第99話 走れ!
階段を降りた先には長い真っ直ぐな通路。
「ここを走るにゃ!」
ケイティが走り出す。前傾姿勢の良い走りっぷりだ。が、急に言われても時夫は反応出来ない。
「へ?なんで?」
ズズ…………
低い音があたりに響き渡る。
「急ぐにゃん!」
ケイティが足を止めずに大声で急かす。
小柄な白い影が時夫の脇をすり抜けていった。
イーナだ。
しのごの言わずにケイティの指示に従い、真っ白なマントをはためかせて超速で走り抜ける。
ルミィも杖に乗って一直線にケイティを追う。
「えーっと、よく分からんが『ウサギの足』『滑り止め』!」
時夫も慌ててダッシュで追いかける。
「これって!壁が迫ってる!?」
通路の両脇の壁がジワジワと迫ってきている。
ヤバい!時夫はさらに速度を上げる。
「こう言うのは先に言ってくれよ!」
「トキオだって、スライム爆弾の時に教えなかったにゃん?」
「いや、これは流石に命の危機あるし!」
「爆弾だって命の危険にゃ!」
全くその通りだ。
報連相の大切さが身に染みる。
イーナはマントの力なのか、小さな子供とは思えない速度だが、それでも他のメンバーよりは遅い。
ズズ……ズズ……
壁はみるみる迫って道の幅は最初の頃の半分になってる。
「イーナ、乗れ!」
追い越しつつ、背中を示して少し速度を落とす。
「ありがとう!」
イーナが答えつつ、ぴょんと飛び乗ったので更に速度を上げる。
「もう少しにゃん!」
「トキオ急いで!」
安全圏に着いたらしい二人が手を振って応援してくる。
「『ウサギの足』『滑り止め』!」
目一髪の魔力を込める。
両肩に壁が触れるほどにもう狭い。
ヤバい!思ったよりギリギリ!
「トキオ!」
ルミィが杖を振りかざす。
突風が背中を押す。
飛び出した時夫をルミィが受け止めた。
「『クッション』」
ぽむんっ!と時夫達を抱きしめたルミィの背中を『クッション』が受け止めた。
後ろを振り向く。
今、完全に両側の壁がピタリと合わさった所だった。
「ふぅ……死ぬかと思った」
時夫が荒い息を整える。
いや、命の危機で心拍数が上がりまくりだ。
イーナが背中から離れる。
『クッション』以外の柔らかさには意識を向けないようにしつつ、時夫も立ち上がり、ルミィに手を貸す。
伸びて来たひんやりして小さな手を握りしめる。
「トキオ、ありがとう。……しかし、ケイティはちゃんとして下さい!あなたが一番詳しいんですから頼みますよ!」
ルミィが時夫の手を握ったままケイティに怒る。
手がブンブン一緒に振るわれる。
「ルミィ……手」
「て?……あ、すみません!」
顔を赤くしながらワタワタ手を離す。
「ふーん……ルミィは積極的にゃ〜。あたしも負けにゃいにゃ〜ん」
腕に抱きついてくる……のをルミィが杖で通せんぼして防ぐ。
「真面目にして下さい!先を急ぎますよ!」
「にゃは!じゃあトキオ、後で……ね?」
ケイティがパチリと器用にウインクした。
猫耳も一緒に片方折れる。
「ダメ!トキオ、ダメですよ!」
ルミィが時夫に振り向いて必死に言ってくる。
子供みたいな様子につい笑いそうになる。
「はいはい」
「トキオ!真面目に!」
ルミィが、むむっと眉を顰める。
「わかった。わかった。で、次は何があるんだ?」
ケイティに話を振る。
ルミィを揶揄うのは面白いが、のんびり出来る場所では無い。
「次は……あたしが突破できたのは一度きりの所。
他の冒険者を犠牲に一人生き延びた所」
ケイティが僅かに緊張しているのがわかる。
「この先には……ドラゴンゾンビがいるの……にゃ」
ケイティの尻尾の毛が逆立っている。
「ドラゴン……か」
強敵の予感に時夫も気を引き締める。




