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初日 今晩と明日への備え 谷間へ降りる

微風の中、小雨がまだ降っている。

さっきよりは明るい。



トヨキは左肩が裂けている肌着を脱いで、ズボンを覆うように腹から下に巻き付け、上半身裸の姿で歩いていた。

ズボンの裾は何度も折り返して、できるだけ上げてあった。

ズタボロの肌着のぼくも同じようにした。

ぼくたち二人がそうするのを見ていたマサノリも、同じようにした。

こうすると、トオルの所で貰ったズボンが少しでも濡れないで済むかもしれなかった。


女子二人はそうするわけにも行かず、雨粒で肌着が湿るままに歩いた。



家畜小屋の外に絡みついていた蔦や蔓が、使えそうだった。

が、それはあとで足りない時に補うのに使うとして、基本的に素材は城壁の外へ採りに行く。


村の何処に何があって、何を採れるのか、採って良いのか、ぼくたちはまだそれを知らない。

だから人に訊かなくても調べられる事はたった今から少しずつ調べるのだ。


再び神経を尖らせつつ、道を行き交う人の流れを縫って、素早く割り込み、雨を腕で受け、濡れた足元にも注意して、城門へ向かった。

途中の路傍の草木がどれもこれも、何かには使える物ばかりで、エイコが知ってる限りあれこれ教えてくれた。

ただ、採って使っていいかは分からない。

誰かが家の前でわざわざ育てている可能性もあるし。


家畜小屋の臭いもなくなった場所に来た辺りで、漂ってくる旨そうな食事の匂いに腹をまた空かせたりしていると、


「あ、運ぶのお手伝いします」

「あらっ……そう? 有難うございます」


急にトモコが、小さな家の戸口から便壺を引きずって出て来る質素な身なりのお婆さんに声を掛けた。

サンダル履きに長い腰巻、腕まくりした長い筒袖。頬かむり。全部低質の麻だ。

少し左脚を引きずり気味にしていて、不自由そうに見えた。

トモコと視線があったマサノリが、前に出てお婆さんに代わって便壺を引きずって、なんとなくいつも置かれてそうな痕が地面についてるところへ。


「此処で良いんですか?」

「ええ、いいわよ。有難う」


ぼくたちが手伝ったことで、お婆さんは少し楽が出来て嬉しそうだ。

すかさずエイコが訊ねる。


「えっと~、あのぉ、この草って、勝手に採ってもいいですか?」

「え、草……ああ、いいわよ。……何に使うの?」

「虫刺されです。腹痛や熱さましとかにもいいって……たしか」

「あ、謂われてみれば、そうだったような……いやね、齢をとると、忘れやすくなって」

「あと、こっちの草もいいですか? 食べます」

「ええ、どうぞどうぞ。道端の草ですもの、庭に生えてたら、うちで食べるけどねえ、ほほほ」

「有難うございます! それじゃ少し頂きます!」

「いえいえ、助かりました、こちらこそ。それじゃ、ね」


戸口へ引っ込んでいく品の良いお婆さんにお辞儀をして、すぐにエイコは勢いよく草を千切り採った。



そんな感じで、運よく訊ねられそうな時には、皆でどんどん採って集めた。

集めた草は、トオルのとこで貰った食糧の入っていた小さな手提げ籠に詰め、エイコが提げた。


路傍の木は街路樹で、手を付けては駄目。

道端の草は基本雑草で採って良いが、鉢植えは私物。

そういった一般的な事柄も知れた。


--


城門に来た。


見上げると、分厚い岩の壁が頭上にそそり立っていて、上から岩が落ちてきたらぺしゃんこになりそうだ。

この構造物がどのぐらい安定しているのか分からないから、凄い重圧を感じた。


トンネルは薄暗い。


中には、武器を構えた兵士が何人も詰めていて、彼らが何気なくこちらに向けている黒い刃は、一歩踏み込めば触れられるところにあり、緊張させられる。

通り過ぎる時に、彼ら黒革鎧のうちの二、三人がぼくたちの方へ眼を止めて、おやっという顔をした。

先頭を歩むトヨキやエイコは気づかなかったが、トモコが気が付いて、顔を向けて歩みを止め、


「あの、何か……」

「いやぁ、何でもない。通れ」


さっと首を横に振って顎で促され、トモコと一緒に立ち止まりかけた最後尾のぼくとマサノリも歩き出す。

城門での雨宿りは許されない。


--


城門から出ると、空気が変わった。


急に静かになり、冷え込んでくる。

人の出す臭いが薄まり、山や谷間の気持ち良い、甘い香りが強まる。


ぼくたちは腹が冷えるので、片腕でお腹を抱え込むようにして、もう片腕で互いを抱き寄せて、できるだけくっついて温めあいながら、ゆっくり歩き出した。



濡れている足元に神経を使いながら、尾根から下手(しもて)に向かって左手の谷の方へ、ジグザグに道を下り、次第に勾配が緩やかになって、やがて谷底へ。


坂道の途中の、木が一本だけ岩の隣に生えている所は、そこで道がちょっと平らに続いていて、(すすき)(ちがや)のような草が風に(なび)いて、晴れた日なら休憩するのに気持ちよさそうだった。


また、木が二、三本まとまって植わって居る場所なども、その木陰に小屋を構えたら気持ちが良いかもしれなかった。

夏に小屋の外に台を置いて、木陰で涼みながらのんびりしているのを空想した。


でも、許可の問題と、実際に住み心地が良いかどうかの問題がある。

道の傍だから、人が小屋の前を行き来するとなると、落ち着かないかもしれない。

村の中の、こんな良さげな場所に誰の家も建っていないというのは、相応の理由があるのだろうし。



まあ、とにかくまずは川に罠を仕掛けなければならない。


谷の向かい側へ真っ直に伸びる道を行くと、谷底の真ん中、広々とした農場や放牧地のど真ん中辺りを、谷の上から下へ突っ切る道にぶつかった。

ここで今まで歩いて来た道は行き止まりなので、とりあえず左へ曲がり、上流方向へ歩いていく。

暫く行くと、また谷を横切る道があったので、曲がって真っ直ぐ歩いて行った。

やがて、川の流れる音が大きくなって、川が近づいて来たことが知れた。


拙作をお読みいただき、まことに有難うございます。

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