【クリスマス特別ストーリー】 似合う!? 似合わない!? サンタ! トナカイ! ジングルベル!!
〇 登場人物紹介 〇
3人とも既存のオリキャラですが、
まったく気にせず、この短編だけで楽しめます。
上津原 美桜 ・・・ スピンオフ主人公。鬼の風紀委員。偽モノ悪モノ汚れモノが嫌い。ゆるふわミディの髪型だけど人当たりはブルコワ。
私帰 ののか ・・・ 本編では主人公。空元気を出す引っこみ思案。入学日から親友の茅吹さんLOVE。
茅吹 かざね ・・・ ポニーテールのハツラツとした陸上部員。性格は天然&天使。私帰ののかと親友。
〇 その他 〇
作品気に入っていただければ、ぜひ他の人にもおすすめを!
高評価などもいただければ、活動継続のはげみになります!
※ この作品を知ってもらうため、単品と元シリーズ『背中に気をつけて![YOUR6!] 』の2つの場所に、この作品があります。(同内容)
―― ジングルベルは私に似合わないなと、クリスマスイヴのショッピングモールを歩きながら思う。
私は上津原美桜。高校1年生。学校では風紀委員をしている。
冬服のスクールコートが普段使いしやすくて助かるわ。こうして手袋とマフラーもすれば、これだけで冬の外出には困らない。
時刻はお昼過ぎ。3階のこの辺りはおもちゃ屋さんや雑貨店みたい。店内の飾りつけが特にクリスマス一色。
みんな、思い思いの過ごし方。
だから、私も私なりの過ごし方。
私はこういう年中行事はいちいち特別な日とは思わず、いつも通り過ごすほうで、
クリスマスの場合は、両親があれこれクリスマスらしいことをしてくれるくらい。
何か気分が向いたとしてもできることもないので、部屋で映画を1つ選んで観る程度。
私のクリスマスっていうと毎年そんな感じ。
……人波とすれ違う際、なんとなくマフラーを口元に上げ直す。
その中にはカップルもいて、そういえばクリスマスではああいうのがむかつくって人もいると聞くけれど、私はそういうのまったく無いな。
私がこのショッピングモールに来た目的。
それは、両親に渡すプレゼント探し。
なんか、してもらってばかりってのも嫌だからね。高校生にもなったし。
でも…、うーん…。
お父さんとお母さんがおくられて一番喜ぶプレゼントって、いったいなんなんだろう?
☆〇*☆ クリスマス特別番外編 ☆*〇☆
似合う!? 似合わない!?
サンタ! トナカイ! ジングルベル!!
―――…
…行く当てがなくなって中央付近にあるフロアマップを眺めていたところ、
私の後方…、たしか雑貨店があった所から、
女子学生2人の姦しい口喧嘩が、耳に飛び込んできた。
「サンタが似ーーーー合ーーーーう!!!」
「トナカイが似ーーーー合ーーーーう!!!」
…まるで子どものケンカね…。どこ校のどいつよみっともない…。
ていうか、なんの言い争い…?
「サンタは似合わないーーーーー!!!」
「トナカイ似合わないーーーーー!!!」
わけがわからない……。
振り向いてその地獄の現場を見てみると…、なんと同じクラスの、私帰ののかと茅吹かざねだった……! アイツらぁ……っ!!
