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それぞれの家族

 「おはよう」

 相馬が目を覚ますと、いつものことながら佐倉と蓮は起きていた。

「ああ・・・起きたか」

 彼らは同じ木により掛かって何かを話していた。しかし、相馬が起きると話をやめた。「じゃあ・・・頼んだぞ」

「ああ、一応頭の片隅には置いておく」

 蓮の応えを聞いて、佐倉は歩いてきた。

「何の話をしていたの」

「何でもないよ。さあ、行こうか」

 それ以上は聞かなかったが、重要なことだと感じてはいた。佐倉が、少し震えていたからだ。

「そういえば、属性って何によって決まるの?」

「え?」

「・・・ランドを相手にしたとき、いろいろ思い浮かべてはみたんだけど、うまくいかなかったからさ。素質ないのかなあって」

「秀様の妹がそんなわけないだろう。そうだな・・・基本的に属性はどちらかの親から受け継ぐ。だから兄弟は同じ属性であることが多い。だが、属性の他にも、性格や育ちなど様々な要因で特性が付くことがあって、それが属性を乗っ取ることもある。お前らの場合親が人間だから余計にな。だからそういうものの決定に関しては一概に言えない」

「特性?」

「例えば・・・名前からもわかるが、俺の親は蓮の花が好きだった。蓮の花に囲まれて産まれた俺には、木の特性がある。こんなふうに」

 ぽん、と蓮は蓮の花を出してみせる。

「だが、この花は弱々しく、実践的ではないぞ・・・?」

「その通りだ。俺の木特性はほぼ形だけのもの。木属性の紀伊知や佐倉のように実戦では使えない」

 蓮の花びらは、朽ちて風に散っていく。

「ま、とにかく秀様が闇属性なんだから、お前は多分闇の素質があるってことだよ」

「そうかなあ」

 相馬はこの前イメージしたことを思い出す。兄さんの闇・・・しかしあのとき、魔法は発動しなかった。やはり無理なんじゃないだろうか。

「んー、佐倉も魔界に関係した家族がいれば木属性なのかなあ」

「・・・!」

 何気なく言った一言で、空気が固まった。

「え・・・何?何かまずいこと言った?」

「・・・いや、大丈夫。相馬、僕は・・・」

「父親はこいつが産まれる前に死んで、母親のことは覚えていないんだとさ」

「え・・・」

 驚いた。品行方正でお堅い佐倉は、いい育ちをしているものと思っていたからだ。

「蓮・・・」

「もっとも、資産家の一人っ子だった母親の残した家で、その母親が行方をくらます以前に出した命に従って、じいやとやらに育てられたこれまた一人っ子のおぼっちゃまらしいが」

 あながち間違っていませんでした。

「あ、そうなんだ・・・ごめんね佐倉。事情も知らずにこんな話して」

「ああ・・・だが家族というものには興味がもてる。相馬と王を見てそう思った」

 佐倉は力なく笑う。そうか、佐倉には家族が誰もいないんだ。だから兄さんが僕に霊次討伐を命じたとき、あんなにムキになって反論したのかもしれない。

「そう、それなのにランドを殺したのね」

「・・・っ!」

 一本の木の上に少女が座っていた。彼女はこちらを冷めた目で見ていた。

「ミナか・・・」

「ずっと聞いてたわ。ランドは私の弟のようなもの。私のたった一人の家族、なぜ殺したの」

「この世界の秩序を乱す者は徹底的に排除する。霊次に加担するなら、子どもだろうと敵だ。家族がいるかどうかなど関係ない」

「ふーん。・・・そこの緑髪の子、佐倉だったかしら。貴方もそう思う?」

「・・・」

「霊次様も、ランドも、大切な家族なのよ。秀に命令されたからって、一家皆殺しに付き合うわけ?家族を知りたいという貴方が?」

「僕は・・・」

 佐倉が震える。無理もないだろう。ここでミナに立ち向かうということは、家族や良心を捨て、自分とはまったく無関係な義務を遂行するということなのだから。僕だってそんなことは・・・。

「関係ない」

 突風が木を襲う。ミナは木から飛び降り、それを避けた。

「あら、随分冷たいこと。いいの?その子たちも反逆したら殺すっていうことでしょ?」

「当然だ」

「・・・そう。それなら仕方ないわね」

 ミナが纏ったのは無数の水の槍。

「行きなさい!」

 それが飛んでくる。狙いは・・・佐倉か!?

