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四日目 村の子供たち


翌日も早朝から晴れていた。

雪は殆ど嵩を減らさずに融け残っており、ぼくたちは魚を獲りに行けるように、できるだけしっかりと足元を補強した男子三人で、ひたすら上流へ雪踏みをした。

喋っても歌っても腹が減るので、黙々と、言わず語らずのうちに先頭を交代しつつ、雪を踏んで道を付けた。


途中まで行って疲れたので引き返し、午前中に一旦シェルターに戻って休み、女子の足元も補強した。

まだ雪で眩しいところがあるので、遮光板も蔓で頭に巻き付けて、昼前にまた出掛けた。


川辺の小道自体は大方が木陰に入りがちなので眩しくはないのだが、時々植生による遮蔽がきれて、上流に向かって左手に広がる、谷間の農場や牧場が丸見えになると、かなりの部分がまだ雪で覆われていて眩しいのである。


河原まではあと少しだったので、疲労と腹ペコでふらふらしたが、雪踏みもそこそこに、先頭の者の足跡を踏んで、一気に踏破した。


対岸の切り立った高い川岸の上から、此岸へ覆いかぶさるように長く枝を伸ばしている高い樹々や、此岸でもそれなりに茂っている樹々のお蔭で、河原は全体に薄暗いくらいなので、遮光板は外して活動できる。


河原で休むと、エイコに草を見てもらい、少し採集を手伝ったあと、女子は調理の準備、男子は漁に出た。

目を凝らして標的を定め、渾身の力で銛を繰り出して、魚を突き刺した。


こうしてどうにか喰い繋げたので、力が少しずつ出るようになった。

そこで、雪解けによる増水が懸念されつつも、敢えて一応罠を仕掛けることにした。

増水すれば努力は水の泡だが、中れば次に来た時に労少なくして獲物を採れるかもしれない。

いつでも魚影を見つけられる、いつでも銛を中てられる、とは限らないので、保険を掛けるようなものだ。


簡易な罠にした。

疲れていて、流れの隣に浅く掘って広めに窪みを作るのがやっとなので、穴掘りはそれで済ませ、そこへ細長い葉の枝葉を沈めた。

川と繋げる為に、少しだけ通水路を掘った。

それだけだ。


--


草も採って、休息して、最後に滝で水を呑んで、遮光板も頭に取り付けて、ではそろそろ荷物を拾い上げて帰ろうか、と思っていた時だった。


谷間の中央を突っ切ると思しき道路を、滝元の広場まで、陽気な歓声を挙げて、子供たちが駆けてきた。

この季節にはやや珍しいたっぷりした降雪に、はしゃいでいるようだ。

きっと遊び場にしている辺りの雪は大方融けてしまったので、まだ雪がたっぷり残っている外周の方へ遊びに来たのだろう。


ぼくたちより少し幼いようなので、微笑ましく、羨ましく見ていた時だった。


「え?」


浮浪児のぼくたちを見つけた彼らは、遠慮なく石を遠くから投げ始めた。


「あいたっ」


二の腕に石が中り、肌が裂かれた!

血が流れだす。


しかもまだ次々に石を投げつけて来る。

本気で殺す気の投擲だ。

人間を見る目ではない。


恐ろしくなって、ぼくたちは逃がれるのに必死になった。

咄嗟に葉の茂った緑樹の枝を折り取り、それで石から隠れ、防ごうとする。

石が枝に辺り、角度を変えて太腿の後ろに当たる、痛いっ!

でも直撃でなかったので、血が出るほどじゃなかった。


「きゃああっ!」


ぼくは石撃たれて悲鳴を上げたエイコを庇うように、マサノリも同様にしてトモコを庇うようにして逃げていた。

別の方向へ逃げていたトヨキが、


「やめろ、バカ野郎! やめろ、石を投げるンじゃねえッ!」


と、必死に怒鳴る声に、彼らは吃驚したように投げるのをやめた。

まるで人の言葉を話せるとは思っていなかったかのようであった。

エイコが、え~ん、え~ん、と堪えきれないように泣き出した。


「なんてことォしやがるッ! オイッ!! 女の子に石を投げるとか、何を考えてるンだ、オイッ!!」


激怒したトヨキの叫びに、村の子供たちは、くるりと後ろに振り返ると、走って逃げていった。


「卑怯だろッ! オイッ! 逃げんなァッ!! こらァっ!!」


一散に逃げていく子供たちを、追いかけるわけにもいかないぼくたちは、傷を手当すべく、エイコに教わっていた薬草を千切って、雪で拭って揉み、よく潰して傷口に当てた。

泣いてるエイコの傷はトモコが手当した。



ぼくたちはその日は痛みをこらえてシェルターに戻り、苦しみ唸りながら回復を待つよりほかなかった。


こうして、四日目は暮れていった。



拙作をお読み頂き、実に有難う御座います。

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