空元気を出す内気な子と、ポニーテールの陸上部の子。
風紀委員として私が行って場を収めなくちゃいけないけど……。
…今のあいつら…、 め ち ゃ く ち ゃ め ん ど く さ そ う ね……。
私だって時には、嫌だとか、めんどくさいとか、難しいとか、わかんないとか、思うことあるわよ。
でも、そういう尻込みする気持ちは、
いつだって自分のポリシーで振り払い、前に進んできた。
「 ―― そんなこと言ってる場合? 」
呪文をかけるように口にした。
この言葉で、いつだって、何にだって、自分を奮い立たせられる。
―――……
上津原「『 ハッピークリスマスなかよしフォト 』ーーー!!??」
2人に話を聞いたところ、揉めている原因はどうもそれらしい。
なんでも、この3階にフォトスタジオ(写真館)があって、そこでそんな名前のクリスマス限定の撮影プランが取り扱われているらしいのだ。
スマホの特設ページを見るに、その撮影プランというのは、
① まず店内で好きな"サンタかトナカイの衣装"を買って、
② そのままフォトスタジオ内に用意された素敵なクリスマスセット(舞台)で、プロのカメラマンにたくさん写真を撮ってもらえる。
というもの。
そこで私たちが気をつけなきゃいけないルールは1つ!
写真は、"サンタとトナカイ一緒に撮らなくてはいけない"ということ!(なかよしフォトだから?)
んで、
この2人は、"互いが互いのサンタ姿を見たがっている"…つまり、"どっちがサンタを着るべきか"で揉めているという、
しょーーもない痴話ゲンカだったらしいのだ。
上津原「はぁ、あきれた…。べつにどっちがどっちだっていいでしょ…」
私帰「いーや、よくないっ!! 茅吹さんのサンタ姿…いや、サンタコスが見たいんだよぉーーっ!!」
上津原「それどういう言い直し?」
私帰「プレゼンするとしたらこんな感じっ!」
妄想茅吹《 茅吹サンタだよ~♡ 今日はいーっぱい、癒してあげるからねっ♡ ぎゅ~っ!♡ メリークリスマ~ス!♡ 》
上津原「あはは……」
茅吹「ううん! ののかのサンタさんのほうがぜったい可愛いもん! プレゼンするとしたらこんな感じっ!」
妄想私帰《 …うぅ…。私なんかがサンタ服着たってしょうがないから、こんなの恥ずかしいよぉ……。で、でも…、それでも2人でクリスマスをすごしたいって思ったから…、がんばって…着てきたよ…♡ 》
上津原「はい……」
2人「「 このシチュエーションが見たすぎるーーーー!!! 」」
……ピキピキィ……ッ!!
……い・た・わ……。最高にムカつくバカップル……!!!(カップルじゃないらしいけど)
てゆーか、サンタ服1着でもあとで勝手に着あいっこしてイチャイチャしてればいいんじゃないの……?
茅吹「陸上部だからあたしがトナカイーー!!」
私帰「自信が持てない私こそトナカイーー!!」
茅吹「トナカイのモノマネぇ! タカラッタカラッタカラッ!!(駈歩)」
私帰「トナカイのモノマネぇ! トーナトナトナトナァーーッ!!(奇声)」
上津原「はいはい…わかった、わかったから…。このままじゃラチがあかない…っていうか、店の前でめちゃくちゃ恥ずかしいから……」
私帰「トーーナトナトナトナァーーーッ!!!」
上津原「私帰さんそれ本当にやめてっ!! …とにかく、どっちがサンタが似合うのか、トナカイが似合うのか……」
―――……
上津原「この4階!!! ゲームセンターで決めてあげるわ!!!」
2人「「 おぉお~~~~~~!!! 」」
決着をつけるため、3人でここまで移動してきた。
こうなれば勝負事で決するしかないと思い、となればここしかない。
