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9.Command Ship

 (コード)(ネーム)〈SC〉は、〈USSR〉が世界に先駆けて開発・実戦投入してきた超光速探信儀(レーダー)を指す語である。

 大倭皇国連邦宇宙軍では『Super Celerity』の略であろうと推測されているものの、実際のところは不明。

 動作原理としては、空間歪曲(スペースワープ)航法遷移時に特有の遷移先行波(フォアランナー)を探査波として利用しようとするものだ。

 すなわち、座標Aにいる航宙船が座標Bに遷移しようとする時、そのB点に他の物体が存在していると〈跳空間(ワープチャ)〉回路(ンネル)が構築できず遷移ができない。そのためスペースワープ航法では、A点からB点へ仮設の回路を事前に開通させて遷移実行の可否を確かめる。

 その仮設回路を一種の探針針として遷移出口側の情報を探るのに用いるというのが〈SC〉の基本原理なのである。

 ひらたく言えば、〈跳空間〉越しの()()()と言うか、『向こう側』に触信を無数に打ち込み、その()()()によって、当該の座標に『何かがある』のか、それとも『何もない』のかを探る仕掛けなのだった。


(そういうことか……!)

 高橋少佐は、悟った。

 この段になって敵の艦隊構成――疑問に感じていた軽巡二隻についての答を得たと理解した。

 敵艦隊最前衛をなす爆雷投射艦――駆逐艦二隻に続行していた軽巡二隻、それらが本来の軽巡オリジナルではなく、改装空母ではないかと推察していたが、にしても自分の出した答に完全には納得してはいなかった。

――なぜ二隻もいるのか?

 その疑問が消えなかったからだ。

〈USSR〉宇宙軍における各種戦闘航宙艦の性格、また担当任務からして、探査によって得た情報の通り、軽巡が二隻配備されているというのは、まずあり得ないだろう。

 が、

 かと言って、機動艦隊でもあるまいに、大倭()皇国()連邦()の正規艦隊を相手にするのならともかく輸送船団を襲うための編成にしては、(改装であれ)空母が二隻だなどとは、規模が中途半端に大きすぎる。(そして、もし仮に、対峙している敵艦隊が、本当は機動艦隊だとすると、今度は護衛艦の艦種選定が理に合わない)

 軽巡が二隻。

 もっとも妥当そうな、一隻は改装空母、もう一方は軽巡のままという組み合わせも、それはそれでしっくりこない。完全には胸落ちせず、違和感がのこった。

 襲撃艦隊の旗艦というなら、それは艦型をおなじくする改装空母が務めても構わない筈で、大倭皇国連邦宇宙軍聯合艦隊の軽巡のように彗雷戦隊を率いるというなら艦隊のなかでのポジショニングがおかしい。

 つまり、

 どう考えてみても、軽巡クラスのフネが二隻までもは必要ない……筈なのだ。

 いかに〈USSR〉が〈ホロカ=ウェル〉銀河最大の富強国といえ、こと戦争に不必要な浪費をする(バカ)はいない。

(だから、()()は――)

 高橋少佐は、発射管室の宮園中尉を呼び出すべく艦内通話器(インターコム)を操作しながら考えをめぐらす。

(あの()()は、探査測敵、そして、多分はそれら情報を基にして指令をくだすことに特化したもの――言うなれば指揮統制艦とでも呼ぶべき代物なのに違いない)

 そう結論づけたのだった。

 そもそも超光速探針儀〈SC〉は、その作動原理上、登場当初は戦艦クラスの大艦にしか搭載ができない兵装であった。

 ごくごく短い時間内に、集中・連続して〈跳空間〉に長遠距離探査のための(ダミ)(ーチ)(ャン)(ネル)を幾百万、幾億というレベルで構築しなければならない――リアルタイムに敵情を得るにはそうするしかないという要件が、艦体サイズが中小にとどまる戦闘航宙艦には負担が大きすぎたのだ。

〈跳空間〉に敵情探査用のダミーチャンネルをそこまでの回数、(いち)(どき)に構築する行為は、どれだけ抑えようとも、トータルでみれば遷移時のそれと同じか、むしろ過大なレベルで超光速機関を酷使し、エネルギーを消費することとなってしまうからである。

 遷移であれ、探査であれ、〈跳空間〉に回路を開通させる時空間変調装置発振子のベースがブラックホール――特異点であるのは同じであるからそうならざるを得ない。

 ジェネレーターの能力に余裕がなければ、そもそも〈SC〉を作動させることからして出来なかったのだ。

(だが、いま私たちの目の前の敵は、どうやら軽巡クラスの艦体に、その〈SC〉を載せてきている。つまり……)


「つまり、武装は貧弱。大距離測敵と艦隊の指揮統制に特化した艦ということですか……。それで、空母の傍に位置しているのだと」

 繋がった回線の向こうで宮園中尉が言った。

 今にも「ふぇ~~」とか言いそうな、感嘆しきった声である。

「そうね。一般的な機動艦隊の例にならえば、その高価値目標(HVU)は、まずもって空母――最大の打撃力を有するが、同時にもっとも脆弱(ぜいじゃく)なフネ。だから、空母の配置は艦隊陣形のもっとも奥深くであり、周囲には護衛艦群がひかえることとなる」

「そのHVUが二隻の場合、護衛する側の負担を勘案すれば、一所にかたまってくれていた方がありがたい?」

「くわえて、捉えた敵情をもとに、麾下艦艇に適宜指示をだしていくのも陣形の中心にいる方が効率的でしょうしね」

「なるほど」

 宮園中尉は息をついた。

「それで、艦長は、想定していたより早く、敵側にこちらの状況を把握されてしまったとお考えになったわけですね? それで、私にお訊きになりたいのは、あの『提案』の進捗状況について、でしょうか?」

「そうよ」

 打てば響く、相手の察しの良さに少し目がまるくなる。

「一次(そう)(てん)分については、すでに作業は完了しております。現在は、次発装填分の処理中で、それもあと十分内外で終わると報告をうけています」

「よし」

 高橋少佐の肩から力が抜ける。

 実際にやってみなければ効果の程はわからない策ではあるが、それでも、ひとつくらいは対応手段が手持ちにあるとわかって、ほんの少し安心したのだった。

 同時に思う。

 宮園中尉は、応召・即席仕立ての士官であったが、意外と拾いものだった。将来的にも期待できるかも知れないわね、と。


 やがて、爆雷の破片群は、輸送船団の所在空間を完全に通過する。

 戦いは、第二段階に移ろうとしていた。

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