朝顔
暑い日差しが窓から入り込む。
もう7月だ。
- ピンポーン~♪ -
「開いてるよ〜」
僕はソファにもたれたまま、そう答える。
「お邪魔しま〜す。今日も暑いですね。」
そう言いながら部屋に上がってくる彼女。
テーブルの上に乗った薬袋を見て
「今日の分のお薬ちゃんと飲みました?」
と心配する彼女。
「ちゃんと飲んだよ。」
僕は小さい頃から病弱で入退院を繰り返していた。
一時期は注射をしていたが、今は内服でコントロールできている。ただ、僕が小さい頃、夜中に暗い部屋で母親の啜り泣く後ろ姿を見た。そのときに「僕の人生は長くないんだ」と悟った。
彼女にはそのことを話していない。
ただ健康診断でコレステロール値が引っかかって、コレステロールを下がる薬を飲んでいると説明している。
最近は暑さもあり、2人で外出はしていない。
家でまったり過ごす時間が多い。
「そういえば、最近は家で何してるの?」
僕の問いに、
「う〜ん、何してるっけ」と濁す彼女。
多趣味というか熱しやすく冷めやすい彼女は
いろんなことに興味を持ってはすぐにハマる。
以前は、同じ質問をすると
「カップケーキ作り!」「アクセサリー作り!」
「ミステリー小説読んでるよ!」と即答していた。
今回の彼女の返答に思うところはあったが、追求はしなかった。
気がつくと僕は居眠りしていたようだ。
テーブルの上に置き手紙、
「今日はもう帰りますね。
疲れているようだったので起こしませんでした。
お許しを…!」
メッセージの横に、土下座しているうさぎのイラスト。お世辞にも絵心があるとは言えない。
そんな歪んだ線で書かれたうさぎでさえ愛おしく思う。
もう帰り着いたかなぁ…
ふと、玄関に彼女の傘が置き忘れていることに気づく。そういえば明日から雨が続くよな。
届けよう。
僕は彼女の傘を握り、自宅を出た。