紫陽花
- ピンポーン~♪ -
自宅のインターホンが鳴る。
寝ぼけながら、頭元のスマホを手にとる。
スマホの画面には10:30の時計の表示と、
充電の残りが少ないことを知らせる赤色のバッテリーマーク。
昨日、動画を観ながら寝落ちしたためにスマホの充電が少なくなっていたのだ。
- ピンポーン~♪ -
早くドアを開けるよう催促するインターホン。
「はぁーい…」
ドアを開けると同時に、
「もう~!また寝坊ですかー!」
わざと怒った表情を作る彼女が立っていた。
「ごめんごめん…」
「今日は一緒にお出かけするって話だったのに!!」
「今から準備するよ…」
僕は洗面所へ向かい、身支度を始める。
彼女は「お邪魔しま〜す」と僕の部屋に上がり、
ラグマットの上にちょこんと正座する。
「今日はどこに行きましょうか」
彼女が口を開く。
彼女は僕より8歳も年下。
出会った頃から、僕に敬語で話す。
その癖が抜けないのだろう。今も変わらず敬語だ。
最初はよそよそしく感じていたが、
敬語で話す彼女に僕の方が慣れていった。
「どこがいいかなぁ…」
歯を磨きながら答える僕に、被せて彼女は
「紫陽花!紫陽花を見に行くのはどうですか?」
とキラキラな笑顔を見せる。
続けて「電車に乗って、途中でお弁当も買いましょう!」と1人で計画を立てていた。
「そうか…もうそんな季節か」
カレンダーに目を落とす。6月17日。
例年であれば梅雨に入っている時期なのに
雨は滅多に降らない。今日も晴天だ。