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十四日目 その3 希望

愈々、拠点建設のお墨付きを得た。

近在の農家さんに提示された、山の斜面の端だ。


先ずは下草を刈り払い、土を削り、若木だけでも伐ろう。

大きな木は後回しにして、……


ガッ


「おっ!」


足元の木の根に躓いてしまったらしく、体勢が崩れたっ。

が、炭を入れた籠を背負ったマサノリに、横から片手で止められた。


「ごめんぁりがと」

「気ぃつけ」


苦笑している。


「すまんね」

「うん」


互いにニヤニヤした顔を見交わす。


嬉しいのだ。

ずっと急場を凌ぎ続けていたが、到頭ここに来て、人に認められた自分たちの安住の地が持てて、自分の手で家を建てていけるという希望が持てた事が。

ついつい、すぐにも実現させたくて、これからの作業を思い描いてしまった。


「登って来るぞ」

「あ~い」


先頭を下って行くトヨエコの遣り取りが聞こえてきたので、そっちへ注意を向けた。

ぷん、と馬の臭いが先に風にのって来た。

木立の木蔭に入って幅が狭まっている坂道から、少し山側へはみ出て、草を踏んづけながら待つ。


薪を山と積んだ駄馬と、その轡を引く馬子のおじさんが、ゆっくりと登って来る。

樹洩れ陽が当たり、斑に明るくなる部分が揺れて、動く。


こちらが目礼をして、馬子が頷いて、通り過ぎていく。

文字通り小山のような量を積み上げていて、人間なら坂道を上るどころか、圧し潰されるだろうに、馬は物凄い力強さだ。

ぼくたちは、ちゃんと道の脇に出ていて、こちらは背も低いし、荷物の高さからしてぶつけられないと頭では分っていても、つい仰け反ってしまう。


--


坂道を下り終える辺りの、二、三度盛り上がっては下がる部分を通り過ぎて、真っ直ぐで僅かに下り勾配の道に入る。

谷間を横切り、谷間の中央道に突き当たって左折する。

勾配の感じられない真っ直ぐな道がたまに少しだけ折れ曲がっては、また真っ直ぐに通っているのを、ひたすら歩いて谷間の奥側へ。


途中で道端に腰を下ろして休む。


奥部に入って谷間の幅が狭まって来たのを実感して少しして、やっと右折の道があって、そこを入る。

まっすぐ谷間を横切り、渓流の流れの音が次第に大きくなり、小さな橋の処に出る。

そこで左折して、早瀬の轟きをお伴に、川沿いの小道を上流へ行く。

やがてちょっとまだ路面の土に凸凹が残っている場所の真ん中に、ぼくたちのシェルターにしている草叢が見えた。


この前、草叢の前にトモコが植えたミントは、無事なようだ。

がさがさと草を掻き分けて中へ入ると、今日も帰り道で摘んだミントをあちこちに撒く。

そうしてから荷物を置いて、やっと一息ついた。


「おつかれーっ」

「帰ったあ」


草に背をもたせると、安心して、疲れがどっと出て来て、そのまま寝入ってしまう。


--


目を覚ますと、もう日が暮れていた。

背中をボリボリ掻いて、ぼんやり赤い熾火を見ていると、


「起きた」

「……あ……」


二つの顔がこっちを向いた。

周りを見ると、他の二人は眠ってる。


「すまん、先に……」

「うん」

「うん」


マサ、トモは頷いて流す。

二人とも疲れてる。

ぼくがふああぁ……、と欠伸をしたら、二人ともつられたのか、相次いで大きな欠伸をした。


「やるよ」


火の番を今度はぼくが。

トモがちらっと寝入っている二人を見て、肩を竦める。

でも口元は微笑んでいる。

余裕があるな。

許可が出た嬉しさ故か。


「これ」

「ありがと」


葉っぱを貰って、噛む。

少しは空腹が紛れるし、フラフラする頭がしゃんとする気がする。


目覚めて催したので、外に出て用を足し、戻る。

眠っている二人を見て、さっきまで寝ていた草の上に、そっと足を下ろし、腰を下ろして


「先ず、下草をナイフで刈るだろ」

「うん」

「こっち側にでも集めておいてさ、空いた下の地面から、おもての泥を掻き出して、後で使うのに溜めておいて」

「山おろしの風に吹き飛ばされるかも、草。たまに強く吹くし」

「泥を掻く道具は……」

「で、土を削って岩盤を出せれば斧、そこまででなくても穴深く掘って柱建てて、屋根載せて」

「先に邪魔な木が、まだあるわよ、伐ってね」

「空き地に積んで、風除け」

「杭打つ? じゃ、研ぎ石?」

「斧だろ」

「溝も」

「ああ、でも後」

「うん、多分まだ大きな木の下だし」


駄弁りながら、火の番を続ける。

夜も変わらぬ川の大きな音と、煙やミントの香る中で、たまにちろちろと上がる小さな炎の明るさ。

五人の夜が、ゆっくりと更けてゆく。

拙作をお読み頂き、実に有難うございます。

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