クリスマスイヴということでゲームセンター内は大賑わいだった。人の声とゲーム音声、ダブルで騒がしい。
ゲームセンターってうるさいし不良みたいだから本当は苦手なんだけど、そんなこと言ってる場合じゃない…。
上津原「とりあえずは普通に遊んでてくれていいわ。その中で私の目利きで、どっちがどっちにふさわしいかを見極めてあげる。一番最後に結果発表をするわねっ!」
私帰「はい、わっかりましたぁ! 茅吹さんと上津原さんとゲームセンター! うれしいな~!」
茅吹「そうそうっ! 上津原さんも一緒に遊ぶよねっ!?」
上津原「うーん…。まぁヒマになりそうだし、ゲームに合わせてそうするわ。私こういうトコの遊び方知らないから、不良の2人が教えてちょうだいね」
2人「「 あっ!! 不良じゃないですぅ~~!! 」」
上津原「 い・ま? 不良対応中なんですけど~? 」
私帰「ぐぬぬぅ…! じゃあ、えっと…、どこから行きます…?」
茅吹「どれも面白そうだね~! 迷っちゃう!」
上津原「ま、まずは定番からじゃない…? どれがいいのかしら?」
不慣れな3人で謎の連帯感が生まれつつ、ぎこちなくもゲームセンター遊びがスタートした。
☆ UFOキャッチャー ☆
私帰「私こういう精密系得意なのでやりますっ! でもいきなりは集中力高まんないなぁ…」
茅吹「ののか! がんばって!!」
上津原「私帰さん、 お 金 は 大 切 に ね 」
私帰「集中力マァーーーックス!!!」
上津原「でもアナタ…こんなのが欲しいの? 銃のニセモノ…? モデルガン…? なんて」
私帰「あはは~。そうですね~、ちょっとほしくてェ~」
上津原「よく私の目の前で堂々と不良行為できるわね…。まぁ、そんなおっきくて重たそうな箱、持ち上がりもしなそうだしいいわ。1回きりにしときなさいね」
私帰「まぁ~見ててください! 集中します!!」
私帰さんがボタンを1つずつ押してUFOを操作し、アームを降ろす位置を決定した。
上津原「ちょっと…! 集中するって言ったのに、そこじゃ絶対に掴めないじゃない!!」
私帰「いいんですよ、ここで」
上津原「えっ……」
私帰「掴むだけじゃないんです。取るコツの1つは、"隙間を狙う"こと……!! ひっくり返った化粧箱……、底面を囲う、蓋の縁との間の……わずかな隙間……!!」
上津原「あっ……!!」
私帰「ミリ単位の精密さで……アームをそこに突き刺す!!! 突き刺さってるから抜けず、他のアームが箱を支えるようにして持ち上がり……、パチモンゲットだぜぇ!!!」
上津原「き…私帰さん……!! この力は利用できる!!!」
茅吹「次、ぬいぐるみいこう!! フィギュアの箱も獲れる!!」
私帰「2人とも!! 欲望!!!」
☆ プリクラ ☆
私帰「あこがれてはいたものの…、やり方わからん…!!」
上津原「あ、私帰さん、ここみたいよ。カーテンの中じゃなくて、外にある機械の操作からみたい。ここにお金を入れたら、撮影の設定ができるんだって。勝手に変な設定にされちゃわないように、私が真ん中に立つわよ? …はぁ、プリクラって…、私、やっぱりやめといたほうが良かったかしら…」
茅吹「ううん、楽しい記念撮影って思えばいいんだよっ! 実際プリクラってそーゆーものだろーし! あ、加工のアリナシが選べるみたいだよっ!」
上津原「ナシ連打!!! …それにしても3人で画面見るとなるとちょっと…狭いわね…。冬服だからかしら?」
茅吹「ぎゅっぎゅっ」
私帰「えいえい~」
上津原「あっ! 2人がわざとくっついてきてるだけじゃないっ!!」
2人「「 あはははっ! バレた~!! 」」
上津原「もう…」
茅吹「ほらほら上津原さん~、今度は撮影するポーズを、何種類か選ぶみたいだよ~」
