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ばたばた、赤カブト(雌) 【WEB】

作者: 雨澤 穀稼


   ばたばた、赤カブト(雌)


 わたしは、弐.伍キロ毎日通っている。

 勿論! テクテクで、です。

 はいな! はいな!

 通っていると言うことは当然、当たり前(なの)だけれども往路もテクテクですよね!

 はいな! はいな!

 余裕を持って陸拾分前には、てくてくするようにしている。

 多分だけれど……この前置きは、必要無いと思うんだけど……書いたから良いとしよう!

 はいな! はいな!

 何時もの如く、てくてく歩いておりましたとさ。

 すると……目の前に、ばたばたばたばたする黒い艶びかりの赤カブトの雌がおりました。

 カナブンとか黄金虫ならよく見かけるけど……赤カブトは珍しいなと、思いつつもてくてくてくてく歩いて通り過ぎようとは……思うんだけど……ふと……立ち止まり……凝視……ばたばたばたばた……必死で藻掻いてるな?

 首もう〜んてなってるしな……陸本の脚で地面を捉えようと、頑張ってるしな? う〜ん……う〜ん……助けるよね! そんなの見たらば、問答無用で助けちゃうよね!

 当然だよね! ばたばたする脚にそっと、人差し指を伸ばして見たらば……ギュウッと赤カブトさんは掴んで来た!

 痛い! 鉤爪や脚の所々に、痛みのポイントが存在する。

 分かりきった事ではあります。

 虫採りに行っていた、若かりし日々のあの痛みに懐かしさを感じてるわたしがあった。

 はいな! はいな!

 近くの木をと……辺りを見渡しても、住宅街だ、壱杯(いっぱい)あるにはある。

 が、不法侵入しては善意も善意で無くなっては(なん)のこっちゃになってしまう。

 はいな! はいな!

 メッチャ、ムギュウしてるし!

 待て! 木である必要等、無いでは無いか……と、ふと思う?

 ひっくり返すだけで、良かったのでは……?

 歩けるんだよ! 空だって飛べるし!

 何なら、土にだって潜れるんだぞ!

 木の電信棒に、赤カブトさんの付いた指を当てる。

 さあお行きなさい、赤カブトさん!

 ムギュウ! 何故だ! 何故、行ってくれないんだ! わたしには、そんなに悠長な時間は刻々と失われていってるんだぞ!

 じっと、そんな念みたいなものを送りつつ見ていると……暫くして、赤カブトさんはわたしの指から……ゆっくりゆっくりと痛い部分を変えながら、電信棒へと歩を進めてくれた!

 達者でな等と悠長な事等言ってはいられない!

 遅刻してしまうからだよ!

 鶴の恩返し的な事等、あろうはずも無いしね。

 はいな! はいな!

 危ない危ない……陸拾分前に、余裕を持って出てるのに始業参分前って……てな事!

 はいな! はいな!

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