表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/12

マデロさんと相性。

 クラスメートはみな誰もが知ってる歴史上の人物を〈転生者〉にしている。

 だからといって、僕とマデロさんを見下すような了見の狭いやつはいないのだけど、なかには僕がもっとメジャーどころの人物を〈転生者〉に迎えたかったんじゃないかと気にかけてくれている人はいる。

 だから、はっきり言っておくと、僕とマデロさんは相性抜群である。

 僕もマデロさんもおでんではおもちきんちゃくが一番好きだし、梅雨時の雨の前に香る甘い土の匂いが大好きだ。


 それにマデロさんがまったり、僕がほっこりを担当して、独特の癒し空間を形成し、暗記科目に人格を破壊されかけているクラスメートたちに憩いの場を提供している(転生術士として特別扱いされたからといって、世界史とか数学から解放されるわけではないのだ)。そこでマデロさんは元気になる砂糖の粒を渡して飲ませているが、これについては別のときに話すことにする。


 実は僕には転生させるとまずい偉人が一人いる。服部半蔵である。

 なにがまずいかと言えば、彼は僕のご先祖さまなのだ。とはいっても僕は分家筋だけど。

 服部家では嫡男が半蔵の名前を襲名していて、一番世に知られているのは二代目服部半蔵である。

 一応言っておくと、彼は忍者ではなく普通の武将である。得意武器は槍。槍の半蔵と言われるくらいなのだ。


 この不幸な勘違いは後世の創作のせいであり、服部半蔵が徳川家康から伊賀の忍者と甲賀の忍者をまとめて支配下に置くよう命ぜられたせいである。

 だが、何度も言うように服部半蔵は忍者ではない。

 服部家は確かに伊賀の忍者の名門ではあったが、初代半蔵が「忍者じゃ食っていけねえ!」と伊賀を飛び出し、徳川家康の祖父に侍として仕えた。

 だから、二代目半蔵ももちろん忍者ではなかったが、徳川家康の「おまえんち、忍者だったんだろ? じゃあ、お前、仕切れ」という無茶ぶりをもろに食らって、忍者服部半蔵の伝説が始まったのである。


 さて、ここで問題なのは、その服部半蔵の末裔である僕、服部陣太郎が忍者であるということだ。

 僕はみんなが考えているような忍者である。学園の制服と忍び装束をちゃんぽんにしたものを三着持っているし、私服も着物ではないが基本的に黒で備えている。得意武器は手裏剣と鎖鎌。忍術は一通り皆伝だ。僕を敵にまわすとこわいですよ。


 しかし、僕がこうして忍者をしているということは、二代目服部半蔵と僕のあいだにいる服部家代々のご先祖さまに空気を読んだ人がいたのだろう。

 作り上げられたご先祖さまのイメージを壊すわけにはいかないと、しばらく離れていた忍術修行に過酷に打ち込んだ人がいたわけだ。


 そんなわけで僕が服部半蔵と顔をあわせると厄介なことになる。もし、僕が転生させたのが二代目服部半蔵だったら、彼の第一声は「お前、なんで忍者なんかしてるんだ?」だろう。

 でも、心配無用。僕が転生させたのはマデロさんである。

 相性のいい、あのマデロさんである。

 困った人が気軽に入れるように部屋のドアを開けっ放しにしておく、あのマデロさんである。

 最近、卵を使わない合成からしマヨネーズに凝っている、あのマデロさんである。

 おでんのお気に入りはおもちきんちゃくの、あのマデロさんである。

 誰がなんといおうと、あのマデロさんである。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