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「敵攻撃機群、警戒ラインを突破! 機数、六! 現在、セクター3-3-4より1-3-4へ! ()()()進路軸線を迂回しつつアリ!」

 センサーが捉えた敵攻撃機群の接近軌道を船務長が切りつける口調で報告してくる。

「了解。砲雷長、高角砲射撃準備はどうか?」

「全砲門射撃準備ヨシ! いつでもいけます!」

 船務長にうなずいて見せた高橋少佐が、淡々として事務的な問いを向けると、こちらは(どう)(もう)な笑顔の砲雷長が、『応!』とこたえる。

「よろしい」

 高橋少佐は、それにも頷いてみせ、

「船務長、〈なこまる〉との回線状態に異常はないか?」

「ありません! 明瞭度は健常を維持。通信遅延(タイムラグ)は、アベレージ三〇秒を保っています!」

「〈あうろら〉、リモートデスクトップはどうか?」

「アクティブ! 〈あうろら〉スラスト・コントロール動作は管理下にアリ!」

 ふたたび船務長と数語のやりとりをした。

「よし!」

 そして、大きくうなずく。

 念には念をの問答だった。

 フネの雰囲気を悪くしてはいけない。

 部下たちを不安にさせてはいけない。

 そうは自戒しながらも、それでも、不測の事態、予期せぬ故障――(くら)い未来の予感が振り払えなかった。

 しかし、どうしようもなく心の裡を(かげ)らせる不安を払拭(ふっしょく)するこたえに安堵したのだ。

「よし!」

 もう一度いうと、指示の言葉を高橋少佐は口にする。

「船務長、〈なこまる〉へ通信! 本文、『ただちに貨物コンテナ投棄手順を開始されたし』――以上!」

「了解! 〈なこまる〉へ通信、送ります! 本文、『ただちに貨物コンテナ投棄手順を開始せよ』――以上!」

 船務長の声が艦橋内部に響きわたった。

「航法長、機関長!」

 その復唱をよそに、高橋少佐は別の部下を指名する。

「貨物コンテナ投棄にともなう〈なこまる〉船体バランスに注意! 〈なこまる〉進路の既定ラインからの逸脱、および船速変化を見逃すことの無いよう監視を厳とせよ!」

「了解! 指定船舶の監視、厳とします!」

 座席の上で、やや前方に身を乗り出す姿勢となっていた高橋少佐は、そこで身体を背もたれにあずける。

 できうる限り表情を無にたもったまま、戦術ディスプレイを凝視した。

 自艦の後方、やや斜め後ろに位置している〈なこまる〉を表すアイコンから、いくつもいくつも小さな点が、湧き出すように周囲へ解き放たれていることが確認できた。

〈なこまる〉が――護衛してきた船団が、(はる)(ばる)ここまで運んできた貨物を詰め込んだコンテナ。

 自分がくだした指示に従い、〈なこまる〉乗員たちが次々、虚空へ投棄している貨物コンテナ群である。

「投棄コンテナ群に本艦噴射後流拡散端部(サイドローブ)が接触。コンテナ、温度上昇します」

 高橋少佐とおなじく、戦術ディスプレイを喰いいるように見詰めている船務長が報告してきた。次いで、被爆した貨物コンテナの上昇していく温度の読み上げが。

 そして、

「被爆コンテナ群、サイドローブ被覆領域から離脱。噴射被爆による熱破壊は確認されず。温度、下がります」

 船体そのものには当たらないよう操艦に気をつかっていた噴射後流だが、投棄された貨物コンテナは、〈なこまる〉の船体から距離をひろげていく過程でそれを横切る格好となった。

 みずから超高温の噴射――推進軸線から外側にはずれた拡散部分に我が身をさらす事となったのだ。

 そうして被爆したコンテナは、その外皮温度を急激に上昇させはしたものの、なんとか熱破壊することまでは免れ、慣性飛行をつづけて危険領域から脱していったのだった。

(……さぁ、どう判断する)

 下がりつつあるとはいえ、いまだ高温であると表示をされた貨物コンテナ群――そのアイコンの群れが散り散りとなって虚空に消えていく様子を見つつ、高橋少佐は『敵』の動きを見まもった。

〈くろはえ〉の噴射後流を避けるかたちで迂回し、斜め後ろから急速接近してきつつある敵攻撃機群――AIが、攻撃目標と定める()()をどれにするかを見きわめようとした。

(投棄コンテナ群は、被爆したことによってまだ高温。機体が小型である故に、センサの分解能が低いといっても、それを補足するのは容易なはずだ)

 高橋少佐は考える。

 瞬きをわすれた眼球が、乾燥し、ヒリヒリと痛みを訴えている事にさえも気づかない。

(貨物コンテナの軌跡を逆算すれば、その出発点――コンテナを投棄した船舶がどれかは割り出せるはず。で、あれば――)

 そこまで考えた時、戦術ディスプレイの中で敵機を示すアイコン群が、微妙に進路を調整したと見て取れた。

〈くろはえ〉の防御火幕からは可能な限り距離をとり、しかし、自分たちの攻撃は集中させ、効率的におこなえるような進路。

 敵の攻撃機をあやつるAIが、標的とさだめた相手は――

(〈あうろら〉……!)

 勝った! という思いを必死に高橋少佐は抑え込む。

 AIにしてみれば当然の判断。

 彼我の戦力、そして勝利条件――それらを勘案すれば、積み荷を捨てた輸送船には価値はなく、自らがおこなう攻撃に最良のコスト・エフェクティブネスを求めようとすれば、狙うべき目標はおのずと明らかだったからである。

「船務長!」

 高橋少佐は叫ぶように言う。

「〈あうろら〉、推力全開! 過負荷噴射(オーバーロード)実行指示をただちに送れ!」

 メインもサブも――すべての推進装置を全力で噴かす操船を指示することを船務長に命令した。

「了解! 〈あうろら〉にオーバーロード実行、指示送ります!」

 自分のコンソール上に立ち上げたリモートデスクトップ――通信装置経由で外部から他船の操船作業を可能とするソフトウェアに指示を打ち込みながら船務長がこたえる。

(攻撃対象たる三隻のフネの価値判断。そして、最終的に決定した標的の逃走――お膳立ては整えてやった。これで敵攻撃機群は、第一優先目標の〈あうろら〉を全力で追撃していくはず……)

 そんな高橋少佐の予測に沿うように、戦術ディスプレイの中、無人船(あうろら)は、その(スピ)(ード)をしだいしだいに増していき、それに対応するべく敵攻撃機群も明確に、その進路を変更していった。

(後ろはしのげた)

 高橋少佐の視線がうごく。

(次は、いよいよ、あいつらだ)

 見詰める先には、突撃にうつった二隻の敵駆逐艦のアイコンがあった。

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