蓮の選択、佐倉の選択
「でもさ、これでよかったの?」
あれから、睡眠時間が足りなくなったと蓮に文句を言い寝かせてもらった。常日頃の就寝時間とはずれている佐倉も、蓮に心の休息が必要だと言って同意してくれた。
そして、今は昼になっている。
「ラインが命がけてしてくれたことに文句あるのかお前」
「あ、ごめん」
「相馬、少しは気を遣ってやれよ」
「そうだぞ。俺に気を遣え。お前ら客人とは違い王城の正式な案内役様なんだからな」
「・・・やっぱり気を遣わなくていい」
「なんだと」
蓮は笑っている。逆にこちらに気を遣ってくれているようだ。
「いや、こう霊次討伐をしていると、蓮の立場や僕らの任務には支障ないわけだけどさ。結果的に七人隊にいる反逆者を放っておくってことだよね。いいのかなって。ナルが言うには結構危険な人みたいだったから」
「あー、それか」
「それに、無実の証明をするっていったって、その反逆者がこう・・・僕らに対抗してきたら、蓮としては不本意なんだよね」
「んー、まーな」
「それで大丈夫なの?」
「だとさー、佐倉」
「な、なんで佐倉に振るの。蓮の問題じゃないの」
「こいつ頭いいから事情わかってるんだよねー。どう思う?」
「対抗してきたら、それはそれで仕方ない」
しっかり佐倉も答えてるし。
「僕だって事情わかってるよ。昨日話してたことでしょ?」
「いや、佐倉とお前の理解は一段階違う」
「え?どこが」
「・・・さあ?」
「反逆者を放っておくのも、ある意味仕方ない。結局、そいつがしっぽを出さないと捕まえられないし。今のところそんな気配さらさらない」
「うーん、そうかもしれないけど。危険人物なんでしょ?」
「じゃあ、相馬は誰が反逆者だと思う?」
そう言われると困ります。
以前も考えた。類次、紀伊知、流、新斗、雷需、留実。誰も反逆者だとは思えない。そうなるとやはり。
「まだ会っていない七人目が凶悪な奴で、そいつが反逆者だと精神的に助かるけどなあ」
「でしょ?僕もそう思いたい。じゃ例えばこれまで出会った人の中に、正体を隠した七人目がいたとしたら?」
「えー、いい人ばかりだから困る」
「じゃあ、七人目は知らない人ってことになる。ここで問題だ。知らない人をどう探せばいい?蓮はその人のこと庇うから、その人が七人目だとは教えてくれないよ?」
「あ・・・」
なるほど納得。
「そういうことだよ。今の僕らには仕方ないんだ」
「な?佐倉のほうが上だろ?」
恐れ入りました。
「で、でも!今聞いたんだからこれでおあいこじゃん!」
「ところがそうでもないんだなー」
「え?何?まだ何か隠してるの?」
隠しているわけじゃなくお前の理解が足りないだけなんだが。
「ここから先は言えない」
「えー、教えてくれたっていいじゃん」
「蓮だけじゃなく、おそらく僕自身の事情にも関わってくることだからだ」
「は?」
どういうことかまったく筋が見えない。佐倉個人の事情?佐倉は僕と同じく召喚された人間で、魔界に何の事情も持っていないはず。ましてや反逆者に関することなど。
「確証はないけど、多分そうなんだよなー。この前知って驚いたのなんのって」
「何それ。佐倉の事情って・・・お金持ちの一人息子ってこと?」
「うん、5%くらいかすってるかな」
ほぼ外れてるじゃないですか。残り95%どこ行った。
「相馬、あのな、事情はまだ話せないけど」
佐倉が少し真剣な面持ちになって、言う。
「もし、その反逆者が正体を現したら・・・僕はその人を庇うかもしれない。危険な奴だってことは十分承知している。その人に殺されるかもしれない。でも庇いたくなると思う」
「えっ・・・えっ?」
「僕は、相馬を守るために強くなる。それは変わらない。でも、それ以外にもこの世界で知りたいことがある。それを知るためには、おそらくその人が必要なんだ。だからその人を庇えるように、庇って更に周りにも被害を出さないように、戦えるように・・・強くなりたいんだ」
「う、うん・・・わからないけど、わかった」
「要は佐倉には、反逆者の見当が付いてると、そういうことだ」
「ほへー」
わからなすぎてなんとも間抜けな返事をしてしまった。佐倉の思考能力は小学生の域を超えていると思う。
「でもなー、そいつ本当に強いから心して鍛えないとな。霊次なんか小指で捻り潰すくらいにならないと」
「わ、わかった」
小指?と佐倉は指を動かしている。うん、この冗談を真面目に受けているあたりはおぼっちゃまっぽい。
「この霊次討伐で鍛えられると良いな。なにせ王城側には、争う機会が少ないから。ま、反逆者になるっていうなら別だが」
「誰がなるか」
「兄さんに反抗する気は起こらないよ」
「だよなー。お前らならそう言うと思った。安心しろ、変な気を起こしても俺がこの手で殺してやるから」
「ラインは庇うのに僕らは殺すのか」
「当たり前だ」
蓮が長髪に巻き付いた二色のリボンに触れる。
「かつては孤独を嫌い王城側と接触したが、友人が次々と死んでゆき、結局孤独に戻される。それなら余計な喪失感を受けることはない。俺はもう、誰かと仲良くなるのはごめんだ。霊次討伐が終われば、お前らとも何の関わりもなくなる。それまで俺は、単なる案内役であり、お前らの監視役だ」
「なんか、そう言われちゃうと悲しいよね」
ね?と佐倉に同意を求める。そうだな、と佐倉が返事をする。
「一期一会だからな。僕は人と会う機会さえ少なかったから、相馬のことも蓮のことも、大切にしたいと思っている」
「佐倉ちゃんは意外と寂しがり屋・・・と」
「天に召されろ」
蓮は元気を取り戻したようである。よかった・・・のかな。




