駅の前
・息子発つ龍天に登る駅の前
「無理しないで頑張るんだよ」
そっと息子の背中に手をあてた。
「大丈夫だって。俺は母さんの息子だよ。
故郷に錦を飾ってやるから。かあさんも、体に気を付けてな」
就職のため、故郷を離れる息子。
随分と言うようになったものだ。
息子の背中がだいぶ大きくなったんだなと思った日だった。
・錦秋やスーツ姿で駅の前
「大丈夫よ。私うまくやるから」
久々の故郷に帰ってきた俺の横の彼女が一言。
「うん、大丈夫だとは思っているんだけどな……」
「おかえりなさい。こっちに来るならもっと早めに……え……?」
実家に帰ると母が驚いた顔をした。
「彼女、連れてきた。父さんもいるよね?」
「え、えぇ……いるけども……どなたかしら?」
「彼女」
俺は短く答えて、家の中に入る。
「お前は、一旗揚げるって言っておきながら
もっといいもの持ってきたな。これから忙しくなるぞ!!」
「ものって言い方ありますか!」
笑顔の父に、笑顔で母が怒っていた。
「それとさ……
今度、こっちでうちの会社の支社ができるんだけど、そこの責任者になるから」
両親の驚きながらも笑う顔がまた見れた。