寄り添う者
「女を泣かすとは、いい趣味してんなお前ら」
「!」
「・・・」
「誰だ!」
「・・・気配を隠して・・・手練か・・・?」
「もっとも、最初は女だと思わなかったけどな」
先ほどの戦闘で壁に開いた穴から、黒い影がひらりと飛び降りる。
絶望より何より、驚く。以前感じていた気配はこれか・・・?いや、それならなぜ蓮は感じないと言った?言う必要がないからか?それに、もっと果てしなく薄い気配があったはずだけど、この人は単独行動を好みそうだし、集中できないせいかわからないけど今は感じないし、あれはいったい・・・。
「涙、止まったか?」
素直に視線を合わせてくれる。
「大丈夫か?あいつらに泣かせられてたみたいだが」
いたわりの言葉をくれる。
「話は聞いたぜ。大丈夫だから、落ち込むなよ」
少しだけだけど、優しく、笑う。
どうして?どうしてこの人が?
「・・・ナル?」
どうして、この人が優しいんだろう。どうして、ここに来てくれたんだろう。どうして。
ナルは、僕の隣に来てぽん、と頭を叩いた。
「あんなだけど、蓮は俺の友人だ。佐倉も初めて会ったときは、ほとんど魔力を感じなかった・・・通常状態では紛れもない人間だ。あいつらがお前に対抗するつもりなら、最初から魔力を解放させてるさ」
「・・・!」
その通りだ。王城から離れてから、僕を殺せる機会は十分にあった。
「それに、あいつらは力を解放することを怖れている。蓮がラインとかいう奴の宿敵を追いかけなかった理由もそれだ。解放しなくては勝てないと判断したんだろう。佐倉は・・・さっき見たはずだ」
「・・・」
霊次が闇の球をナルに飛ばす。佐倉が声を上げる。
「ナル!危険だ!」
彼は振り向かずに、短剣でそれを打ち落とす。表情一つ変えずに。
「・・・強い」
佐倉が息を呑む。
「ちっ・・・やはり熟練者か。厄介な」
「だから、お前が絶望する理由なんて、どこにもねぇんだよ」
声は聞こえるが、霊次も、佐倉や蓮さえも視界に入らない。
そこには、ナルと自分がいた。味方が、いてくれた。
「ずっと俺らの後つけてきたもんな。相変わらず素直じゃない奴」
「うっさいわ」
・・・あ、それには反応するのね。てか蓮気づいてたんだ。
「あと、女の涙に弱いことが判明、と」
「黙れ反逆者」
「おー怖い。チャンピオンはやっぱり迫力あるねぇ」
ナルはじろっと蓮を睨み付ける。
「王者・・・だと?」
「一対三では不服ですか、霊次様」
蓮は笑顔を向ける。
「貴様・・・まあいい。やりがいのある戦いになりそうだ」
霊次は不敵に笑う。
「相馬、佐倉も・・・平気か?お前らの力が必要だ。俺一人では勝てん」
「僕は大丈夫・・・相馬を守る、そう決めたんだ」
「心強いな。・・・相馬は?」
「僕は・・・」
魔界に来てから、一番自然な笑顔で、強く言う。
「僕はもう、大丈夫だ」
「・・・そうか」
ナルが少し笑い、僕と佐倉の前に出る。接近戦に慣れているのは彼しかいない。おそらく、一番近くで戦おうとしてくれているのだろう。
ナル。本当に、いてくれてよかった。戦力的にだけでなく、精神的にも。
「霊次。覚悟しろ。・・・あと蓮はどっか行ってろ。邪魔だ」
「はいはいっと。・・・どちらが勝つか正直わからん。頑張れよ、ナル」
蓮は穴から出て行こうとして、振り向いた。
「霊次様も、勝てたら、俺を好きに使って良いんで」
「俺が負けるの前提みたいな話し方はやめろ」
「すみません・・・でも本当に、手強い相手ですよ」
「王者が、か?」
「・・・さあ?」
蓮はそのまま姿を消した。どこに行くんだろうか・・・どこかで、戦いを見ているのだろうか。
「本当に嫌な奴だ。さて、もう後戻りはできんぞ」
「こちらの台詞だ」
ナルが、短剣を構えた。




