マデロさんとコルデさん。
『ジェンガ』の二階には僕が所属しているアサシン研究会といういかにも反社会的な名前の同好会がある。所属部員は僕を入れて二名の弱小同好会。ここに行けば、だいたい部長に会える。部長は快くクエスト探索に付き合ってくれるだろう。それも無料で。断ったら研究会をやめると脅せばいい。弱小同好会の平部員の強みはハッタリ辞職にある。
「部長。こんにちわです。ちょっとお願いがあるんですけど」
「やあ、服部くん。ちょうどよかった。僕は明日から少し部を開ける。きみ、留守を頼むよ」
「また、事情聴取ですか?」
「うん。ふふ、そんなところだ」
にっこり微笑むこの部長、実はヤバい人である。ヤクザですら食い物にする警察内麻薬組織の幹部警官やひき逃げ事件を起こした政治家のドラ息子など法で裁けない悪党が謎の死を遂げると決まって、部長が警察の任意の事情聴取を受ける。もちろん逮捕されたことはない。そんな部長の〈転生者〉はシャルロット・コルデという長身の女の子でまたの名を〈暗殺の天使〉。実際、今も部長の安っぽいデスクセットの横に黒服姿で影のように控えている。
「部長にクエストのお手伝いを頼もうかと思って来たんですけど、お忙しい感じですか?」
「いやあ、事情聴取は明日からだから、今日は体が空いてる。それにコルデさんも新しいスキルを試してみたいって言っているし。ね?」
「はい、マスター」
コルデさんは部長をマスターと呼ぶ。僕もこれからはマデロさんをプレジデンテと呼んでみようか?
「それで、どこのダンジョンに行くんだい?」
「『オーソドックス』でC2アニマ狙いです」
「それなら一人より二人のほうが確実だ。当ててみよう。マデロさんだね?」
「ええ、まあ。そんなところです」
「彼女、今日は来てないのかい?」
「いえ。いま、下で顔見知りに挨拶してます」
「ぜひ、こっちに呼んでくれないか。コルデさんはマデロさんがお気に入りなんだ」
呼ばれてやってくるなりコルデさんはマデロさんを捕まえた。両手でマデロさんのもちもちしたほっぺをびたっとはさみ、じっと目を睨み落としている。睨まれているほうのマデロさんは半泣き状態だ。
「ちょっとちょっと、コルデさん。そんなにしなくてもマデロさんは逃げないよ」
手が離れると、マデロさんは、ぴゃっと僕の後ろに隠れた。
「逃げられました、マスター」
そりゃ逃げるだろう。コルデさんはいろいろ不器用だ。
「じゃあ、マデロさんも無事逃がしてもらえたところで『オーソドックス』に行こうか」
「はい。あ、でも、部長。その前にききたいんですけど」
「なにかな?」
「部長――やってないんですよね?」
部長は、ふふ、と妖しげに口元を綻ばせた。
「想像にお任せするよ」
間違いない。やっぱりこの人はヤバい人だ。




