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マデロさんと革命。

 うちの学校にはチェ・ゲバラを転生させた人はいない。時代が近すぎるからだろうか?

 そのかわりフーキエ=タンヴィルさんがいる。もちろん美少女に魔改造されての転生である。ご苦労さまです。


 フーキエ=タンヴィルさんは中等部三年の坂下先輩が転生させた人で、〈転生者〉のなかではマデロさんクラスの知名度のなさを誇る。

 世界史の資料集を片手に説明しておくと、フーキエ=タンヴィルさんは1789年から1793年のフランス革命に出てくる人物である。転生前は革命裁判所の検事をしていて、恐怖政治時代には革命の悪口を言ったからギロチン、革命の成功を信じなかったからギロチン、よく分かんないけど貴族だからギロチン、マリー=アントワネットだからギロチン、と、とにかく人をギロチン台送りにした困った人だ。恐怖政治の最盛期、毎日ギロチンで首が落ちるのを見て、フーキエ=タンヴィルさんは「瓦のように首が落ちる」と評した。

 革命期のフランスでは屋根瓦は非常に落ちやすいものだったようだ。


 噂をすればなんとやらで、ちょうど坂下先輩がフーキエ=タンヴィルさんと歩いてるところを見つけた。よかった。C2クラスのアニマを取得するなら、『オーソドックス』を少し深く潜らないといけないので、一緒に来てくれる人を探していたのだ。


「死刑!」


 フーキエ=タンヴィルさんがいきなり叫ぶ。


「死刑! 死刑! 死刑! わたくしは反革命罪であなたの死刑を宣告します! 市民シトワイヤン坂下!」


〈転生者〉が転生術士に死刑を宣告するとは穏やかではない。

 それに彼女は検事なのだから正しくは宣告ではなく求刑のはずだが、実際、革命期のフランスでもフーキエ=タンヴィルさんは検事と判事を兼ねたような存在だったらしい。


「お、そこにいるのは服部か? ちょっと助けてくれ。このままじゃ死刑にされる」


 と助けを求める坂下先輩の顔はあきらかにふざけて笑っている。


「また名前の書いてあるプリンを食べたんですか、先輩?」


「名前ったってフランス語で書いてあるんだから読めないよ。だいたい、なんでプリン食っただけで反革命罪なんだよ?」


「笑止です! 市民坂下! 革命裁判所検事の栄養源を強奪することはそれだけ革命の成就が遠ざかることです。これを反革命と言わずしてなんというのですか、市民坂下!」


「誇大妄想」


「ムキーッ!」


「まあまあ、落ち着いてください」とマデロさん。「たかがプリンじゃないですか。そんなことで人の命を奪ったりしてはいけません」


 ゆっくりこちらを振り向いたフーキエ=タンヴィルさんの顔を見る限り、マデロさんは対戦車地雷を踏み抜いたらしい。


「たかがプリン? いま、たかがプリンと言いましたか、市民マデロ?」


「は、はい、言いました」


「あれは六条堂のたまごたっぷりプリンなんですよ、市民マデロ。朝から二時間並んで、やっと手に入った六条堂のたまごたっぷりプリンなんですよ? 一日限定六十個、今日の分はもう手に入らない六条堂のたまごたっぷりプリンなんですよ? 革命の推進力、夢の栄養、理性をつかさどる最高存在! それが六条堂のたまごたっぷりプリンなんですよ!」


「理性を司るプリンってなんだよ、それ?」


 やめておけばいいのに坂下先輩がちゃちゃを入れる。


「お黙りなさい! 市民坂下! 反革命なあなたにはもう発言権はありません!」


 どうも坂下先輩をダンジョンに誘うのは無理なようだ。

 木漏れ日の道に二人を残し、『オーソドックス』のある道へとそれる。

 マデロさんはホッとしている。マデロさんは人間の最大の美徳は他者への寛容さだと信じているので、同じ革命家でもフーキエ=タンヴィルさんとはウマがあわない。マデロさんは粛清なき革命は可能だと信じている。よき明日を手に入れる唯一の方法は全ての人が昨日の自分よりもちょっぴり優しくなることだ。そして、なによりもそうした明日を手に入れることができると信じることだ。


 マデロさんが嘘が下手なのはこういうところからきているのかもしれない。

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