1-1:山田は変人達に、出会った~。
「んん…。痛ってえ…。」
教室が落ちたという人生初の体験に頭が混乱したのも束の間、俺は草の香りに包まれながら目を覚ました。
「森か?ここ。」
周りにあったのは木に次ぐ木。俺は森の中にいた。
「落ちて森の中に出たってことか?俺が女の子だったら不思議の国のアリスだな。」
痛みはあるが、大けがじゃないのが奇跡である。
「はあ、とりあえず、みんなを見つけないと…。」
これがどうゆう状況なのか、まったく分からないが一人だと正直寂しい。早く和田の顔を見て安心したい。なんだよ俺こんなに和田のこと好きだったのか。失ってから人のありがたみを知るんだな…。
「…?なんか水っぽい音がするな。これは…川の音か?」
水の音のする方へ足を動かす。何時間眠っていたのか分からないが、口が乾いて仕方がない。
「おお…川だ…。ありがてえ…、キンキンに冷えてやがる…。」
手ですくい水を飲み干す。
「ぷはあ…あ?」
のどの渇きを潤したところであることに気づく。
対岸にある人物がいたのだ。
いたのだが…。
「誰なのか分からねえ…。」
その人はまるで死んでいるかのように川にすっぽりと入り、お尻と背中だけ水から出ていた。
尻の形からして男みたいだが…。
「何をしてるんだ…?魚でも捕ろうとしてるのか…?」
おそるおそる近づく。浅瀬なのでおぼれる心配はなさそうだ。
「あの、大丈夫ですか…?」
「ぶごっ?」
ザバアッと顔が上がる。
「な、お前は…!」
「おやおや、これはこれは山田くんじゃないか。僕の綺麗な体を近くで見ようなんて…。今はダメだよ。夜にベッドの上でまた見せてあげるよ。」
「げえ…。」
男の体からは想像もつかないほどかわいらしい顔がとびこんできた。
こいつは重岡。男なのに女みたいな顔をしており、男なのに男を狙う狩人である。正真正銘2-Bの生徒だ。
学校のだいたいの男はこいつに抱かれたとまで言われており、2-Bの中でも要注意人物、接触禁忌種だ。
「お前には会いたくなかった。」
「そんな直球でフラれるなんて…開発のしがいがあるね。」
こいつとはまともな日本語を交せたことがない。正直話したくもない。だが…今の状況ではそんなことも言っていられない。
「あの、重岡。お前今のこの状況理解できてるか?」
「ああ、理解できているとも。」
「まじか!?みんなはどこに行ったんだ!?」
「何人かは川を下って行ったのを見たよ。街があると踏んでいるんだろう。」
「え、お前はなんでここにいるんだ?一緒に街探しに行かなかったのか?」
「ああ、僕は…。」
ふっと不気味な笑みを浮かべる。何か嫌な予感がする。というかなんでこいつ裸なんだ?
「なんで裸なのか、聞きたい顔をしているね。」
「ああ。濡れたくなかったのか?」
「まあそういう理由もあるが、運動の前に少し体を清めておきたいと思ってね。」
「へえ…。」
俺の足が一歩下がる。体が感知しているのだ、危険を。
「しかし、君のような”男の子”が来てくれて本当に良かった…。」
まだ夏でもないのに汗が噴き出る。
「僕は待ってたのかもしれない、こういう世界を。」
奴の目が、俺にロックオンしていた。
…守らなければいけない。
恐怖で足がすくみそうだったが、すくんだ瞬間刈り取られる。俺は恐怖を押し殺し、また一歩下がった。
「この世界でなら、僕は何をしても許される。」
守れ…俺の体を。親に貰った大事な体を…!!
「では…君のイチモツをもらうことにしようか…!」
走れ!!守るために!!
次の瞬間、俺は全速力で逃げ出した。
「はあはあはあ…!!」
殺されるよりもやばい目に会いそうになったのを阻止し、俺は木にもたれて休んでいた。
「あいつおっかなすぎる…。牢獄かなんかに入れたほうがいいんじゃないか…。」
「誰を牢獄に入れるの?」
「う、うわあああああああああああああああああああ!!?」
「??」
あいつがもう来たのかと思ったら、目の前には薄ピンク髪の可憐な少女が立っていた。
「大丈夫?汗すごいけど。何かに襲われそうになったの??」
この子は確か、新野さんだ。この子も2-Bの生徒で、かわいいのだが異常にマイペースで何を考えているのか分からない。だが、さっきのあの魔物よりはましである。かわいいし。
「あ~っと、新野さんこそ大丈夫?ケガとかしてない?」
「うん。大丈夫。むしろけがしたいくらいかな。」
ああ、この子もだいぶやばそうだ。さすが2-B。期待をまったく裏切らない。
「みんなを見なかった?どうやら何人かは川を下って行ったみたいなんだけど。」
「うん、見たよ。あれはたしか、和田くんとキモイ姉妹の妹ちゃんとキテレツちゃんだった。」
「和田!?」
生きてたのか和田ああ!?
「良かった、あいつがいればとりあえず大丈夫か。」
「山田くんて和田くんと付き合ってるの?」
「重岡じゃあるまいしそんなことないよ。そういえばどうして新野さんは一緒に行ってないの?」
「うーん、ちょっとここらへんを探索してみたくて。なんかここ、日本じゃなさそうだし。」
確かに見たことのないキノコが生えまくっている。キノコにくわしいわけじゃないが、どう考えてもこの世のものではない形のものもある。
「一人で探索なんて、心臓強いね。」
「お腹すいてない?」
うーん、マイペースだなあ。
「このキノコはさっき焼いて食べられたよ。食べる?」
「ほんと?…え、ここらへんのキノコ全部食べたの?」
「さすがにやばそうなのは食べてないよ。」
「ああ、そう…。」
キノコなんてやばそうじゃなくても普通食べなくないか…?
「あぶってあげるね。ちょっと両手を差し出しておいて。」
「ああ、うん。」
両手を差し出した。
新野さんは持っていた食べられるというキノコを空に向かって投げ…
ドゴオオオオン!!
空中で爆弾を破裂させ、キノコをこんがり焼いてくれた。
焼かれたキノコは俺の手の上に収まっている。
「どうぞ。」
「ああ、うん…。」
この状況よりもツッコミたいことが多すぎて、俺は逆に考えるのをやめた。