1-2:キノコ騒動
「うまいね、このキノコ。」
「うん。」
新野さんもにっこりと笑いながら同じキノコを食していた。
正直笑顔はかわいいけどさっきの調理法のせいで笑顔が恐ろしくみえて仕方がない。
「新野さんはまだ探索を続けるの?そろそろ日が暮れそうだけど。」
「最悪野宿するつもりだったけど、山田くんに会ったから皆の後を追ってみたいかな。」
なるほど、俺は男だから二人で野宿するのは女の子として怖いんだろう。
正直俺も新野さんと野宿は違う意味で怖いので皆を追ってみたい。
「じゃあ和田達を追いかけようか。」
「うん、こっちの方向だよ。」
新野さんが僕を先導してくれる。めっちゃ頼もしい。けど怖い…。
日が暮れはじめた頃、俺と新野さんは前方が明るくなっているのを確認した。
「あれって明かりかな?」
「そうみたい。何個かポツポツ見えるから集落の可能性があるね。」
「よし、行こうか。…あれ?新野さん頭にでっかいキノコが…。」
「ちょっと待ったお二人さん。」
「え?ぎやあああああ!!出たああああああ!!」
振り返った先には超近距離に重岡の顔があった。さらに両手で俺の腰が掴まれていた。
「重岡くん。どうしたの?」
「こんばんは新野さん。あそこにむやみに近づくのは危険だよ。」
「それよりもお前は離れろ!!」
「ああ、すまない。男の子の良い腰があったからついね。」
つい…?こいつは痴漢の常習犯か何かか…??
「僕もあの集落に近づこうとしたんだが、何やら様子がおかしくてね。」
「様子が?」
「ああ。和田くん達もどうやらここにいるみたいだが、なぜか姿が見えないんだ。」
「おいおい、あの集落やべえのかよ!じゃあ他の集落探すか。」
「待ちたまえ。君はクラスメイトを見捨てる気かい?」
「いやだって怖いじゃん…。」
「集落の人を見た感じ、悪そうなやつらって感じでもなかったけど…。少し警戒しなくちゃいけないかもしれない。」
「そっか。じゃあおいらはこのへんで。」
逃げようとした俺の腰を重岡が掴む。
「まあ待って。もし一緒に行ってくれたら僕がご褒美をあげようじゃないか。」
「そうだな、お前が金輪際俺を狙わないと約束するならいいだろう。」
「へえ、いいのかい?それで。」
「は?今後のことを考えれば最高のご褒美だが。」
「ふふふ、いいだろう。契約成立だ。和田くん達を見つけるまで逃げちゃだめだよ。」
「分かったよ。俺も和田を見つけないと安心できねえ。行ってやるさ。」
「二人とも、あれを見て。」
新野さんが集落の人間がかごいっぱいに何かを運んでいるのを見つけた。
「あれは…山盛りのキノコ…?」
「ここの集落の住人がもぐもぐ食べてるな。それがどうかしたの?」
「うん、あれ、一応食べられるキノコなんだよ。」
「一応…?」
「あの中で何種類か、副作用があるキノコがあるの。」
「え、副作用あるキノコ!?」
なんでそんなもの食べてるんだ!?
「お酒やたばこや男狩りみたいなものなんじゃないかな。体に悪いと思っていてもおいしくてやめられないみたいな。」
「ああ、ラーメンみたいなもんか。」
なんかいらんもん入っていた気がするが急に難聴になったおかげで聞こえなかった。主人公属性万歳である。
しかし、そんな話するとラーメン食いたくなってきた…。ラーメンてなんで話題にすると食いたくなるのか不思議。
「そんな話してると男狩りしたくなってきたな…。」
なんでそんなもんがラーメンと同じ感想になるの?
