エピローグ
まるっきり一年ほど、いなかったらしい。
それは驚くわ。
警察には、遠くに行ったけど場所を覚えていない、と言っておいた。
そんなこんなで、中学に進学した。
どういう手続きしたら行方不明者進学させられるんだよ。
・・・佐倉は、うまくやっているのかな。少しは、じいやとやらに大切にしてもらえるんだろうか。
「呆けてますなあ、相馬」
「そりゃね」
「家出して頭のねじ数本抜けたか」
「いや、頭はしっかりしています」
練菜が捜索願を出してくれたらしい。こうして隣の席にいる。
「しっかし、目の前でお前が消えたときは驚いて腰を抜かすかと思ったわ」
「僕の最後の記憶だと、その割には焦ってなかったようだけど?」
「そうかー?」
捜索願を出すまでも非常に手際がよく、親もすぐに落ち着かせてくれたらしい。
ありがたい友人だ。
「ねえ相馬、この学校HIRYUがいるんだってー!しかも一年!タメだったんだねー」
「ごめん、ひりゅうって誰?」
だが一年いなかった代償はやはり大きく、この手の話題にはまったくついて行けない。友人の女の子に振られた話題に、相馬はクエスチョンマークを打つ。
「えー今話題のHENSIN!のギタリストだよー。HIRYUが入って本当に変身!ってくらい有名になったんだから!ま、私はその前からファンだけどねー。相馬も昔のなら知ってる曲があるんじゃない?HIYOUがいた頃のなら・・・」
と、突然女の子は涙ぐむ。
「え、どうしたの!?」
すると、彼女の友人が入り込んできた。
「あーごめん、こいつHIYOUに入れ込んでたから。HIYOUは相馬がいなくなる半年?一年くらい前かな・・・強盗に襲われて死んじゃって。それで、弟のHIRYUが入ったんだ。HIYOUと同じで放浪癖があって、なかなかバンドメンバーの予定合わせるの大変みたいだけどね。ま、両親がいないみたいだから強く言えないらしいんだ・・・兄弟二人で生活していたのに、今は一人。HIRYUもかわいそうだよ・・・」
「・・・」
「でも!それでも頑張るHIRYUが好きだ!」
「え、HIYOUから乗り換えたのー?」
「どっちも好き!」
相馬は笑顔で聞くが、死に対する魔界との考え方の違いに、顔が引きつりそうになる。
こっちが正常、で、いいんだよな・・・?
「HIRYUに会いに行こ!いるかなー?」
「えーいないんじゃない?学校来るくらいだったらバンドに行ってるって!」
「かなー?でも、行くだけ!いたらラッキーじゃん!」
彼女らは満面の笑顔で行ってしまった。
「・・・元気だ」
「そうだな」
「練菜はHIRYUって人、知ってる?」
「一応」
「へー意外。HIYOUって人も知ってた?」
「・・・ああ」
「コアなファンですねー」
「曲はひとつも知らないけどな」
「え?じゃあどうやって知ったの?」
「・・・噂、ってことにしといて」
「・・・そうしとくよ」
悲痛な表情をしていた。HIYOUの死を悼んでいるのかもしれない。
噂、じゃないよね確実に。
もしかしたら、知り合いだったのかもしれない。だって、同じ中学になるくらい近くに住んでいる人だもの。
詮索、しないことにしよう。
「入学早々なんだが、他の地域から越してきた転校生がいるんだ。みんな仲良くしてやってくれ」
担任の先生が決まって、新しい学校生活が始まる。HIRYUは結局登校していないようだった。女の子たちはその話題で持ちきりだ。
そんなに魅力的な人なんですか。
正直、恋愛はまだよくわからないし、アイドルに憧れる気持ちも持ったことがない。それだけ人を惹きつける人に会ってみたい、とは思った。純粋な興味で。
教室前方の扉がガラッと開くと、教室に渦巻いていたささやき声の会話が途切れ、しん、とした。
「こら君、それは校舎内では取りなさい」
「すみません・・・校長先生に特別に許可をいただいておりますので」
「校長に?それなら・・・まあ君は髪の色もあるし・・・とりあえずこっちへ来なさい」
「はい」
どこかで聞いた声?
そしてその姿が現れ、僕は思考を奪われた。
「久しぶり・・・つい先日ぶり、だね」
「ん?知り合いがいるのか?」
若葉色の髪、桜色の肌。制服を着たその姿は、初めて会ったスーツ姿にそっくりで。
「相馬」
「さ・・・佐倉!」
思わずガタンと机を鳴らして立ち上がる。今すぐにでも飛びつきたい気分だったが、練菜にそれを制される。佐倉もにこっと微笑むだけですぐに視線を切り替えた。
「七瀬佐倉と申します、お見知りおきを」
恭しいお辞儀。先生の指示に従って、僕の隣の空席に座る。その一挙一動が佐倉そのもので。
「本当に佐倉なの!?どうしてここにいるの!?」
「おい相馬、ホームルーム中」
「・・・後で話すから」
相馬はしゅんとなる。しかし、教室の全体から聞こえてくるひそひそ声・・・転校生格好いいね、とか、相馬とどういう関係なんだろう、とか。それが十分、相馬の元気を取り戻してくれた。
佐倉は自慢の、親友だ。
「戻ったらなぜかお許しが出て外出できるようになったと。そして割と近くに住んでいたと」
「そういうこと」
質問攻めにする女の子たちを放っておいて、佐倉と小声で話す。勿論、練菜にも聞かれないように注意している。
「はー。なんか拍子抜けしたなあ。もう会えないとばかり思っていたから」
「僕は、どんなことをしてでも会いに来るつもりだったよ」
「ありがと、来てくれて。学校なんて初めてでしょ」
「そうだな・・・新鮮だ」
佐倉は満足げに微笑む。意外と早く馴染んでくれそうでよかった。
「そうだ、そのお方を紹介して頂けないかな」
佐倉が手で指し示したのは練菜。
「ああ、この人は仕馬練菜。僕の昔からの親友」
「よろしく、佐倉」
「・・・よろしくお願いします」
佐倉はどこか警戒する様子で練菜を眺める。
「相馬と仲良くしているからって、そう妬くなよ」
「・・・!そういうわけでは・・・!」
「あはは、佐倉も親友だよー仲良くしようねー」
「・・・あ、ああ」
「相馬も罪だねえ。俺絶対渡さないよ」
「!お前!」
「仲良くしようって言った途端これですか・・・」
佐倉をなだめ、練菜を注意する。
「・・・他にも気になったことがあるんだろう?それは追い追いわかるから」
「・・・今だけはお前を信じてやる」
「あー、練菜に敬語使ってないし!佐倉の敬語取るのどれだけ大変だったことか!練菜ずるい!」
「ずるくはないぞ」
そんなやりとりをし、これから上手くやっていけそうだと思った。
佐倉と蓮と一緒だったあのときのように・・・。
そうだ。魔界はどうなっているんだろう。
兄さんは元気かな。蓮は、七人隊のみんなは。
またいつか、行けると良いな。
制服の慣れないスカートを揺らして、僕はそんなことを思う。




