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三十六日目 家畜小屋の朝

生まれてからいつもそうであったように、暗いうちに飢えと渇きと寒さで目醒めた。

まだ暗い。

夜明け前だ。


他の子はまだ眠ってる。

昨夜寝入る時に、互いの足を枕にするように円座に寝ていたので、下半身が重い。

少し痺れている。


家畜や別の子達を驚かさないように、まだ暫くじっとしている。

目だけ開いて、暗くて臭い家畜小屋の中をあちこち見回す。

物の輪郭がぼんやりと曖昧だ。


暫くそうしているうちに、また眠くなってきて、うつらうつらとしていた。


そのうち、他の子もようやく目覚め始めて、ごそごそと身じろぎする様子が感じられた。

やっと起きられる、とのろくさ起き出すと、身体のあちこちをのろのろ伸ばしたり曲げたりして、痒いのでぼりぼり掻いてるうち、ふわあっと欠伸が出た。


時々骨がぽきぽき鳴る。


暗い中、無言で他の子と軽く叩きあって、お早うの代わり。


平衡感覚がまともに働き出したので、忍足で横木の上に乗り、手を伸ばして窓口につかまって立ち上がり、そっと窓の板を少しずつ押し上げて、暗い外を見る。

大きく板を持ち上げて、隙間から空を覗き見た。

空は晴れている。

澄明な星空に、一日の始まりとしては幸先が良いぞと、軽くなった心で窓の板を下して、ぴったりと閉ざそうとしたら、少し変な音がしてしまって、若者達が唸ったり舌打ちしたりした。

ぎゅっと縮こまり、また静まるのを待って、そっと腰を屈めると横木から降り、息を潜めて皆の処まで戻った。



年長の人達がまだ眠ってるので、静かにしていないといけない。

小屋の扉も、開けようとしたらきっと音がするだろうな……。


とりあえず、昨夜の作業の続きでもしようか……。

草の束を取り出して、草を柔かくする仕事を、とても静かにやろう。

音を立てないようにそっと掌大の平べったい石で挟んで、ぎゅっと体重をかけて、静かに草を潰しはじめた。


--


草を軟らかくしながら待機しているうちに、次第にあちこちの隙間から入る夜明けの光が明るくなってきた。

やがて、若者たちが次々に起きだした。

ぼくたちも肩を叩きあって、顔を見交わし合い、顎で指して、目覚める若者たちの様子に気づかせあう。


さて、ささっと糞掃除をして、日の出前に家畜小屋を出ちまいたいなあ。

無言のうちに、ぼくたちの気持ちが一致して、頷きあうと、ゆっくりと立ち上がる。

ぼくが小屋の扉の閂を引き抜いて片づけ、マサが扉を少し開け、他の三人があちこちの窓を開ける。


「おはようございます」

「おはよう」


若者たちと朝の挨拶を交し、糞掃除の仕事にとりかかる。



牛より数が多い大蜥蜴は、糞の量は凄く多いか、或はゼロで、極端だ。

近づくと、噛み付いてこようとする。

その勢いにビビッて引き攣った顔をしているトモコとエイコは下がらせておいて、男の子だけで柵の中へ入る。


トヨキが素早く大蜥蜴の首の縄を掴む。

抑えてくれてるうちに、ぼくが糞を板で掬って、マサノリが外から運び入れる籠に入れる。


出てるだけの糞を総て集めて回った。

重たくて疲れた……。


だが、まだ牛の分もある。

気合を入れ直す。


牛はたった三頭。

ごく少いが、どれも一頭当たりの片付けるべき量が多い。

牛の分だけで大蜥蜴の時よりも多く運び出さねばならなかった。


栄養の足りていない子供の身でやるには、かなりきつかったが、男の子三人で協力して頑張った。



「お、ごくろうさん」

「助かるぜ」


作業をしているうち、身支度を済ませた年長組が近づいて来て、ぼくらの働く様子を見て、頷いている。


窓から挿し込む夜明けの薄明かりの中で若者達を見ると、生成りの無地で粗末なものだが、服を着ていた。

ぼくたちの──ぼく以外の子の──襤褸のような肌着とは違う。


その上から蓑と笠を被り、面にはマスク、手足に手甲脚絆をつけている。

背負子を担いだ彼らは、木の槍で杖を突きながら、すたすた出て行った。


「服、欲しいね……」


背後で小さく聞こえたのはエイコの呟きか、それともトモコか。


拙作などに目を通して頂き、有難う御座います。

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