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魔力

 「まあ、それはともかくとして」

 秀が話題を変えた。相馬が視線を移すと、そこには先ほどの様子など微塵も見せない王がいた。

「お前たちを選んだ理由は、素質があるからだ」

「素質?」

「そう、素質。魔力を持つ素質」

「魔力?」

 相馬はとぼけたような声で秀の言葉を繰り返した。実際、何が何だかわからなかった。自分に魔力を持つ素質があるって、どういうことだ?

「利用しているようで悪いが、有無を言わせられない状況だ」

 秀は相馬に向けて右手を突き出した。

「私と同じ身体になるだけだ。耐えろ」

 それは命令なのか、秀の祈りなのか。どちらともとれる表情で、秀は、手に闇を集めた。そして、そのブラックホールは相馬の身体を侵食するように、伸びていった。

 あの鏡と同じ感じ・・・。相馬は身体中の血液を入れ替えられているような錯覚を覚えた。自然の流れに逆らって、血液が動く・・・それは怪我や注射と同じ。それが多量なだけだ。そんなとき人間がどう感じるか。

「い・・・痛い、っ」

 耐えていた言葉が漏れる。闇が消えると、相馬は崩れ落ちた。

「・・・相馬さんに、何をしたのですか」

「魔法が使えるようにした」

「協力するとは言ってないのですが」

「困るな。協力してもらわねばならない」

「っ!?」

 秀は自身を睨んでいる佐倉より、更に恐ろしく冷酷な表情で佐倉に手を向けた。

「貴方は自分がされて嫌だったことを、他人にもする人間なのか!」

 闇の中で佐倉が叫ぶ。いつもの丁寧で冷静な、無機質な言葉ではない。

「この状態で喋るとはな、愚かだ」

 秀は佐倉に魔法を与え終わると、つまらなそうに視線を逸らした。

「・・・生きていたのか」

「つ・・・ぁ」

 佐倉は地面に突っ伏した。相馬は思わず声を上げる。

「違う・・・僕の兄さんはそんな人じゃないよ!貴方は兄さんなんかじゃない!」

「相馬、教えてあげよう」

 秀は諭すように言った。

「お前の兄は先ほどのような言葉を思いつかない。先ほどの言葉は王が紡いだんだ。だがお前の兄は私で、私は王だ。そして私は先ほどの言葉を嫌う」

「え、どういうこと?」

「相馬、秀様は王になるまではずっと笑顔だった。人間界にいたころの『子ども』や後に生まれる予定だった相馬の『兄』としては、笑顔しか知らなかった。魔界に来て、一人の『人間』となったときは、辛いことも知ったが、笑顔を望んだ。そして『王』になったときに、様々な表情を使い分けるようになったんだ」

 隣で蓮が話す。

「役目によって、人は変わる。王としてあるべき人間性も存在する。たとえそれを望んでなかったとしても」

「蓮、もういい・・・あまり言うな」

 その秀の表情を見て、相馬は理解した。秀は、佐倉を傷つける言葉、本当は言いたくなかったんだ。

「相馬・・・と佐倉、起きられるか?」

 佐倉がゆっくりと起き上がる。秀に視線を合わせることはない。

「お前たちに与えた魔力、どんな魔力かは人次第だ。様々な属性がある。自分に一番合った属性になっているはずだ」

「ふーん、使ってみてもいいですか?」

「いや、必要なときにしておけ。魔力の使用は体力を使うからな。ちょうど今は体力を削った直後、やってみたところで上手くできまい。体調を整えた後、思い描けばそのとおりにできる」

「・・・承知しました。よく覚えておきます」

 佐倉が小さな声で応えた。佐倉は佐倉なりに、先ほどの自分の言葉を後悔しているのかもしれない。

「ところで、何故僕たちを呼ばれたのですか」

「そう、それなんだ・・・」

 秀の顔が曇る。よほど深刻な話なのだろうか。思わず相馬は息を呑んだ。秀の話は、こんな話だった・・・。

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