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スキル【自粛】で異世界無双!

作者: 三密って落語家の名前にありそう

 

 2020年某日、ボクは家に引きこもっていた。


 ボクだけじゃない。今日本中の人達が、いや、世界中の人達が家に引きこもっては極力外出しないようにしている。


 原因は世界で大流行しているとあるウイルス。 それが落ち着くまでは誰も外に出ることは出来ないのだ。


「んあー! 自粛自粛ってもううんざりだー! 家にいてもやることないよ! 学校行きたいよ友達と遊びたいよー!」


 溜まりに溜まった不満とストレスをここぞとばかりに叫んでみる。


 叫んではみたものの狭い部屋の中をわずかにこだまするだけで誰かの返事が返ってきたりはしない。


 平日の昼間、お医者さんのパパと看護師さんのママは朝から働きに出かけていて家にいるのはボク1人だ。


「はあ、ゲームもやり飽きたしブクマしているなろう小説はいつまでたっても更新しないし、資格の勉強くらいしかやることないや」


 自粛するようになってから溜め息が増えたような気がする。 それもこれも全部ウイルスと自粛のせいだ。


 そんなことを思いながらボクは飲み物を取りに行こうと自室の扉に手をかけた。


「……って、あれ?」


 驚いた。


 何の気なしに部屋の外に出てみると、いつのまにかボクは暗い暗い森の中にいた。


 振り返ってみる。不思議なことに扉がない。


「ま、まさかこれは…… い、異世界転移なのか……?」


 自分で口にした言葉を自分で疑う。


 異世界転移。 なろう小説でよく目にするアレだ。


 読む分には好きなのだけれど、いざ自分が同じ境遇にあったとなると恐ろしく思う。


 でも少しだけワクワクしている自分もいる。


 きっと、長いこと味わえていなかった外の空気に感動してしまっているのだろう。


 そして、これから起こるのであろう無双とハーレムの冒険譚に心を躍らせてしまっているのだろう。


 そうとなったら次のステップだ。 ボクは勢いよくその口上をあげた。


「ステータスオープン!」


 無駄な過程はさっぱりカットしてお決まりの口上を高らかに叫ぶ。 一回言ってみたかったんだよねコレ。


 さあ、目の前の空間にボクのステータスが映し出されたぞ。 いったいどんなチートが備わっているんだろう。


 ≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡



 なまえ   ボク


 れべる   1


 きんりょく 1


 たいりょく 1


 かしこさ  1


 きようさ  1


 うん    1



 すきる 【自粛】



 ≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡



「?」



 受け入れがたい事実を前にボクは首をかしげることしかできなかった。


 弱い、あまりに弱すぎる。


 レベルもステータスも低いしスキルは1つだけ……


 なんだよ! 想像していたのとだいぶ違うぞ!


