第98話 スライムマスター
ケイティの持つ地図を頼りに先を進む。
「お、また宝箱があるぞ!前に見たのよりちょっと見た目が良いな」
「あー、それハズレにゃん。中には宝箱しか入ってないにゃん」
「……何だそれ?」
開けてみて分かった。
箱の中には箱があった。
少し小さめだ。
中の箱を開ける。
さらに小さい箱が!
「………………」
マトリョーシカかな。
「本当にハズレのようですね。先を急ぎますか」
ルミィの時夫の手元を覗き込む。
「いや、コレはコレで、いろんなサイズの箱が手に入るから持ち帰ってお土産にしよう」
空間収納の空き容量はまだまだある。
アルマに次のボーナスで、更に容量大きくしてもらうか。
「手のひらサイズのもあったら私も欲しいわ。
小物入れにしたいの」
「オッケー。どうせタダだし」
イーナがおねだりしてくる。小さい子のお願いは断れないな。……例え中身はおばあちゃんでも。
よしよし、オジちゃんに任せとけ。
もっと良い物見つけてやるからな!
「あ!また虫が来る!にゃん」
ケイティの猫耳がピクピク動いた。
「任せろ。『空間収納』。
……皆んな伏せろ!!!」
時夫の警告にルミィとイーナが即時従い、うつ伏せになって頭を守る。
「な、なんにゃ!?」
目を白黒させるケイティを引っ張り、時夫の下に押さえ込んで伏せさせる。
時夫達と虫達を隔てるように通路を極大ノーマルスライムが覆う。
そして、無色に近いノーマルスライムの向こう側で、虫の大群そばに赤と焦げ茶色のスライムがボトボトと落ちて、二色が互いに近づき接触すると……
重い爆発音が響いた。
通路を覆っていたノーマルスライムが衝撃で散り散りに飛び散っている。
「耳がキーンってなるな……」
時夫は伏せていた顔を上げながら、確認する。
よし!虫は全滅してるな。
そして、壁には傷一つ無しか。
古代魔法つえー!
「何なんですか!もう!先に説明してから行動してください!」
ルミィが顔を顰めながら顔を上げた。
「うう……耳が……」
イーナもしゃがみ込んで目を瞑って耳を抑えている。
一番ダメージを受けているのは、獣人で他のメンバーより耳が良いケイティだ。
「何が起きたの?何?何?」
猫耳を手で押さえて、しゃがみ込んで首を振っている。にゃんにゃん言う精神的余裕すら無いようだ。
「ああ、火炎スライムと、液体燃料を混ぜたスライムを接触させると爆発するんだよ」
「何でそんな事知ってるんですか?と言うか何でスライムがこんなに沢山……」
「いや、スライム系のギルドの依頼を受けまくって集めたりしてて……」
時夫の冒険者ギルドの二つ名は『スライムマスター』または、『スライムに親を殺された男』だ。
何故かスライムに恨みがあると思われているらしい。
親は健在……と思いたい。
何かあったとしてもスライムは関係ないな。
「やはりスライムは狭い所なら盾に使えるな。
広い所なら鎧にすれば良いし……。
後はどうやって内部で呼吸を確保するかと、こちらの意思の通りに配置する方法……」
「にゃにブツブツ呟いてるにゃ。とにかく、爆発させるなら先に言ってて欲しかったにゃん!
くらえ!猫パンチ!」
「いて!いて!やめろ!せっかく難しい事考えてたのに!」
「ちょっと……何二人で遊んでるんですか?行きますよ」
ルミィが腕をしっかり掴んでグイグイ引っ張ってくる。
「えい!えい!猫パンチ!猫パンチ!」
「だーかーらー殴るのやめろって!ふざけた声出してる割に威力はしっかりあるバグやめろ!」
「真面目にやってください!」
「いや、ケイティが殴ってくる……」
「あらあら、時夫くんモテモテねぇ」
「イーナも笑ってないで止めてくれ!」
「にゃ!そっちじゃにないですよー!」
「あなたが地図係なんですから、ちゃんと働いて下さい!」
「やれやれ。なんて落ち着きの無い奴らだ」
「マトモぶるにゃ!猫パンチ!」
何故か歩いているだけでダメージを喰らい続けている。
時夫は生きてこの大迷宮を出る事は出来るのか?
時夫の腕を握りしめるルミィの握力の強さがやばい。
どうやばいのか。具体的には手の先に血が通わなくなってて、冷たくなってきてるのでやばい。
「猫パンチ!猫パンチ!」
猫獣人も人間の脆さか弱さを理解してなくてやばい。
多分服の下はアザだらけだ。
この先に待ち受けるのは……死!
「あら、いかにも仕掛けがありそうな像があるわ」
マトモに見せかけて、女性二人の横暴を止めないが見た目は可愛いイーナが、小さな手で指し示すのは、
「スフィンクス?」
少し開けた場所に鎮座していた。
と言っても、もちろんエジプトにいる奴より大分小さい。
「スフィ……?人面大猫ですよね?」
ルミィに不思議そうな顔で訂正される。
「いや、俺たちのいた世界にはスフィンクスって名前で、こういう伝説上の生き物がいたんだ」
「この人面大猫の出すクイズに答えると下の階に行けるにゃん!」
ケイティが地図から顔を上げて教えてくれた。
「なんかそれ知ってるパターンの奴だな」
向こうの世界の情報がこっちに来てる?
それともこっちの情報が向こうへ?
ルミィ達古代魔法を研究する奴らが別世界の物を仕入れているみたいだし、情報被りは偶々じゃ無いんだろうな。
そんなことを考えてると、頭上から低い声が聞こえた。
わお!イケボだ。
――朝は四本足、昼は二本足、夕は三本足。この生き物は何か?
これ!進研◯ミではやらなかったけど、知ってる奴だ!
そもそも進研ゼ◯やった事ないけどわかる!
「答えはニンゲ……」「南方手足もげもげタコネズミですね」
時夫が答えようとしたのにルミィに遮られた。
変な単語が聞こえた気がした。
「今……なんと?」
時夫は狂人を見る目でルミィを見つめる。
「南方手足もげもげタコネズミだにゃ!」
ケイティも元気いっぱい答えた。
――正解だ。
ゴゴゴゴゴ…………!!
スフィンクス……ではなく人面大猫がのんびり動いて、部屋の隅っこで丸まった。
人面大猫のいた場所には下に続く階段があった。
「南方手足もげもげタコネズミ……?」
イーナも知らなかったみたいで、小首を傾げている。
それが何かは分からないが、生涯会いたく無いタイプの生き物である事は時夫にも分かった。
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