私帰「おお~! 流行りのポーズ用意してくれるのめちゃ助かる! ピースやハートだけでもたくさん種類あるんだなぁ~! 3人用のポーズもありますね! これ真似するだけでも、それっぽい写真が撮れそう!」
上津原「あぁあ…! 私やっぱり…やめといたほうが…!」
私帰「あはは! つくったプリは他の人に見せたりしませんから! せっかくですから、3人で撮りましょ撮りましょっ!」
茅吹「私たちだけの思い出にしよう!」
☆ ガンシューティング ☆
上津原「…ジャスティスコップ3?」
私帰「これはぜひ上津原さんにやってもらいたいです! ガンシューティングのアーケードゲームで、主人公は平和を守る正義の警官。ハンドガンを手に、凶悪犯罪組織のアジトに潜入!ってやつで、ぴったりかと!」
上津原「まぁ、べつにいいけど…。ケーブルで繋がってるこのおもちゃの銃の引き金を引けばいいのね」
私帰「コート姿の上津原さんが銃持ってるの、サマになってるなぁ……」
―――……
上津原「はぁ…、ふぅ…! どんどん激しさを増していったけど、私は負けないんだから…!」
茅吹「ド…ドラマの撮影か何か、かな…?」
私帰「動きもうかっこよすぎて…! なんかもう…ありがとうございますっ!」
上津原「どういう反応!? いつの間にかすこし観衆までできてるしっ!」
私帰「あのすばしっこいボス倒すまで、ゲームに集中しきりでしたもんね!」
上津原「ええ。ミスなく素早く倒すほど、ハイスコアが狙えるから…ついね。でもそのシステムが私の性に合ってて、楽しかったわ。高難易度ステージもあるし、またこれだけでも遊びに来ようかしら」
私帰「気に入ってくれて何よりです! そんな上津原さんに…、これプレゼントっ!」
上津原「?」
私帰さんが差し出してきたのは、彼女がUFOキャッチャーで手に入れていた、モデルガン…? の箱だった。
私帰「元からこのつもりだったんです! このゲーム気に入ってくれるはずって思ってたので! 1回で獲れた物ですし、もし良ければ、もらってもらって!」
上津原「あ、ありがと…。不良の物って言っちゃったけど、今のゲームのあとだと嬉しいわ…」
☆ パンチングマシーン ☆
上津原「そろそろゲームセンターで遊ぶのもおしまいかしらね! 最後にこれで、思いっきりっ!」
茅吹「いっぱい遊んだねー! これは2台あるけどあたしはパンチ苦手だから、上津原さん交代ありがと!」
上津原「フフ…。ちょうど…、憂さを晴らしたいこともあったからね」
茅吹「?」
私帰「じゃあ、パンチ力測定が1ゲームで3回できるみたいなんですけど、1回ごとに大声で言いたいこと言いながらパンチして、ストレス発散するってのはどうです?」
上津原「オーケー」
茅吹「じゃあ、パンチ力測定1回目、スタート!!」
私帰「うぉおーーー!!! お金がまじでほしいーーー!!!」
上津原「私帰と茅吹ぃーーーーっ!!!」
2人「「 なんでぇ!!? 」」
上津原「フフフ……」
さんざんムカつかされたからね。ちょっとスッキリした。
茅吹「ふ、ふたりとも違う掛け声がいいかな~…。2回目!!」
私帰「イケてる顔と体型になりたーーーい!!!」
上津原「サンタでもトナカイでもどっちでもいいーーーーっ!!!」
2人「「 なんでぇ!!? 」」
上津原「フッフッフ……」
やっぱり気持ちが乗ると、いいパンチが打てるものなのね。
茅吹「さぁ2人とも!!! ラスト3回目だよ!!!」
私帰「最後は軽く助走つけていこうか!! 上津原さん!!」
上津原「ええ!! 全身全霊、最大馬力のパンチ力、叩き出すわよ!!!」
上津原&私帰「「 ハァァアアアアアアアアアアッッ!!!! 」」
私帰「 将来の不安 ~~~~~~~~~~ッ!!!!! 」