 いや、まて。 まだスキルの内容をちゃんと確認していないじゃないか。


 いけないいけない、ボクがボクを信じないでいったいどうするんだ。


 えーと、タッチしてみたら何かわかるかな。


 ボクはスキル【自粛】の欄を指でなぞってみた。 すると新しいウィンドウが開かれて、そこにはスキルの詳細が書かれていた。


「なになに? 人混みを避けたり屋内で大人しく過ごせば過ごすほど強くなる?」


 スキル名からして嫌な予感はしていたけど内容は決してボクの予想を裏切らないものだった。


 ボクは深い溜め息をついた。 奈落の底に迫るほどの深い深い溜め息だ。


 アホなのか、このスキルをボクに寄越した奴はアホなのか。


 こっちは自粛疲れが溜まってやっとのびのび体を動かせるチャンスだと思っていたのに異世界に来てまで自粛しろというのか。


 あほくさ、やってられないよ。


 ボクは自分の境遇を呪いながらも歩き始めることにした。


 深い森の中、どうやら夜のようで人気はない。


 甲高い、モンスターの鳴き声のようなものは聞こえるけどだいぶ遠くからで接触するようなことはなかった。


 とても運のステータスが1とは思えないほどの運の良さだ。


 そんなことを考えていると寂れた廃屋を見つけた。


 壁にはところどころ穴があきツタが生い茂っている。 まるで手入れがされていない状態だ。


 おそるおそる扉を開いて覗いてみると案の定中は荒れ果てていて、埃だらけでクモの巣があちらこちらに張っている。


 少し考えた後、ボクは一晩この小屋の中で過ごすことにした。


 こんなオバケが出てきそうな場所で過ごすのは気が引けてしまうが、外でモンスターに襲われる危険性を考えるとまだマシだと判断した。


 まあ、ボクってば案外どこでも寝られるタイプだし平気平気。


 その後、ボクは床について10分もしないうちに眠りについた。


 事件が起きたのは翌日のこと。異世界転移が夢じゃなかったことに軽く絶望しつつついでにもう1つ絶望してやろうかと半ばヤケクソ気味にステータスを確認したときのことだ。



 ≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡



 なまえ   ボク


 れべる   125


 きんりょく 587


 たいりょく 662


 かしこさ  23


 きようさ  509


 うん    334



 すきる 【自粛】【炎魔法+】【筋力増強】【剣術++】【風魔法++】【闇魔法+++】【言語理解】【武神】【カリスマ】【戦女神の加護】【二重詠唱】【天才】【狩猟の心得】【鑑定+】【時間停止】【交渉術+】【神器生成】【夜の王】【竜召喚】【魔力増強】【暗殺+++】


 ≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡


「???」


 ボクは三度首をかしげた。


 昨日確認したはずのヘッポコステータスがいつのまにか超絶強化されている。


 スキルなんてところどころとんでもないスキルを会得してしまっている。


 いったい何がどうなっているんだ……!


 その原因を考えていると、ボクはソレが目に入ってはっとなった。


 【自粛】。


 そう、それはボクが唯一前日に持っていた【自粛】スキルだ。


 このスキルは自粛すればするほど強くなるスキルだと説明に書いていた。


 知ったときは辟易してしまったけれど、この強化具合を見ると手のひらを返さざるを得ないぞ。


 それになによりたった一晩屋内で寝ていただけでこれほどの効果をもたらすなんて……


 すごい! すごいぞ【自粛】! 最高じゃないか【自粛】!


