力は、異世界の女が一番得意とするから、その役職には聖女と名付けられている」


 レグラが解説してくれた。

 流石原初の神。詳しいようだ。


「で、レグラはなんで眠ったんだ?

 この世界が滅びないと天上とやらに帰れないから?

 天上ってレグラやアルマのいる世界でオッケー?」


 とりあえずさっき聞いた話から、まとめて質問する。


「そう。もっと私よりも上級の神の許しを得るか、ある程度人間の数が減って人類の滅びが決定しないと、私は神の座を降りれなかった」


 アイスクリームをペロリと舐めながら、レグラは淡々と答える。

 イーナは堂々とした態度でアイスをスプーンで掬ってパクパク食べているが、ケイティはポカンとしているばかりだ。アイス溶けるぞ。


「なんでそこまでしてこの世界の神様辞めたいんだ?

 アルマ達は争ってやりたがってるのに」


 時夫もアイスを舐めつつレグラに聞く。

 ルミィの顔してるし、ルミィだって中々偉そうな態度をよく取るが、それとは違った威厳と手の届かなさを感じる。

 やはりなんやかんや言っても神の一柱であることには変わりないのだろう。


「私は……この世界を作り上げて、それなりに良い世界になったと感じた。

 人々の営みを見ているだけで幸せだった。

 でも……いつしかもっと直接的に人々と触れ合いたいと思ってしまった。そして……受肉した。

 だけど、神が受肉し人の体を得ると、出来ることに制限が出来てしまう。

 それで私は、私の代わりに神の権能を使用し、神としての役割を代行する存在を異世界から召喚できる様にした」


「それが……勇者、そして聖女の召喚の始まりだったのね」


 アイスクリームを早くも食べ終わったイーナが呟いた。

 ほっぺにアイスが付いているので、ハンカチを渡してやった。


 レグラは頷く。


「そう……瘴気は世界を運用する中でどうしても発生する魔力の紛い物。

 生き物の姿を狂わせ凶暴化させる瘴気を浄化し、狂った生物を滅ぼす為に、神の力と馴染みの良かった異世界人を召喚していたの」


「……その時召喚された人達は、突然呼び出されて迷惑してなかったか?」


 時夫はどうしても召喚された側に関心を持ってしまう。


「呼ぶ前に来るかどうか夢の中で確かめてから選定したから、迷惑では無かったはず」


「……なるほど」


 レグラはアルマよりは有能なようだった。


 ――私は神の権限をハーシュレイと二分割してるのを忘れないように。

 あ、私はそろそろ忙しくなるから、レグラの話をちゃんと聞いて後で教えなさい……。


 アルマの一方的な声。

 本当にワガママでダメな神だなぁ。


「んで、その後は?」


 時夫がレグラに話の続きを促した。


「私は一人の男と結婚して子供を成した。

 その男が国を作り、国は栄えていった。

 もちろん、神である私のサポートがあってのことだった。

 子供達はやがて老いて死んだけど、その子供達が成長して、また子孫は増えていった」


「それが……ルミィの先祖達か」

 

「ええ……そう。だけれども、子孫達は王の座を競い、時には殺し合った。

 私へ愛を求めているように見えても、それは私に自らを認めさせることで、王位を得ようとする為だった。

 だから……私は別の神にこの世界を譲ろうとした。

 なのに……」


 レグラは悲しげな表情をする。


「上級神達はその時になって、私が受肉して人との子を成したことを責め立てた。

 なにか交代するには不都合があったのでしょうけど、それが何かはわからない。

 そのまま神で居続けることを強いて、天上に自力で戻ることが出来なくしてしまった。

 そして、私は人の肉体のままに子孫達から逃げ出した」


 時夫はふんふんと聞いていたが、ちょっと気になる点があったので、確認する。


「んん?という事は、レグラの夫とか子孫は王様?」


「ええ、そう。私の子孫はアーシュランの王族。

 受肉した私に顔がよく似ている」


「で、ルミィは子孫……」


「この体の持ち主は私の子孫で間違いないわ」


「ルミィは……王族の血が……入ってる?」


「ええ。多少埋まりはしているけど」


 なるほど……?