「霊次様を狙う奴らは殺せっていう命だったけど・・・そんなことより、ランドの命を奪ってなお平然としている貴方たちを許さない!」

 佐倉は依然として動かなかった。

 ミナが言うことは当然の気持ちである。これでは自分たちのほうが悪者だ。

「でも、僕たちも守らなければならないものがあるんだ」

 佐倉の前で両手を突き出す。

 何か、何か佐倉を守れるものを。

 ください、兄さん・・・!

「佐倉は死なせない!」

 手の平から光が溢れ、まるで壁のように広がる。それは突き刺さろうとする水槍を弾き、消去した。

「どういう・・・こと、なの」

 光が止む。ミナは青ざめていた。蓮も自分の背を腕を、冷たいものが伝っていくのを感じていた。

「あり得ないわ・・・!」

 怯えた表情はそのまま、ミナは前線に出た相馬に飛びかかる。その手には先程飛ばしたのと同じ水槍。

「・・・っ」

「何を呆けているんだ、相馬!」

 蓮は大剣に風を乗せて振る。風はミナを弾き飛ばし、相馬の頬も少し切れる。

「れ・・・蓮っ」

 見たことのない術、感じたことのない魔力の波動。それを今、他ならぬ自分自身から感じる。こんなに戸惑うことはない。

「今は二人分の命を、お前が背負っているんだぞ!」

「・・・!」

 佐倉を見る。顔を伏せて、まだ迷っている。動けそうには、ない。

 先程と同じイメージで、右手に魔力を握りしめる。模ったのは剣。光が漏れ出ている。

「僕は、守るために!」

 佐倉には劣るが自慢の足で、ミナとの間合いを詰める。

「守るために戦う!」

「霊次様に、手を出させるわけには・・・!」

 ミナの槍とぶつかり合う。間から、眩しいほどの光が放たれる。その光が、ミナの身体を取り巻こうとする。

「やだ!来ないで!」

 涙目になった彼女は、力で相馬を押し切る。バランスを崩した相馬は、一度退いた。

「殺されるわけにはいかないのよおおお!」

 ミナが再び相馬を狙う。

 突風。

「残念だが、それは叶わない」

 宙に浮いた彼女の身体に、狙いを定める。

「行けええええええっ!」

 指から放出された一本の光線が、ミナの身体のど真ん中を突き破る。

「う・・・あ」

 微かな声を最後に、彼女の身体は無数の光となり、飛び散った。もう帰ってこない。一つ一つ、消えてゆく。

「か・・・ぞく、一緒に・・・」

 震える声で、佐倉が呟く。

「一緒に、死んだ・・・のか・・・」

 見ると、彼は放心状態で座り込んでいた。普段は強気だが、本当は一番彼が弱く脆く、優しい存在なのかもしれない。

「僕らは彼女たちを助けることはできない。せめて失った苦痛を、長く感じさせることの無いように」

「相馬・・・」

「全員殺すしか、ないんでしょ?」

「・・・その通りだ」

 蓮の言葉に、佐倉はゆっくりと立ち上がる。

「僕も・・・もう迷わないから」

「佐倉、大丈夫なの?」

「ああ・・・僕は戦う」

 佐倉と相馬はお互い頷き合い、蓮のほうを見る。彼も頷く。

「意志が固まったところで聞きたいことがあるんだけど、いいかな、蓮」

「ああ。どうせ属性のことだろ」

 相馬は頷く。あんな属性は見たことがないし、その性質も知らない。

「・・・魔界の創設者、つまり初代の王が光属性だったという言い伝えならある」

「・・・!」

「それじゃ、相馬は・・・」

「血が繋がっているかどうかは分からん。だが属性は『幻』とされてきたその光属性だろうな。王の子は突然変異で闇属性となり、それ以降、光属性が現れることはなかったようだからな。秀様も闇属性だし、たまたま相馬に宿った闇の性質が、光として表れたのかもしれない」

「そうなんだ・・・で、でもさ!」

 佐倉と蓮が疑問符でも浮かびそうな顔をしてこちらを見る。

「僕のことでもそんなにわかんないんだったら、佐倉のお母さんも実は魔界にいるとかもあり得ない話じゃないよね!」

 相馬が気を遣ってくれているんだろうか。佐倉は微笑する。

「一緒に暮らせるときが来ると良いね!」

「ああ、そうだな」

 なぜだろう。相馬がこんなにも温かくしてくれるっていうのに。こんなにも嬉しいっていうのに。

 背筋を流れる汗が、冷たい。

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