「やっほーい!」


 ボクは有頂天になっては駆け出してモンスターを探した。


 見つけたのはすごく強そうな蜂のモンスターの群れ。


 トラックくらいはありそうな巨大な巣を守っているようだった。


 瞬殺。


 手を前方にかざして炎魔法を発動したら、かめ○め波みたいな極太光線が放たれて相手を亡き者にしてしまった。


 そのあまりの威力にドン引きするものの、興奮と喜びのほうが勝ってしまってボクはさらに戦闘を重ねた。


 しかし途中でお腹が空いてしまった。


 森の中には食べられそうなものはなさそう。 だからボクは日が沈まないうちに人の街を探すことにした。


 あてもなく歩いていたけど、数時間で街は見つかった。


 入り口には門番さんがいたけど、ボクが子供だからなのか何も言わず中に入れてくれる。


 街の中はいかにもって感じの中世ヨーロッパ的な町並みだった。


 レンガで出来た建物が多く、コンクリートなんてものはまずない。


 少しの間物色していると、串焼きの露店を見つけたので1つ貰うことにした。


 お金は倒したモンスターが落としていったから十分にあるのだ。


 店の前で串焼きをいただいていると、店主のおじさんが話しかけてきた。


「ボウズ、ここらへんじゃ見ない顔だな。 どこから来たんだ?」


「日本」


「ニッポン? 聞いたこともねえな。 こっから遠いのか」


「きっとすごく遠いよ。 帰る方法もわからないんだ」


「そりゃ大変だな。 そうしたら何かと入り用だろう。 おまえさん腕に覚えがあるなら冒険者になるといいぜ。 こんなちんけな商売やるよりよほど稼げるぞ」


「冒険者? どうやってなるの?」


「こっから北に行った冒険者ギルドで登録すりゃあ誰でもなれるぞ」


「なるほど、ありがとうおじさん!」


 有益な情報を得たところでボクは店を後にした。


 おじさんが教えてくれたとおり冒険者ギルドでは簡単な手続きをすればすぐに冒険者になれた。


 冒険者ギルドでは倒したモンスターの素材を買い取ってくれたり依頼の凱旋をしてくれるらしい。


 テンプレ通り、この世界は何もかもが読んだことのある小説どおりでボクとしては大助かりだ。


 それからボクの異世界生活がはじまった。 といっても戦闘と自粛を繰り返すだけだ。


 朝目を覚ましたら森に向かってモンスター討伐。 帰りにギルドに寄って素材を換金。


 特に〈ゴールドフロッグ〉という金ぴかのカエルのやうなモンスターは羽振りがいいので重宝する。


 ご飯はなるべく人のいないお店で済ませて、夜になれば宿の部屋に引きこもる。 当然そこでも【自粛】は発動する。


 これを繰り返すだけでボクはもりもり強くなり、みるみる所持金を増やしていった。


 たとえ外に出てもそれまで得た【自粛】の効果が消えないのがとても美味しい。


 すごい! 【自粛】すごいよ! 絶大な効果だよ!


 一日目に武器と防具を買った。 一週間経つ頃にはケモミミ奴隷美少女を買った。一ヶ月経つ頃には家を買った。


 ボクの異世界生活はこれ以上ないくらいに充実していた。


 けど、そんなある日のこと。 なぜかボクは朝からギルドに呼び出しを受けていた。


 奴隷の女の子は、きっとご主人様活躍が目覚ましいから報奨をくれるんですよ! なんてことを言う。


 妙に納得したボク。 ちょっとだけ嫌な予感がしたけどそんな不安はどこかにいった。


 そうしてボクは冒険者ギルドを訪れた。


 受付に顔を出すとすぐに担当のお姉さんがやって来て話がはじまる。 いったい何を言い出すというのだろうか。


「来ましたね、ボクさん」


「はは! どうも!」


 ボクが笑って挨拶するもお姉さんの目はまったく笑っていなかった。


 本来ならそこで違和感に気がつければいいのだが、あいにくボクは賢さが低い。 


 お姉さんが切り出す。


「……今日ボクさんにお越しいただいたのは大事なお話があったからです」


「前置きはいいですよ、はやく本題にはいってください。 報奨をもらえるんでしょ? いったい何がもらえるんですか? お金か、もしくは称号とか?」


「……ここ最近、ボクさんは熱心にモンスター討伐を行っているそうで」


「あっ、はい! 今度旅行に行く予定で! 頑張ってお金稼いでます!」


「それは結構なんですけどね。 はじめて登録したとき、いくつか誓約事項をお伝えしたのは覚えてますか?」


「誓約事項? うーん、そんなのあったようななかったような……」


「ありましたよ、ちゃんと最初にお伝えしました。 そこで言ったはずです。 必要以上にモンスターを狩り生態系を乱すことは厳しい罰則対象になると」


「せ、生態系? ボクそんなに倒してないですよ」


「いいえ倒してます。 その証拠に近隣の森に生息する一部の種類は絶滅したと報告が上がっています。 〈ゴールドフロッグ〉です。身に覚えありますよね? いっぱい素材持って帰ってきてましたもんね?」


「……はい」


「……話を戻しましょう。 ボクさん、あなたに誓約違反の罰則として一週間の自宅謹慎と20万エーンの罰金を命じます。

 謹慎後は、考えを改め行動するようにしてください」


「えっ、それって……」


「自粛してください。 ということです」


「そ、そんなぁー!」

うがい手洗い大事。

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