上津原「 政治の腐敗 ーーーーーーーーーーッ!!!!! 」
上津原&私帰「「 …ハァ……、ハァ……!!! 」」
茅吹「…こ、こわいよ…2人とも……」
―――…
茅吹「ふぅ~~! なんかたくさん遊んでたら、店員さんからクリスマスの飾りもらっちゃったね! クリスマスリースと…、なんだっけこれ?」
上津原「クリスマスガーランド(長いひもに飾りが連なったもの)って言ってたわよ。1人1つずつくれるなんて、太っぱら」
ゲームセンター…。騒がしいし、やっぱり好みの場所ではないけど、楽しいのは楽しいのね。
初プリ…? というのも撮ることができた。
私帰「ゲームセンターたんのしかった~!! …さぁ、上津原さん!!」
茅吹「うん! そうだよね!」
2人「「 どっちをサンタさんにするか、決まりましたか!!?? 」」
茅吹「どきどき…」
上津原「…ええ。それじゃあいったん疲れたし、お店で飲み物でも飲んでから、発表しましょうか」
目的の喫茶チェーン店は1階ということで私たちはエレベーターへ。
道中私たちは、多少の小競り合いも交えながら、ジングルベルが流れるショッピングモールを歩いた。
ゲームセンターの感想や、素敵なお店の発見にも花を咲かせた。
2人に、お父さんとお母さんが喜ぶプレゼントは何がいいか訊いてみたけど、わからないって言われちゃって、ちょっと困ったわね……。
―――……
喫茶店での注文は、私帰さんと茅吹さんは同じクリスマス限定の、いちごミルクのタピオカドリンクにしていた。
下半分が赤、上半分が白という、一目でわかるクリスマスカラー。仕上げに細かなラズベリーがちりばめられている。もう片方が同じ物を頼んだ時は、ちょっとイラッとしたけどね…。
2人の対面に座る私が頼んだのは、ホットコーヒー。
2人「「 え、なにそのおしゃれなコーヒー!!? 」」
上津原「せっかくだから、メリークリームっていうのが乗ったやつにしたわ。ホイップクリームとマスカルポーネチーズが合わさったやつだって」
2人「「 なんかオットナ~~!! 」」
上津原「べつになんでもいいけど…」
…あっ…。なんというか、すごくリッチな味わいで、こんなコーヒー今まで飲んだことない…。
濃厚なクリームと芳醇なコーヒーで、幸福感で心まで温めてくれる。そんな1杯。
こんな素敵なのを選んで良かった…。
他の話はだいたい済んでいるので、それぞれ飲み物を味わったところで、すぐに本題に入った。
2人「「 さぁ、上津原さん!!! 私たちのどっちがサンタで、どっちがトナカイですか!!?? 」」
上津原「…………」
対面にサンタカラーのドリンクが並んでるのは、今の状況にぴったりではあるのか……。
ホットコーヒーを頼んでおいて正解だった。興奮しきりの2人を前に、気持ちを落ち着けることができる……。
……2人の痴話ゲンカをどう収めるかなんて、最初から決まってた。
フォトプランの人数は2人に限らないみたいだから、私がトナカイで参加して、私帰と茅吹、2人ともサンタにする。
出費は痛いけど、今日は楽しませてもらったし、それで良しとしようと思った。
2人「「 ……あ!! ちょっと待って!! 上津原さん!! 」」
上津原「!? どうしたの…!? 2人向き合って…」
2人「「 茅吹さん/ののか は、トナカイ姿もすっっごくかわいいからね!!! 」」
上津原「………ッッ!!!」
ピキピキピキィ………ッッッ!!!
あーー…、丸く収めてあげようと思ったけど、気ィ変わっちゃったかも……。
茅吹「見て見てののか~♡ 混ぜるとピンク色~♡」
私帰「茅吹さんかわい~♡ 私もピンク色にしちゃお~♡」
ブチィィイイイイイッッッ!!!!!!!
