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三十六日目 水浴場 後編


やっと少し震えるほどの寒さが治まってきたので、焚火でもしたくなって、洗濯場の人々に


「あのう、此処で焚火して暖まっても良いでしょうか?」


とトモコに訊いて貰うと、


「やめておいた方が……」

「いや、水があるからすぐ消せるし、いいだろ」

「燃え残しの汚れをうちの前に残すなよ」

「火を熾すんなら、わしにも当たらせてくれんか」

「こっちに灰を飛ばしたら、怒るからね?」

とか色々言われて、ならばと風下に陣取り、籠を並べて微風を遮り、土器の皿を取り出して、消し炭に火熾し棒で火を点けて、炭に着火した。

皿に少しずつ柴を短く折って載せ、炭から火を移すと、小さな焚火の周りに肩を並べて、手を火にかざして、皆で暖を取る。

何故かいつの間にか洗濯場の小母さんや通りすがりの近所のオッサンが混じっていて、自然お喋りした。


ぼくが火を準備していた間に、トヨトモエコの三人は各自の鉢に水を入れて薄めた木酢液で虫除け処理をしていた。


虫除け処理を手早く済ませたトヨに、次の火の番を任せて、ぼくも虫除けにかかる。

木酢液の入った蓋つき壺を取り出し、自分の鉢に注ぎ、水で薄め、身体や身に着けている物に塗っていく。

足りなくなったら、また壺から足して水で薄める。


そうして、トモコが二番目に処理を済ませると、トヨと火の番を代わり、トヨは待ちくたびれているマサと荷物番を交代した。

ぼくもなるべく急いで済ませると、少し火に当ってからトヨと交代した。


皆、洗った後に濃い目の液で虫除け処理して湿っている肌着はまだ着ておらず、虫除け処理した頭に被る菰の上から引っ掛けている。

虫除け処理したズボンも同じく、虫除け処理して胴にかけた菰の、肩と背中に引っ掛けている。

虫除け処理した足は裸足のまま、手には杖。


そうしているうちにマサも洗い終えたので、虫除け処理を手伝う。

マサも震え出したので、すぐに火に当らせて、エコトモぼくの三人が背後にくっついて温めた。

マサが冷たくて、ぼくらもまた震え出してしまった。


こうして、女の子は火に当り続けてオッサンや小母さんとお喋りしていたので早く乾き、ぼくトヨマサは代わりばんこに火に当ったり荷物番をしていたので乾きは遅かったが、寒さは凌げた。


兵士が煙を見咎めたらしく、途中でやってきて、焚火を熾した責任でぼくたちだけが少し窘められたけれども、幸いにもその場に居た誰も迷惑を被るどころではなかったのを証言してくれたので、問題にされずに済んだ。

ぼくたちが炭を持参していると知ると、


「今度からは煙が出ないように、ケチらずに炭だけでやるんだな」


と苦笑いでアドバイスされた。



ズボンや肌着が乾くと、近所迷惑にならぬよう火の後始末をきちんとして、あらためて身支度を整える。

虫除け処理した籠を背負い、城壁内で摘んだミントを混ぜ込んだ草の束をその下に吊るして、杖を手に立ち上がる。

ぼくは肩から壺をホルダーで吊るして、小脇に抱えている。


今回の第一目的は、新たな拠点建設許可証の申請と許可証の札の受領で、それは果たした。

そして第二目的の、女の子たちと村人との交流と聞き込みも、大いに果たせた。

今回はこれで、もう充分。


お腹も空いてるし、引き上げ時だ。

まだ山の上は寒いけれど、声を出して励まし合いながら、少しずつ歩きだした。


とりあえず、広場へ。


広場の崖っぷちの見晴台に来て、荷物を石の上に下ろし、少し眺めを愉しみ、そうしているうちにまたエイコに話しかける人が現れたので、下山は一時停止。

前にもエイコにここで話しかけていた、背の曲がったお婆さんだった。

ぼくたちも挨拶した。


トヨキは見張りに立ち、ぼくとマサノリは、縄を綯った。


そのうち材料の草が尽きたので、トヨキと交代しながら荷物番をした。


村人が朝食を食べに食堂に行ったり、食堂からテイクアウトにして貰って自宅へ戻る姿を見かける。


「今すぐには無理でも、そのうち、ちゃんと稼いで、サカヌキ村の人達みたいに、毎日食堂で食べられるようになろうぜ」

「いつかは、な」



腹の虫がぐーぐー鳴くので、エイコもやっとお喋りを終えて、帰路についた。

途中で、女性を乗せたロバや、大蜥蜴が牽く荷駄の橇や、人に尻を蹴られながらのったり歩いてくる牛が通ると、邪魔にならないように家々の灰色の石壁に張り付くようにして、通り過ぎるのを待った。



無事にシェルターに戻ると、荷物を置いて、すぐに漁と食事の準備をして、今日は小川方面へ行く。


夕方にはシェルターに戻れそうだな……。

拙作をお読み頂き、実に有難う御座います。

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