友人、家族
「佐倉、入って良い?」
「構わない」
日が沈んでから、相馬は佐倉の部屋をノックする。前回のバンダナ騒動を反省し、返事があってから扉を開けた。
バンダナよーし。
「・・・何で指差してるんだ」
「バンダナ着用確認しました!」
「あほか」
そう言って佐倉は笑う。彼は、随分表情が豊かになったと思う。
「相馬になら、見られても構わないんだけどね。・・・隠せって言われてたから、これに慣れてるんだよ」
バンダナを触り、その位置を確認する。相馬はベッドに座り込む。
「そこだけ隠していればいいのに」
「余計目立つからね。で、用は?」
相馬は笑顔で答える。
「用はない」
「・・・そうか」
「あれ、突っ込まないの」
「なんとなく、そんな気もしていたから」
「ふーん」
佐倉の目を見つめる。ここに来た当初は、視線を合わせることもできなかった。彼の中で自分が認知されたということだろうか。それなら、少し、嬉しい。
「帰らなきゃね」
「・・・うん」
「不思議なものだね・・・帰っても何もないんだけど、それでも最初は帰りたかった。戦うなんてリスクの高いことは当然、拒否していた。だけど」
「今、戦いを終えてここにいる。そして、帰りたくないと思う自分がいる」
「ああ。同じ気持ちだ」
通じ合う、人間同士。やはり魔界での佐倉との会話は貴重で、誰よりも落ち着く。
「どうしてかなあ・・・帰りたくないんだよ。向こうの家族も、友だちも大切なのに。まだこっちでみんなと一緒にいたい。こっちに来たときに帰りたいと思った以上に、ここに残りたい」
「僕も・・・相馬と離れたくない」
「・・・僕?」
「ああ。他の誰よりも今、君が大切なんだ。向こうに戻ったら会えない。向こうでは僕は、外出禁止なんだ。初めて喋った、家の外の人間なんだよ」
「なんか照れくさいなあ。でも、それは確かに同情するよ。外に出られないなんて、僕には信じられない」
「ありがとう」
佐倉は、相馬にそっと手を伸ばす。
「・・・抱きしめても、いい?」
「ん」
肯定したのか、否定したのか自分でもわからない。驚きのあまり出た言葉だったのかもしれない。
だけど、次の瞬間にはふわりと佐倉に包み込まれた。
「ずっとこうしていたい」
「・・・ごめんね」
もどかしさから出てきた言葉は、それ。
「向こう行ったら会えなくなっちゃう・・・ごめんね。もっと、なんとかできたはずなのに」
「君のせいじゃない。どうしようもなかったんだ」
相馬からもそっと抱き返す。佐倉は一回り大きくなったように感じた。
「佐倉・・・・向こうに戻っても、会えなくても、友だちでいてね」
「大人になったら、探しに行くよ」
そうして離れて、微笑み合う。
何より大切な友だちができたと、そのとき強く思った。
「さて。出発の準備は整ったか」
「はい、大丈夫です」
秀の前、相馬と佐倉は来たときの服だ。
「では送ろう。直接私の魔力を受けることになる。少しダメージがあると思うが、今のお前たちには他愛もないものだ」
「はい」
「それから相馬」
「はい」
「母には私の情報は伏せてくれ。それと・・・また会おうな」
その微笑みは、王としてのものではなくて。
「・・・兄さん・・・!うん、絶対・・・絶対会いに来るから・・・」
泣きじゃくる相馬を、佐倉が優しい目で見つめる。
「さらばだ」
秀の闇に包まれ、僕たちは呑まれていった。
気がつくと、目の前には押し入れがあった。
あの日と何も変わっていないように思える。だが、練菜がいない。鏡がない。
階段を下りると、台所の机に突っ伏している母。
「母さん・・・?」
そう言った瞬間、母親が顔を上げる。そして、泣き崩れた。
「相馬・・・?嘘・・・」
「ごめん・・・遠くに、行っていたんだ」
「家出するなら一言言ってよ・・・!こんなの何度あっても慣れないんだから・・・!」
・・・何度あっても?僕は、家出なんてしたことないはずだが。
疑問は浮かんだが、今はそれを言うべきではない。
「ごめん、母さん・・・ごめんね・・・」
泣く母に抱えられ、相馬はその温かさを感じた。




