マデロさんと僕。
突然だが、僕は転生術士である。
転生術士というのは、歴史の偉人をこの世に転生させ、まあ、〈転生者〉という守護神まがいにしてしまうという便利なのだか不便なのだか分からない技の使い手である。一応、国家資格らしい。
歴史上の偉人をこの現代日本に転生というか召喚というか魔改造というか、とにかくご足労願うのだが、では、彼ら彼女らを呼び寄せて、なにをするかといえばダンジョン探索である。
この世界にはダンジョンというものがある。
モンスターもいれば、宝物もあるのだけど、そこを冒険するのに単一時間軸を有するパーティでは無理で、複数の時間軸を有するパーティでなければいけないと僕にはさっぱり分からないのだけど、要するに現代を生きる僕らだけでは入れないので、歴史上の偉人を呼び出して〈転生者〉として一緒に入ってもらう。
込み合ったライブハウスもバンドメンバーと一緒ならバックステージパスになるような話なのだろう。
たぶん、そうだ。
まあ、正直な話、僕も歴史上の偉人をこの世界に連れてきて新たな生を授けて冒険する話はアニメや漫画でいくつもあるのは知っている。だから転生術士であることに自尊心をくすぐられないと言ったらウソになる。それに僕らはなにかと大切にされる。それもそのはずでダンジョンは儲かるのだ。
モンスターを倒して得られた〈アニマ〉を現実世界に持ち帰ると、それが産業分野に途方もない技術革新をもたらすことがある。
だから、ダンジョン探索は国家的なプロジェクトであり、転生術士は一つの寄宿制スクールに集められて、専門教育を受ける。
大人たちがそんなふうに僕らを特別扱いするものだから、僕らはますます自尊心をくすぐられてしまい、年がら年じゅう酔っ払ったようになる。名声に酔うってやつだ。
それになによりも歴史上の人物と一緒に戦うというのが、ちょっとかっこいい。
だって、クラスメートの転生させた歴史上の人物というと織田信長や坂本龍馬、ジャンヌ・ダルク、ジュリアス・シーザー、ナポレオンといった誰でも知ってる有名人だ。
セレブと一緒に暮らしてるようなものだ。
ただ、彼ら〈転生者〉は魔改造されてるので、美少女になってる場合もある。
かくいう僕の転生させた偉人もそうなのだ。
「陣太郎さーん。見てください。立派な竜舌蘭でしょう?」
紹介しよう。
彼女は僕の〈転生者〉フランシスコ・マデロさんだ。