マデロさんと一緒。
『オーソドックス』ダンジョンの地下六階まで遠征して、ガイコツナイトを倒して、ようやくC2アニマが手に入った。ダンジョンの外に出たころには西日が差していて、思わず、まぶしいと声を上げたくらいだ。部長もコルデさんの戦闘データが取れたと喜んでいて、新しいスキルを編み出すのに役に立つと言っている。転生術士が〈転生者〉のレベルアップを常に考えてくれる理想的な関係といえば、きこえはいいが、なんのレベルがアップしているかといえば、暗殺術のレベルである。
法の穴をすり抜けた悪党たちはさらなる用心を。
「僕はコルデさんと一緒にシャバの空気をもうちょっと楽しむことにするよ。じゃあ、また」
「はい、部長。いろいろありがとうございます」
コルデさんの攻撃範囲外へ出られてほっとするのは悪党ばかりではない。マデロさんもほっとする。
「コルデさんはほっぺをぎゅっとしてくるのです」
その気持ちは分からないでもない。マデロさんのほっぺはもちもちである。僕だって、少し興味がある。できれば、メスカルをテキーラと呼んだ瞬間、一瞬、ぷっとふくらんだほっぺを両手でしっかり挟んでみたい。うん。そうだね。僕も少しばかし変態らしい。
クエストさんのところに帰って、クエストが終了したことを告げ、E3アニマを十個渡した。どうせ、これからE2とC2のアニマを渡しに購買部に行くのだから本人に直接渡してもいいけど、クエストさんの仕事を取っては悪い。でも、クエストさんが購買部に行けば、道条さんの胃が心配だ。まったく、世の中はとんでもない二者択一を僕らに課すことがある。
E2とC2のアニマを受け取った道条さんはそのまま作業部屋に入ると、ドッカンドッカン音を鳴らし、それから僕らを作業部屋に入れた。
作業部屋とは言うけれど、工具の一つもないがらんとした部屋に真っ赤な銅製の蒸留装置が立っている。僕らの背丈よりもはるかに高く、一番上のバルブをまわすのに梯子が必要なくらいだ。マデロさんは新型蒸留装置を前に大好きなおもちゃを前にした柴犬のごとく跳ねまわり、この蒸留装置がいかに短時間にアガベ種の竜舌蘭の発酵液を蒸留し、それによりいかにとろっとした甘みとコクを維持しながらスパイシーな香りを出せるかを興奮して説明した。
ところがつくるにはつくれたが、ここから運び出すことができないと説明されると、マデロさんはしゅーんとした。あと十分早ければ、用務員さんたちが運んでくれたんだけど。
そこで寮への帰り道、僕はマデロさんに元気が出るおまじないをしようと言った。おまじないときいて、ちょっと興味津々である。なにせ降霊術を信じているマデロさんだから、おまじないもありなのだ。で、僕は「マデロさんのテキーラ」と言い、マデロさんがメスカルと訂正する瞬間の、ぷっとふくらんだほっぺを左右から手で挟んだ。マデロさんはむぎゅとおちょぼ口になっている。もちもちに満足して放すとマデロさんはぷりぷりして先に部屋に帰ってしまった。
でも、大丈夫。なぜなら、マデロさんの部屋のドアは困った人のためにいつでも開かれている。
マデロさんのほっぺをぎゅっとやって、マデロさんがぷりぷりしているのも困った状況の一つなのだ。




