恐怖の永続性
幾日かかけて城に戻ってきた。
ナルとは闘技場のあたりで別れた。どうしても城には行きたくないらしい。
「あいつの実力なら七人隊にも入れるのにな」
蓮はそんなことを言っていた。
僕はというと、扉の前に戸惑う。
霊次との戦闘中、事実として兄さんを疑った。
兄さんは僕を殺そうとしているのだと、そう思った。それが馬鹿な考えであったと思えるのなら、それに越したことはない。
だが、帰ってきた僕らを、兄さんが受け入れてくれなかったら?
予想外の展開だと、舌打ちされたら?
・・・嫌だ。
おそらく感情が止められない。何するかわからない。そんな展開になるくらいだったら・・・死んだほうがましだ。
この扉は、開けたくない。
怖くて、開けられない。
「蓮、ちょっと待ってくれないか」
扉を開けようとする蓮を、佐倉が止める。
「・・・相馬、大丈夫か、震えているぞ」
「・・・」
声も出ない。怖いんだと、佐倉にそう伝えたい。でも、できなかった。
「何がそんなに怖いんだ」
「・・・」
「言ってくれ、頼む」
「・・・」
佐倉は僕をよくわかってくれている。扉を開けることに恐怖を感じていることも、おそらくわかっているのだろう。だが、それはなぜか・・・そこは言わなきゃ、理解できない。
言わなきゃ、いけないのに・・・!
「秀様に裏切られる可能性の恐怖」
「!」
思わぬ方向から助け船が入って、はっとして顔を上げる。
「秀様が自分を殺そうとしたのではないか、城に帰ってはいけないのではないかという気持ちが拭い去れないんだろ」
「・・・蓮・・・っ」
こくりと、頷く。どうしてわかったのだろう。
「王が・・・?今更どうしてそんなことを。そういう考えは霊次と戦ったときに捨てられたんじゃなかったのか。・・・ナルのおかげで」
「解決していないんだよ、相馬の中では。あのときは一瞬迷いを捨てられたけど、長期的には解決していない。何度でも不安になる」
「だとしても、どうして蓮にそれがわかるんだ」
「俺も同じだからだ」
「え?」
「馬鹿、忘れたのか。俺は反逆者だぜ?いつ秀様の息が掛かった兵士に後ろから刺されるかわかんねえんだ。そりゃ怖いだろ」
「ばれてるのか」
「さあ、どうだろな」
そう言って笑う蓮には余裕さえ窺える。
「俺は逃げてばっかりの卑怯者だけどよ」
僕の顎を掴んでくいと上げる。蓮と目が合う。
「逃げられねえときもあるんだぜ。秀様はその気になれば俺らをすぐ殺せる。旅に出てからずっと留実が生存確認してるだろうし、こんだけ近くにいりゃ正確な場所も把握できる。割り切るしかねーだろ」
「き・・・機属性ってそんなこともできるの」
「あいつらは頭が魔力の塊なんだよ。見た目通り戦闘は弱いが、補助としてはめちゃめちゃ強いぜ」
「見た目通り弱くて悪かったですね」
「お?聞こえてました?」
いつの間にか扉は開いていて、類次と留実がそこに立つ。
「長らくそこに立ち止まっているものですから、お迎えに上がりましたよ。相馬さん、佐倉さん・・・蓮、どうぞ中へ」
蓮へのぎこちない対応は・・・反逆者だと知ってのものなのか、そうでないのか。そういえば最初から蓮とはあまり話していなかった気がする。
・・・あれ?
そういえば蓮は七人隊じゃなかったか。
そういえば七人隊の面々は、六人だということをごまかしてなかっただろうか。
これ、確実にばれてるんじゃないかな・・・。
そんなことを思いながら、初めに来たときと同じように、絨毯の上を歩く。