 王族と近しい親戚関係にある貴族か。

 普段から偉そうな訳だけど、思った以上に地位が高そうだ。


 ルミィの謎の権力の秘密を知ってしまった。

 もしかしたら出自を隠してるかも知れないから、知らない体でいてやるかな。


「それで、逃げた後どうしたのかしら?」


 イーナが話を戻してくれた。


「私を無理やり連れ戻そうとしたわ。

 もはや怪我をさせる事も厭わなかった。

 子孫達は召喚まで使って数世代に渡って私を追い続けた。

 私は身分を隠して転々と各地を歩いた。

 そして、転々としながらも、長い年月を掛けて世界に新たな法則を作った」


 レグラは何でもないことのように話している。神として人間とは感覚が違うのか、あるいは悲しみを隠しているのか。

 

「私が新たに作ったのは、人間の数が一定以下になれば、世界そのものが滅びる魔法……。

 世界が消滅すれば、自動的に私は天上へ行くことになる。

 そして、もう一つの仕組みを作った。

 空気中の魔力濃度を低くし続ける仕組みを……。

 そうすれば、魔法に頼り切りのこの世界の人々は生きる術を失って自然と数を減らしていくでしょうから」


 イーナが時夫の持ってきた桃みたいな味の果汁を飲みながら、なるほどと唸る。


「空気中の魔力濃度が昔は高かったのね。

 だから、古代人は今の人より魔法が得意だった……」


 魔力の回復は時間経過……というか、呼吸で空気中の魔力を吸って回復してる感じだ。

 深呼吸しまくれば、ほんの少しだけ回復が早くならない事もない。

 魔力の多い人は溜めておける量も多く、吸った魔力の吸収率が良いらしい。

 だから、空気中にそもそも大量にあったら、多くの人が魔法を簡単に運用できるようになるはずだ。

 

「それで……空気中の魔力はどこへ行ったの?」


 イーナの質問に、レグラは耳を指差した。

 緑色の魔石の耳飾りを。


「集まって固体になるようにした」


「それが魔石の始まりか」


 時夫は、変身ネックレスの魔石を服越しにつつく。


「そう……そして、この世界は他のどの世界と比べても魔法が盛んなところよ。

 創造主たる私自身が人として暮らしてみたいと望むほどによく出来上がった」


「でも、お前は滅ぼすことにしたんだな?」


「子孫の争いは見るに耐えなかったもの」


 時夫はバカ王子の顔を思い浮かべた。

 うーん……醜い争いとか好きそう。


「直接人類に手を下さなかったのは?

 数を減らしたいのに、随分と持って回ったやり口ね?」


 イーナが指摘した。


「私はできれば子孫を手に掛けたくなかった。

 苦しんだり、私を恨む言葉を聞かないために、私は眠りにつきました。

 魔力が枯渇した過酷な世界になってまで親兄弟で争い続けたなら、きっととっくに滅びていたでしょう。

 私が眠る間に、子孫達が手を取り合った時代もあったのだと信じます。

 頼るべき神が不在のまま世界が存続し、もし、子孫が私をここまで探しにきたのならば、今一度目覚めようかと思っていました。

 ……まさかハーシュレイとアルマの姉妹を送り込んでくるとは思いませんでしたが」


「え!?姉妹なのか!?嫌いあってるっぽいけど!」


「ええ……。完全に同時に生まれたから、どちらが姉という事は無いけど。

 優秀だけど、性格に難があるハーシュレイ。

 そして、世界の作り込みが足りなくて破綻させるアルマ……」


 この世界は未だに危機に瀕しているようだ。姉妹揃ってやはりダメすぎる。

 まともな神が今すぐにでも必要だ。

 

「それで……目覚める装置がルミィに反応した訳か」


「……ここも随分と手が加えられてしまったわ。

 あそこは水なんか無かったはずなのに」


 子孫によるプール飛び込みからの復活は意図したものでは無かった様子だ。

 レグラが唇を尖らせている。びしょ濡れになってたのが不満らしい。


「私は……もう天上に帰れるようだから、帰ります。

 神として振える権能はあまりにも少ないみたいだから……」


「え!?帰るのか?このままだと、ヤバい姉妹の神のどっちかがこの世界を支配するのに!?」


 創造主としての責任をもって、何とかしてほしい。


「ええ……何も出来ないもの。

 それに、アルマのことが気になるから、あちらで話を聞くことにするわ。

 ……少し話し過ぎたけど、楽しかった。

 異世界……名前は?」


「時夫。時田時夫だよ」


「そう……時夫、また会いましょう」


 レグラが目を閉じる。

 椅子に座ったルミィの体が傾いだので、咄嗟に支えた。


 思いの外近くに見えるまつ毛の長さにドキリとする。


「ん……トキオ!?」


 わたわたと手をバタつかせて立ち上がった様子を見ると、ルミィの意識が戻ったようだ。

 時夫は慌てふためくルミィの様子に少し笑う。


「おはよう、ルミィ」


「え……と、おはようございます?」


 青灰色の瞳をパチクリしている。

 顔は変わらなくても、やっぱり中身もルミィの方が断然可愛いよな。


 本当はレグラにもっと居させた方が良かったかも知れないが、時夫はルミィを見てたらどうでも良いかと思えてきた。

 

 

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