――――……
―― ショッピングモール3階、フォトスタジオ。
クリスマス衣装を選び終えた私たちが、いよいよ『ハッピークリスマスなかよしフォト』を撮影してもらう出番になる。
撮影するセットは、クリスマスパーティーの真っ最中みたいな、にぎやかに物が散らかったものを選ばせてもらった。
カメラマン「それでは3名でお待ちの、上津原様、どうぞーーー」
……入場したのは、ぷるぷると震える足で4足歩行する、不憫な、2人並んで首輪を付けられたサンタたち……。
2人のサンタの首輪は手綱で引かれ、後ろで黙りこくって立っている着ぐるみのトナカイに、片手で握られている……。
被り物のトナカイの丸い目はどこを見るでもなく虚ろだ…。ぶらりと下げた右手には、拳銃が握られていた……。
カメラマン「ヒ……、ヒィ……ッ!!」
サンタ服を着て四つん這いになった、私帰ののかと茅吹かざね。2人とも首輪のクリスマスリースが鈴の音を鳴らしてかわいらしい。
トナカイの着ぐるみで気だるげな私。クリスマスガーランドをリースに結んで手綱にし、2人を拘束して歩かせている。
私帰「 わぁーーーーんっ!! 」
茅吹「 ひぃーーーーんっ!! 」
上津原「もう立場は逆転してるの。アンタたちがトナカイをつれていく側なのよ。お得意のトナカイの真似でもしてみなさいよ」
茅吹「タカラッ、タカラッ!!(涙)」
私帰「トナトナァ~~~!!(涙)」
上津原「まぁ~2人ともお上手ね♪ さぁ歩け♡ 歩け♡」
カメラマン「え…ええと…、このようなお写真がよろしい、ということで…?」
トナカイの2人がうんうんと激しくうなずきを見せた。いい子ねぇ、2人とも。
上津原「ええ、そうです。私たち、こういう関係なんで」
カメラマン「ゴ…ゴクリ…ッ!! じゃ、じゃあ…、撮りまァーーーっす!!!」
* * * * *
「 カウントしまーーす!! 」
「 3……!! 」
…なんか、スタジオスタッフたちのざわつきよう…。怯えとか戸惑いというより、好奇とか興奮のまなざしで見られてる気がするんだけど…気のせいかしら? まぁ、こんなの許してくれたなら、なんでもいっか…。
2人はさっきと同じく前で四つん這いになっている。うるうると涙を流しているようだった。
「 2……!! 」
カウントが迫り、私は右手に握った拳銃を高く掲げる。
銃口を真上に。まるで犯行声明でも起こすかのように。
「 1……!!! 」
タイミングに合わせて引き金を引く。
たぶん今私は、二度とないくらい、いい顔をしてる。
「 〇*☆*〇*☆ メリーーーークリスマーーーーース!!!!! ☆*〇*☆*〇 」
―― この銃は、花火が打ち上げられる銃だ。
銃声と同時に、金銀、極彩色が空中ではじけて、まばゆい輝きを放つ。
キラキラのテープと紙吹雪が、私たちと、クリスマスパーティーセットに降り注いだ。
前で四つん這いになった2人が、銃声に驚き跳び上がる。
ピストルクラッカーを頭上に掲げて、悪どく笑うトナカイ姿の私。
サイテーサイアクで、バカ面アホ面だらけ。
NGシーンみたいなふざけた絵面。
撮り直しでしかないはずだ。
でも今日の私たちの1枚目は、これでよし。 ――――
* * * * *
―― ショッピングモール3階、道端のベンチに腰を下ろす。
ポシェットからスマホを取り出して、メッセージアプリを開いた。
そういえば、帰りが遅くなること、お父さんとお母さんに連絡しとかないと。
私帰さんと茅吹さんを待たせてるし、手短に要件だけ打ち込む。
………。
……よし、送信、と。
私帰「上津原さん、こっちこっちーー!!」
茅吹「おーーーいっ!!」
上津原「もう…そんなに先に行ってぇ…!! さっきの仕返しじゃないでしょうねーー!? 今行くから待ってーー!!」
<『 買い物中にクラスメイト2人と会ったから、帰り少し遅くなります。』>
さーって!
お父さんとお母さんがおくられて一番嬉しいもの、探さなくっちゃっ!
クリスマス特別番外編 終わり 〈B2F〉