マデロさんとレガシー。
あと、マデロさんは校内の敷地にジーンズ工場を持っている。
サイザル麻と呼ばれる、本当は船の索具に使う繊維をジーンズの材料に使っているのだが、これが丈夫で、普通のジーンズとはまた違った履き心地で、なによりジーンズの命であるダメージの入り方で評判がいい(丈夫でダメージがいいとは矛盾しているが、ジーンズとは矛盾を内包しうる一種の宇宙なのだ)。
マデロさんのジーンズはファッション雑誌に取り上げられたこともあり、マデロさんは嬉しそうにそのページを開いて見せてくれた。
こうしたことを特技とするのはマデロさんが昔、大統領になる前にメキシコのコアウィラ州という場所のほとんどを所有する超大地主だったからだ。
マデロさんの巨大な農園は非常に近代化されていて、当時としては非常に珍しかった製氷工場も持っていたとのこと。マデロさんは古い方法の農業ではなく、新種の苗や農業機械の導入を行っていて、それで空いた時間に農民たちのための無料学校を運営していた。
マデロさんは教育に賭けているところがある。マデロさんをこの世界に転生させたとき、マデロさんが驚いたのはスマホでも飛行機でもなく、現代日本の識字率がほぼ100%なことだった(飛行機に驚かないのが意外だったが、実はマデロさんは史上初の飛行機に乗った国家元首だった。1911年、マデロさんはあのライト兄弟の飛行機に乗ったらしい)。マデロさんが言うには自分が大統領になったときのメキシコの識字率は14%だったらしい。残念ながらメキシコの地主のほとんどはマデロさんほどよい地主ではなかった。だから、革命が起きたのだ。
そんなわけで、メキシコでのマデロさんはぼちぼち人気があるようだ。
500ペセタ紙幣に印刷されていたこともあるし、首都のメキシコ・シティにはフランシスコ・マデロ通りという名前の通りがある。故郷のコアウィラ州にはフランシスコ・マデロ・スタジアムもあるのだ。
それにマデロさんがかつてつくった繊維工場はメキシコの国産ジーンズ製造工場の最大手だという。
マデロさん、おそるべし。