マデロさんとおねだり。
さて、道条さんの非常に効率的にまとまった説明でクエストの細部が正しく把握できた。おかげでどこのダンジョンに行くか、どんなパーティを組んだらいいかが分かる。とはいえ、今回のクエストはごく簡単だし、そんなに深くへ潜ることもない。もともと単騎向けのクエストだ。
高等部校舎と中等部校舎のあいだを埋める緑道を歩きながら、マデロさんは僕の前、木漏れ日の落ちている地面だけをぴょんぴょん飛んでいる。ずいぶん子どもっぽい大統領である。
「陣太郎さん。今日はどこのダンジョンに行くんですか?」
「今日は『オーソドックス』かな。集めるアニマも簡単なものだし」
「そうですか……」
と、マデロさんは木漏れ日ケンケンパを一時中断、ちらっちら、とこちらを見る。
「……マデロさん、欲しいものがあるんでしょ?」
図星を突かれたマデロさんは見ていてかわいそうになるくらいうろたえた。
「え、そ、そんなことないですよ。E2とC2のアニマが欲しいだなんて、これっぽっちも思ってないです!」
もう最後のほうでは顔を真っ赤にして目をつむって、ぷるぷるしながら、否定している。が、マデロさんは絶望的なまでにウソが下手だ。
「E2とC2ね。じゃあ、ついでにその二つも取りに行こう」
「……う、ごめんなさい」
「謝る必要はないと思うけどな。マデロさんがいなきゃ、僕はダンジョンに入れない。ちゃんとギブ・アンド・テイクは成立してるよ」
マデロさんは嘘が下手だ。そして、本人は自覚していないけど、それがおねだり上手につながってもいる。
たとえば、去年の遠足でバスがテロリストに乗っ取られて、それを僕が解決したことがあった。
学園側が褒美をくれるというので、マデロさんのほうをちらっと見ると、マデロさんはメスカル工場もジーンズ工場も欲しくないです!と言って、部屋に逃げてしまった。ただ、困った人がいつでも訪れることができるよう部屋のドアは開けっ放しになっていた。
僕は学園の敷地にメスカル工場とジーンズ工場をもらい、マデロさんにプレゼントした。マデロさんは喜んだ。泣くほど喜んだ。泣きながらテキーラではなくメスカルと間違いを教えてくれた。
そして、レコードでとびきり陽気なメキシコ音楽をかけると、見かけた人間を片っ端から誘ってダンスパーティを始めたのだ。そのパーティはこの学園の生徒教職員の半分以上を巻き込み、文化祭の後夜祭にも匹敵する賑わいを見せたので、みながマデロさんを指差して「あの〈転生者〉は何者だ?」とたずねたほどだ。
お酒も肉食もしないストイックなマデロさんだけど、踊りは大好きだ。
しかも、踊ると決めたら徹夜で踊る。
二十世紀初頭のメキシコではそこに音楽を鳴らす方法があって、豪快なステップを踏んでも問題ない広さの地面があれば、こうした踊りが始まるらしい。
夜通しの踊りのことを話すとき、マデロさんはとても懐かしそうな顔をする。
独裁者を倒してメキシコを素晴らしい国にすると理想に踊った1910年。そこがどんな世界なのか僕は知らないが、マデロさんにとって戦うだけの価値のあるものだったに違いない。