魔界へ
何かが足りない。そんな気がするのだが、何が足りないのだろう。
相馬は、物思いに耽っていた。
この世界は、何かつまらないような、そんな気がする。現代は十分発達した時代で、不便さを感じることがない。そのために発展してきたのだから、それでいい。それでいいのだが・・・不服、というほどでもないが・・・いや、やはり不服だ、申し訳ないが。
「相馬、おい」
どうしてこの満ち足りた世界で不満なんだろう。自分自身に問いかけたい。産業革命では得られなかったものがあるのだろうか。だとしたらそれは何か。難しい問いだ。とても小学六年生に考えられるレベルじゃない。
「聞いているのか、相馬」
大人に聞けばわかるのだろうか・・・ん?
「あれ、ごめん何か言ってた?」
「・・・さっきから話しかけておりますが」
いけない。お友だちの話を完全に無視してた。練菜、仕馬練菜。こんな名前だけど男である僕のクラスメイト。今、家に遊びに来てる。
「ごめんなさい練菜様っ、聞いていなかったのでもう一度言っていただけませんか」
「嫌だ」
「何卒っ」
僕が両手を合わせると、練菜はため息をついた。
「ったく。あのなぁ、友だちの話くらい聞けよ。明日のテストのことだ」
「ふむふむ、それで?」
「俺算数できないからさ、お前に教えてもらいたいんだけど」
なぜ、あんなことを考えていたんだろう。僕らしくない。なぜ、突然気になったのか。
「わからないな・・・」
「・・・は?」
"相馬・・・来て"
ん?今、誰かに呼ばれた?
「もしもーし。聞いていますか」
"お前の力が必要なんだ"
「・・・誰?」
「は?おーい、聞こえてる?」
練菜は相馬に触れようとした。が、相馬はその手をすり抜け、立ち上がった。
「・・・どこ行くんだよ」
"ここだ、ここから来れる"
相馬は迷わず押し入れに向かった。理由はない。ただ、そこにある何かに引っぱられているような、そんな感じがしたから。
「相馬・・・」
突然、相馬の身体が闇に包まれた。
「・・・!相馬!」
「な、何これ!?」
練菜に手を伸ばしたが、彼は動かなかった。自分の身体がゆっくりと消えていく。
ガラン、と鏡が落ちた。そのとき相馬の抱えていた鏡だけが、そこに残った。
「・・・相馬」
もう練菜にはどうすることもできなかった。独特の白髪を手で掻き乱す。
数日後、捜索願が出された。