「でも、なんかおかしい気がする。」
新野さんは俺らの話をガン無視して観察を続けている。
「例えばあの赤いキノコ、体に焼けるような激痛が走るんだけど、それをもぐもぐ食べてる。」
「ちょっと待って、知ってるってことはあのキノコ食べたの?」
「うん。味自体はおいしかった。」
味じゃなくて副作用えげつなくない?この子なんで平然としてられたの?
「あ、ちなみに山田君と一緒に食べたキノコだけど…。」
「ちょっと待ってくれ。この話の流れだと食べたキノコにも副作用あるってこと!?」
「うん。食べられるとは言ったけど副作用ないなんて言ってないよ?」
「副作用あるやつは毒判定でいいんだよ!ちょ、急に頭が痛くなってきたんだけど!!?」
痛い痛い痛い!!なんかつむじあたりが激烈に痛い!!
「あのキノコ、頭からキノコ生えるみたい。ほら。」
新野さんが頭に生えてるキノコを指さす。うん、かわいいけど…。
「その頭あのキノコのせいかよ!?痛すぎて涙も出ねえわ!!」
「痛いの痛いのとんでいけ~♪」
「てめえを遺体にしてやりたいところだよ!!」
重岡がちゃかしてきたので怒鳴り返す。
「ま、まじで痛いんだが…!?!」
「あの青いキノコが治療用になると思うの。」
「あのかごの中にある青いキノコか!?でも取るには集落の中に入らないといけないぞ!?」
「この際強行突破と行こうか。ここでじっとしててもたいした情報も得られそうにないしね。」
「よし行こう早く行こう!!」
「待って。」
新野さんが俺の手をギュッとにぎってくる。
「ほえっ?」
く、くっそやわらけえ…。
「これ、持って行って。」
渡されたのは、グレネードだった。
この人、爆弾魔なの?
「おい、なんか三人くらいがこっちに向かってくるぞ?」
「やつらの仲間じゃないのか?!であえであえ!!」
「おい、なんか槍とか持ってんぞ!!あの槍で俺の頭を一突きしてほしい!!」
「痛すぎて錯乱状態になってるのは分かるが、もう少し我慢しておくれ。」
「あの人達は私がヤル。」
そう言うと新野さんはいきなり加速し、前方の屈強そうな男二人を投げ飛ばした。
「うそーん。」
「あはは、さすが新野さんだね。」
何者なんだよ新野さん…。
「あった!青いキノコだ!!」
「!?危ない山田くんっ!!」
突然重岡が俺を突き飛ばした。
その頭上を矢が通り抜けた。
「ま、ままままじかよ!?弓はなしだろ弓は!!」
「はやくその青いキノコを持って逃げるんだ!!ここは僕が…」バサッ!「なんとかヤル!!」
なんでこいつこんな状態で全裸になったんだろう?こいつもキノコ食って錯乱状態だったんだろうか?
「さあこっちを見たまえ、ふはははは!!」
めっちゃ楽しそうだし…。
俺は青いキノコを頂戴し、物陰に隠れた。
「はあはあ、とりあえずこれを食って…ふええええええ。」
食った瞬間意識がとびそうなくらい気持ちが良くなった。完全にやべえキノコなんだけどこれ。もう食わん。
だが、その治癒力は本物らしく、頭の痛みは引き、キノコがとれて地面にポトリと落ちた。
「いける!この青キノコを新野さんにも届けないと!!」
物陰から二人の様子をうかがうと、信じられない光景があった。
すんげえでっかいキノコの化け物が、そこにいたのだ。
で、でかすぎる…!三メートルはあるぞ…!!
異常にでかいキノコを見るとどうやら人間は足がすくむらしい。だって全然足動かねえもん。
二人がどこにいるのかは分からないが、あいつに見つかるとやばいことは分かる。
頼むからどっか行ってくれ…!!できれば二人ともあいつに見つからないでくれ…!!
「おやおや、これはおっきいキノコだね。」
「爆弾でこんがり焼いてあげる。」
うーん、どうやら俺の神への祈りは届かない仕様らしい。