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二十一日目以降の概況と、三十五日目に城壁内で遭遇した事件

それから、数日は、新しい履物の調子を見つつ、今まで同様に過ごしていた。


新しい履物の調子は悪くなかったが、ただ、草履部分はやはり次第に潰れてくるし、そうなると幾らしっかり結わえ付けていた紐でも緩んでくるので、草を足して緩みを埋めていく手入れの手間はかかった。

そうではあっても、直接土に接触しないので、草が潰れるのは遅めで、余裕が生じてきたのだった。



他に新たにした事もあり、例えば既に十八日目に土器を上流の河原付近で乾燥させていたトモトヨは、二十五日目頃から数日間、ぼくらに手伝わせて、薪の切りだしと焼き窯の建設、土器の焼き締めを行い、新たに作り直した蓋つき壺や数点の食器などを手に入れていた。



そして、偵察を進めるうちに次第に複雑な地形にも慣れて来て、大体ここら辺が拠点に良いのではないか、と思える場所が決まった。


そこで、また小部落のお爺さんの処へ行くと、その家族の処へ連れていかれて挨拶し、それから世間話をしているうちに、少しずつ部落の人達が入って来て、顔合わせをして、色々な人と知り合いになった。

部落の人達の意見を直接聞いて、大体問題ないのがはっきりしたので、物凄く安心した。

サカヌキの下村全体としてはまた違うだろうが、トオルは隣人と話し合って現場で問題がなければ、それで良いと言っていたのだから、今度は拠点を作れるだろう。

禁漁区だとか、お殿様が御許しにならないと言う事になりさえしなければ。


--


そこで、準備の出来た三十五日目頃、木酢液を蓋つき土器の壺に入れて小脇に抱え、トオルにまたお願いしに行った。

今度はすぐに会えて、


「ふーん、それは良かったな。だが、この前の建設予定地、あれについてはどうなんだ?」

「諦めます」

「そうか。寄合の結果だけで、な……。ん-……まあ、いい。好きにしろ。それなら、前回の札は返してもらうよ」

「はい」


それから、今回の代札が出来上がる迄の時間を、井戸端会議を探して外を歩き回った。


洗濯場だとか、水場の周りだとかで、見つける事が出来たので、女の子たちがそこへ挨拶して入って行って、慎重にお喋りに加わった。

そこで、色々な人の色々な顔を見る事が出来て、一方ではたしかに大方は開拓者への反感が残っているのが分ったが、他方ではまた、部落の人達に類した考えでぼくたちを庇う人達も少なめだが居るのが知れた。


ただ、浮浪児であると言う事は、それとはまた別に、蚤や虱がたかっていて病気を齎す不潔な存在、鼠と同程度の存在として扱われているのも分った。


幸いなことに、最初に話しかけようとしたのが洗濯場と水浴場の併設された広場近くの小路だったので、折角晴れて少し温かいので良い機会だと、話しかける前に自らしっかり水浴して洗濯していたので、あからさまに追い払われずに済んだ。

菰を被り直してしまうと、また菰から虫が這いあがって来るかのように思われるし、実際、幾ら虫除けを沁み込ませていても、その可能性は全く無いわけじゃないので、ぼくは一人で皆の菰を持って日向ぼっこして待っており、女の子だけ真っ先にきれいにしていた。

破れを或る程度繕ったエイコの肌着は、それでも泥の痕がしっかり残っているので、今はマサのとズボンごと交換していた。

そうしてミントその他のハーブを薫らせて、女の子だけでも身なりをできるだけマシにしていたので、それで井戸端会議にも門前払いされずに済んだのだ。


ぼくたち男子、殊にぼくは、交代で二人で荷物を見張りながら、女の子に遅れて一人ずつ水浴と洗濯をした。


--


そんな時、初めてぼくたちの荷物の中でも、唯一まともに何か価値のあるものが入って居そうに見えたのだろう、木酢液の壺を奪い取ろうとする奴が現れた。


一瞬の隙を衝いてひったくって行こうとしたのだろうが、トヨは目敏かった。

そいつが接近する前から既になんとなく最初から怪しんでいたようで、わざと視線を逸らして、目の端で観ていた。

そして、マサはその時水浴場で体を洗っていたので、一緒に見張りをしていたぼくに、小声で「そのまま聞け」と合言葉を言ってきた。

ちゃんと見張りとして警戒していたぼくは、直ちにピンときて、動かずに囁く。


「どっち?」

「俺の左」

「で?」

「今、近付こうとしてる、手を出して来たらやるぜ」

「よし」


菰は既にぼくの手に渡しているトヨが、菰の裾に遮られる事無く、自分の身体で男の視線を遮り、手の先だけゆっくりと動かして、秘かに腰のナイフの安全ピンをはずし、ナイフをズボンの腰紐から抜き出す。

ぼくはトヨの蔭に入りながら、手にしている菰を左手に集めて、右手はそっと背後の壁に立てかけてある杖へと伸ばす。


「3、2」

だしぬけに、トヨがカウントダウンを始めた。

「1」

杖を握る。


「おラァッ!」

「……っあああッ!」


トヨが身体の蔭に隠した位置から、体の向きを変えずに最初の一瞬すっと近寄り、次の瞬間に全力で向き合ってナイフを閃かせると、身を屈めて壺へ手を伸ばしていた男の顔に切りつけた!

驚愕した男が顔から血を飛ばしつつ、しゃがむように腰を落として後ろへ転げそうに後退る。


ぼくはトヨの背後で、腰を落として踏ん張り、右手の杖を右肩にのせて、左手の菰は結局落とすよりも闘牛士の使う赤い布というか、網闘士の使う網というか、そんな感じの使い方をする心算で握ったまま、前に盾みたいに垂らして構えて、油断せずに、壁を背にして辺りへ目を配って、トヨの後衛ポジションから必要に応じていつでも敵に一撃入れる体勢で、周囲に聞かせる為に叫ぶ。


「こォのォ、盗っ人めえッ! 失せろォ!」


だが、目の前の盗っ人以外の敵が襲撃したり介入したりはして来ず、頬と鼻筋と眉をトヨにナイフで斜めに切り裂かれた盗っ人は、隙を衝く心算が逆に不意打ちを喰らって死ぬほど愕いた表情から、怒りを浮かべながらも怯えた顔に変わり、背中を見せて走って逃げ去った。


その後を、ぼくの叫びを聞き、留まってるぼくらから負傷して逃げ出す奴を目にして、状況に気づいた何人かの通りすがりの男が小走りに追いかけながら、兵士に声を掛けているのが見えた。


それで、その後、兵士にその場で事情聴取された。


拙作をお読み頂き、まことに有難うございます

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